第7話 【黒騎士】ギガ林
【ブレイド・オブ・ファンタズマ】
アルティメットクロニクルを開発した世界的ゲーム開発会社【アストラル・インタラクティブ】がリリースしたMMORPGのタイトルだ。
アルティメットクロニクルほどではないにしろ、スマッシュヒットと呼ばれるほどには販売数が多く、世間の評価もかなり高い。
このゲームの特徴を一言で言えば【剣士専用ゲーム】
剣の道を究めんとする者が集う修羅の国が舞台となり、魔法も一応存在はするにはするが、それはあくまで補助的なものに過ぎない。
魔法を放つよりも、剣を振るい、斬撃で敵を斬り払う方が早い――そんな設計思想のもとに作られている。
プレイヤーは例外なく【剣を取る者】として登録され、職業も「ソードマン」「デュエリスト」「ルーンブレイダー」など、多彩な剣士系統から選択する仕組みだ。
防具や武器の細かなカスタマイズも可能で、流派や戦闘スタイルによってモーションやスキル構成まで変化するのが人気の理由となっている。
特に話題となったのは、プレイヤー同士の剣戟をリアルタイムで解析し、攻防の軌跡をAIが学習してスタイルとして保存するシステム【ファンタズマ・アーカイブ】。
これによって、過去の名プレイヤーたちの戦い方がNPCとして再現され、まるで伝説の剣士たちと対峙しているかのような感覚が味わえるのだ。
そして現在――
このゲーム内で最強を決める大会【キング・オブ・ファンタズマ】の決勝戦が繰り広げられていた。
決勝に残ったのは、長髪の男性剣士、そして相対するは赤髪の女剣士だった。
「ほらほら、どうしたメガ林! その剣、錆びついてんじゃないの?」
女性剣士は双剣を逆手に構え、電光石火の連撃を繰り出す。
その挑発混じりの声とともに、紅の残光が舞う。剣速だけなら彼女が上だ。
「さすがに速いな……だけどな紅玉、剣は速さだけじゃないって前に言わなかったか?」
それでもメガ林と呼ばれた男性は一切動じない。
静かに片刃の長剣を構え、最小限の動きでその全てを受け流していく。
剣同士が合わさった激しい金属音と共に、紅玉の双剣がはじき返され火花が散る。
「チッ……やっぱり強いね、あんた」
息を整えながら後退する紅玉の唇には悔しさよりも、むしろ愉しげな笑みが浮かんでいた。
「けどね、あたしも簡単には倒れないわよッ!」
次の瞬間、地を蹴る音とともに、紅玉の姿が掻き消える。
必殺スキル【紅閃】――高速移動と同時に七連撃を叩き込む必殺技。
ゲーム内でこのスキルは無敵に近い強さを誇っており、彼女がトップ勢に君臨出来ている理由の一つだ。
大技の炸裂に観客たちが息を呑む中、メガ林は剣をゆるやかに振り上げた。
「……悪いな、これで終わりだ!」
紅玉のスキルを完璧に見切ったメガ林は、狙いすました一撃を放つ。
放たれた斬撃は光の奔流となり、紅玉が放つ七つの太刀筋の軌跡を正確に断ち切る。
次の瞬間、会場に響いたのは――決着の鐘。
勝者、メガ林。
差はわずか、紙一重の勝負だった。
勝負が着いた瞬間、会場が一気にヒートアップし大歓声が降り注ぐ。
歓声が収まらない中、メガ林は静かに剣を収める。
闘技場のスクリーンにメガ林が映し出され、観客の全員がチャンピオンの第一声を待ちわびる。
そして、観客が見守る中、メガ林がぽつりと口を開いた。
「……ちょっとスカウトされたんでな。違うゲームに行ってくるぜ」
飛び出したのはあまりにも唐突過ぎる引退宣言だった。
誕生したばかりのチャンピオンの引退、その衝撃は闘技場全体を包み込み、会場には戸惑う観客の声が溢れ返っていた。
「はぁ!? 今なんて言った!?」
観客のどよめきの中、紅玉の怒声が響く。
「優勝してすぐ引退とか冗談じゃないわよ! こっちはあんた倒すためにどんだけ練習したと思ってんの!?」
