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第8話 【魔戦将軍】 虎徹


 【ディフェンド・キングダム】


 【ブレイド・オブ・ファンタズマ】と同じく【アストラル・インタラクティブ】が開発したMMORPGであり、その内容は中世ファンタジー世界を舞台に、自らの城と領地を守り抜くことを主眼に置いている。

 プレイヤーは国王や将軍となり、兵を率いて襲いかかるモンスター軍勢を迎撃する。

 しかしこのゲームは単なるタワーディフェンスではない。

 自らが操作する「英雄ユニット」が最前線で戦える点こそが、このゲーム最大の特徴であった。


 戦場では剣戟と戦術が交錯し、攻め込まれればリアルタイムで砦の配置を変更できる。

 同時に、味方兵の士気や補給線の維持まで管理しなければならないという、高い戦略性が人気を呼んでいた。

 そして、その戦場で「伝説」と呼ばれたプレイヤーがいる。

 その名を【正宗】

 分厚い盾と黒鉄の鎧をまとい、誰よりも前線で味方を守る男。

 【ディフェンド・キングダム】において、彼の名を知らぬ者はいない。


 彼が守る城は一度たりとも陥落したことがなく、その堅牢な防衛戦術からプレイヤーたちにこう呼ばれていた。


 【城塞将軍】と――


 ◆


 その【ディフェンド・キングダム】で、今まさに、彼の城に最後の大波が押し寄せていた。

 画面の奥から迫るのは、千を超える黒き獣兵の群れ。

 味方の士気ゲージが赤く点滅する中、正宗は戦斧を構え、一歩も退かずに吠える。


 彼が挑んでいるのは、プレイヤーの間で到達不可能とさえ囁かれた史上初の【ファイナルミッション】

 クリア率は公式によるとわずか0.01%。ゲーム開始直後からの判断力、城塞強化の最適化、資源管理、部隊編成、そして何百時間にも及ぶ実戦経験――そのすべてが噛み合って、ようやく挑む資格が得られるとされる超難関だ。


