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第9話 【魔導元帥】 ぴろこ


 【タクティクス・アーク】


 それは、リアルタイム魔術戦略シミュレーションとして一時代を築いた名作ゲームだった。

 プレイヤーは【魔導国家】の総帥となり、都市を建設し、魔術研究を進め、他国との戦争や交渉を繰り返す。

 戦場では兵の操作だけでなく、地形、気候、そして大地に満ちる魔力の流れまでもが戦略要素となる、超高難度のタイトルだった。


 そんな過酷な頭脳戦の頂点に君臨するプレイヤーがいた。

 その名は【ぴろこ】

 関西弁で指示を飛ばし、軍勢を自在に操るその姿から、プレイヤーたちは彼女を【戦略女王】と呼んだ。


 「なんやねんそれ…… そんな配置で勝てると思ってるんか? 相変わらず甘いわぁ、ボナはん、あんたとっくに詰んどるで」


 「う、うるさい! まだ勝負は決まってない! それに俺はボナはんじゃない!」


 対戦相手は世界ランク二位の【ボナペティ】

 ぴろこを除けば世界最強と称される実力者であり、今回は彼なりの切り札を用いた、渾身の作戦を仕掛けてきていた。

 ボナペティの戦略──それは【擬似地脈】の構築だ。

 本来の魔力地脈の流れを隠すように偽の魔力ラインを重ね、相手に誤認させる高度戦術。

 ぴろこが得意とする地脈掌握を逆手に取り、意図的に見当違いの弱点へ誘導しようという、緻密な罠だった。


 「……ふふん。あんたなぁ、地脈に化粧して誤魔化したつもりかもしらんけどな、匂いが違うわ。 そんなしょっぼい仕掛けにうちが騙されるかいな」


 ぴろこはすでに看破していた。

 ぴろこは逆に偽地脈の周囲にわざと兵を集め、ボナペティの誘導に乗ったふりをしながら本命の地脈へ密かに圧力をかけ続ける。


 「ほな、仕舞いやなぁ。 【魔流の陣・反転式】起動っと」


 ぴろこが指を鳴らした瞬間、ボナペティが構築した偽地脈が逆流を起こし、彼の主力魔術網が一斉に停止する。


 「なっ!? 俺の地脈網が……崩壊しただと!?」


 「うちに地脈で細工しようなんて百年早いわ。 ほなトドメや──【焔蛇の陣】!」


 怒涛の魔力が迸り、炎の蛇が軍勢を飲み込みながら戦場を縦横に駆け抜けていく。


 「く、くそぉおおおお!!!!」


 ボナペティの陣形は数十秒で灰燼と化し、戦いは完全決着した。

 その瞬間【タクティクス・アーク】今シーズンの王者が確定する。

 ぴろこは2位ボナペティを圧倒的な差で退け、通算十シーズン連続制覇──史上最多の大記録を更新したのだ。


 「ふぅ……とうとう十連覇達成してしもたなぁ。 まあ、ある程度満足はしたけど、いい加減飽きてしもたなぁ……」


 勝利の余韻に浸ることもなく、ぴろこはふと画面を見渡す。

 ランキング、戦績、過去の対戦データ──どれだけ見ても、そこに自分以外の影はない。

 簡単に言えば強くなりすぎた。


 「周りを見渡しても、もう誰も追いついてこーへん……ボナはんですらここまで一方的にいてこましてしまえるんやったら、うちはこのまま続けても意味ないんかもな……」


 ぽつりと漏れた独白には、誇りではなく、空虚さが滲んでいた。


 そして、ぴろこはゆっくりとメニューを開いた。


 「……よし、決めたわ。ここらが引き際や」


 淡々とした声の裏に、長い間戦い続けたプレイヤーの深い決意が宿っていた。

 

 【ぴろこ:本日をもって【タクティクス・アーク】を引退します。長い間ありがとうございました】


 チャット欄にそう打ち込み、送信する。

 瞬く間に驚きと惜別のメッセージが流れるが、ぴろこはもう振り返らない。


 「今までお世話になりました……ほな、みんな元気でな」


 ログアウトボタンを押した瞬間、画面が暗転し、長く続いた戦場の喧騒は静かに消えていった。

 椅子にもたれ、天井を見上げながらぽつりと呟く。


 「……さて。ここから先、何しよっかなぁ」

 

 軽い虚無感を覚えつつログアウトしたぴろこが椅子にもたれたその時、モニター右上にひとつの通知が現れた。


 【アストラル・インタラクティブより】


 『親愛なるぴろこ様


 この度は、僭越ながら【アルティメットクロニクル】へご招待のご案内を申し上げます――』


 その表示内容にぴろこは眉を上げた。


 「なんやのこれ……アルティメットクロニクル?あのハイエンドMMOかいな」


 さらに読み進めると、そこにはこう書かれていた。


 『あなたを魔王軍幹部【六魔将】の第三将【魔導元帥】として招聘させて頂きます。あなたの采配で、六魔将を導いてください』


 「魔王軍の……元帥やて?」


 彼女は思わず笑った。


 「ほぉ……おもろいやん。あのゲーム、数千万人がプレイヤーとして参加しとるはずやからな、そいつらを全員敵に回してしばき回すとか……考えただけでにやけてくるわ」


 招待状の案内の通りに【アルティメットクロニクル】をインストールし終わると、即座にログインを試みる。

 周囲が闇に包まれ、辿り着いた空間で待っていたのは一人の少年だった。


 「お待ちしておりました、ぴろこ様、私、アストラル君と申します」


 「へえ、けったいなやっちゃなぁ、あんたがこのゲームの案内役かいな?」


 「いえいえ、私はただの魔王軍の執事でございます、以後お見知りおきを」


 「まあええわ、あんたがアルクロのことを色々と教えてくれるってわけやな。 よろしく頼むわぁ、っていうかうちの見た目、めっちゃ変わっとるやないか……って、牙まで生えとるやないか! 何かミステリアスな感じやなぁ」


 ぴろこの外見は、基本的には【タクティクス・アーク】時代のアバターを踏襲していたが、装備や外見の細部が大幅に変化していた。

 特に、口元で怪しく光る牙が、もっとも目を引く変化だった。


 「なあなあ、牙が生えとるってことはあれか?やっぱりうちは悪魔的な種族になるんか?」


 『ええ、ぴろこ様の種族は【吸血族(ヴァンパイア)】、知恵と魔力に秀でているぴろこ様にぴったりの種族かと……』


 「へええ、【吸血族(ヴァンパイア)】か……気に入ったわ、ますます面白いやないか!」


 やはり魔王軍の幹部、まさか【吸血族(ヴァンパイア)】になってしまうとは思わなかったが、むしろワクワクが止まらなかった。

 

 「ちなみに、お名前の変更も可能ですがどうしましょうか?」


 「ふふ……名前は……そうやな、ぴろこのままでええわ」


 ぴろこは無邪気に笑った。

 だがその瞳には、計算と野心の光が宿っていた。


 「ふふ……ほな、やったろか、この世界のプレイヤー、国、全部まとめて――うちの盤面に乗せたる」


 こうして、魔王軍第三将【魔導元帥ぴろこ】は誕生した。


 ――後に、この世界のすべてのプレイヤーから『人類の脅威』と呼ばれる存在となることを、まだ誰も知らなかった。

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