 正宗はそこに至るまで、幾多の危機を仲間たちと乗り越えてきた。

 深夜まで続いた攻略会議、ぎりぎりで守り抜いた防衛線、敗北から学び取った数々の教訓。

 その積み重ねが、今この瞬間――千の闇を前に立つ彼の背中を押していた。


 「全軍、戦闘準備!ここを守り抜けば……勝利です!」


 その声に呼応するように仲間たちは盾を掲げ、正宗を中心に半円状の防陣が素早く組み上がる。

 盾と盾が噛み合い、重装兵たちの足が大地へ沈み込むと、その場に鉄壁の城壁がせり上がったようだった。


 「押し返します!一瞬だけ前を――開けてください!」


 仲間たちが左右へ退き、前方に空白が生まれた。

 瞬間、正宗の戦斧が地鳴りのような轟音と共に振り下ろされる。

 大地が震え、突撃してきていた魔獣たちがまとめて吹き飛んだ。


 「第二陣、前へ! 正宗殿の背を守れ!」


 後方から支援術式が降り注ぎ、淡い光が防陣に灯る。

 崩れかけた仲間の呼吸が整い、盾が再び確かな重みを取り戻す。


 「負けるかぁっ!! うおおおおおッ!」


 正宗の斧が振るわれるたび、地には深い溝が刻まれていく。

 誰もが勝利を確信し始めた、その時だった。


 ――ズシン。


 重く湿った地鳴り。

 敵陣の奥を黒い影が割り、巨大な魔獣が姿を現した。


 「な、なんだ……あれ……!」


  巨獣は黒鉄の外殻をまとい、湾曲した角を天へ突き上げ、赤い瞳は熾火のように揺らめいていた。

 ただそこに立つだけで、周囲の空気が歪むほどの圧力を、常に周囲に放ち続けている。


 【震撃の魔獣】


 設定上は、古代王国を滅ぼした破滅の獣。

 その咆哮は士気ゲージを強制的に低下させ、地響きを伴う踏み込みは最強クラスの盾列であっても耐えられない。

 さらに戦闘AIは最高難度に調整され、プレイヤーの動きを学習して最適な破壊ルートを選択するため、単なるパワー型に留まらない。

 【ディフェンド・キングダム】においてラスボスに該当する存在であり、そのあまりに理不尽な強さのため、未だかつて討伐したプレイヤーは存在しない。


 魔獣が咆哮と共に左翼へ突進すると、盾列が砕け、味方数人が宙を舞う。

 続く巨大な腕の薙ぎ払いが、盾兵を次々と地面へ叩きつけた。


 「左が崩れた! 誰か!」


 絶望が広がる中、正宗が盾兵たちの前へ飛び出す。


 「……ここは僕が受け持ちます。 皆さんは下がって!」


 巨獣は地を抉りながら突進を開始。

 正宗は地面を砕くほどの一歩を踏み込み、戦斧と大盾を構えながら迎え撃つ。

 衝突――

 火花が爆ぜ、地面が割れ、周囲の兵が思わず尻もちをつくほどの衝撃が広がる。


 「まだ……だぁああッ!」


 押されそうな体勢を無理やり立て直し、正宗は上段へ斧を振り上げた。

 巨獣が身を固める、その刹那、戦斧が全力で振り下ろされた。

 骨を砕き、外殻を割り、巨獣の首筋へ深々と食い込む。

 巨体は崩れ落ち、重い砂埃が舞った。

 沈黙が場を支配し、味方全員が、ただ正宗の背中を見つめていた。


 やがて、システムアナウンスが高らかに響く。


 『討伐完了、味方勢力の勝利が確定しました』


 旗が風を受けて翻り、押し殺されていた歓声が爆発した。

 正宗はゆっくりと息を吐いた。


 ――『最終防衛戦、完全勝利』


 実況も観客も、全員が彼を称えていた。

 だが正宗は静かに盾を下ろし、呟いた。


 「……これで、やっと終わりか」


 ◆


 ログアウトの操作をする直前、画面に通知が届いた。


 【アストラル・インタラクティブより特別招聘プログラムのご案内】


 「……なにこれ?」


 半信半疑で開いたメールには、見覚えのある語り口があった。


 『親愛なる正宗様、この度は、僭越ながら【アルティメットクロニクル】へご招待のご案内を申し上げます――』


 丁寧すぎるほどの文章。

 読み進めると、内容はこうだ。

 正宗の防衛技術を、アルティメットクロニクル内の【六魔将】として使用してほしい、という依頼だった。


 「……人類の敵側か。 いやぁそれは少し気が進まないけどなぁ……」


 口調とは裏腹に、口角が少し上がってしまう。


 「モンスターの城を……人類から守る? うん、悪くないかも」


 正宗はヘッドセットを装着するとリンクを開き、新たに【アルティメットクロニクル】へログインした。

 視界が真っ暗になる。

 次の瞬間――静寂に満ちた空間に立っていた。


 「うわ、なんか……暗い……それにこの体、一体これは?」


 気付けば自らの姿が【ディフェンド・キングダム】の時とは全く違っていることに気付く。

 体が大柄になり、全身を漆黒の甲冑が覆っている。

 頭からは立派な角が生えており、まるで鬼のような印象を受ける。

 その時、空間が揺らぎ始めると、そこから一人の少年が現れた。


 「――お待ちしておりました、正宗様」


 整った声で執事のような丁寧な口調。

 どこか微笑んでいるような優雅な所作のその少年の正体は――アストラル君だった。


 『ご健闘、誠にお見事でございました。 どうか【六魔将】が一柱――第二将【魔戦将軍】として、その堅牢なる守護の才をお貸しいただきたく存じます』

 

 「ま、魔戦将軍……ちょっと名前、物騒すぎない?」


 「ご安心くださいませ。【魔戦将軍】はあくまで役職名、ならびに称号にございます。お望みとあらば、別のお名前をお付けいただいても差し支えございません」


 「え、そうなの? じゃあ名前か……どうしようかな……」


 正宗は腕を組み、その場で考え込む。

 もっとも、彼が悩んでいるのは名前だけだ。

 このゲームに身を投じる覚悟は、すでに決まっている。


 「ごゆるりとお考えくださいませ。正宗様のお越しを、魔王様も心よりお待ち申し上げております」


 闇の空間に、アストラル君の笑みが浮かぶ。

 こうして【六魔将】第二将――【魔戦将軍】がアルティメットクロニクルに降臨する。

 戦場を守ってきた男は、今度は人類側の脅威として、魔王軍最強のタンク職へと生まれ変わるのだった。

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