怒りの形相で詰め寄る紅玉。
しかしメガ林はただ、どこか達観したように微笑んだ。
「悪いな、けど剣の道はひとつじゃないだろ?……まああれだ、またどこかで戦おうぜ!」
「そんなこと言ってまた……一体どうしたってんだよ!? このゲームでずっとあんたと戦い続けられると思ってたのに!」
「うーん、そう言われちゃうと悪いことした気になるな……ああそうだ、お前も【アルティメットクロニクル】に来いよ、今度はそこで勝負しようぜ!」
彼の姿はログアウトの光に包まれ始める。
「ちょ、ちょっと待ってよ! 【アルティメットクロニクル】ってあの巷で評判のアルクロってやつかい!? 本当にそこに行けば会えるんだな!?」
「ああ、先に行って待ってるからよ! じゃあな!」
その言葉を最後に、メガ林はログアウトしてしまった。
「まったく……カッコつけすぎなんだから、あんた」
残された紅玉は、しばし無言のまま立ち尽くしていたが、やがて肩をすくめて笑った。
◆
こうして、【ブレイド・オブ・ファンタズマ】の頂点を極めた男は、伝説を残して去っていった……
ゲームをログアウトした男性は続けざまにとあるゲームを立ち上げ始めた。
【ブレイド・オブ・ファンタズマ】の頂点とも言える【キング・オブ・ファンタズマ】優勝。
そして、宿敵・紅玉との決着。
この二つを同時に叶えた今、彼の心には次なる火が灯っていた。
画面に映るのは、荘厳な【アルティメットクロニクル】の文字。
「……俺の剣技を、流行りのアルクロで使え、とはな」
メガ林は苦笑を浮かべながら、指先でメッセージをスクロールした。
そこには、開発元【アストラル・インタラクティブ】の公式サインとともに、丁寧な文面が記されている。
『親愛なるメガ林様
この度は、僭越ながら私よりご案内申し上げます。
メガ林様を、人類の宿敵たる魔王軍の幹部【黒騎士】として正式にお迎えしたく存じます。
その卓越した剣技をもって、魔王軍の未来を切り拓く存在として、魔王様は深い期待を寄せておられます。
つきましては、この栄誉ある招待をどうかお受けいただけますよう、謹んでお願い申し上げます。
ご返答を頂戴できますことを、心よりお待ちしております。
魔王城執事 アストラル君より』
「しかも、人類の敵側として、か……」
メガ林は思わず息を漏らした。
敵として迎えられるなど、普通なら断るような話だ。
だが、彼は違う。目を細め、口元にわずかな笑みを浮かべる。
「面白いじゃないか……!」
その瞳はすでに次の戦場を見据えていた。
舞台がどれほど変わろうとも――剣を極めるという意志だけは揺らがない。
そしてメガ林は、新たなゲームへのログインを開始する。
ヘッドセットを装着し、メッセージに添付されたリンクをクリックすると、視界が光に包まれ、意識は再び仮想世界へと沈み込んでいった。
気がつくと、そこは薄暗い空間だった。
薄暗い空間に意識が馴染んだその瞬間――
「ようこそお越しくださいました、メガ林様。 私、魔王軍の執事を務めさせていただきます、アストラル君と申します」
突如として出現した少年が言葉を発する。
このあどけない少年があのメッセージの差出人だということに少し驚くが、しかしそれを受け止めるメガ林自身が――もはや、以前の姿ではなかった。
黒鋼の鎧が身体を覆い、髪の毛は青紫色になっている。
耳は尖り、見るからに魔族という感じの容姿だ。
「……これが、黒騎士の姿か。」
自らの姿形を確認するメガ林に対して、アストラル君は恭しく一礼する。
「魔王軍の最高幹部――【六魔将】 その第一将が、黒騎士様でございます。メガ林様がこの地位に就かれることに、魔王様も大いにお喜びになられるでしょう。」
その言葉に、メガ林はゆっくりと拳を握った。
魔人のような甲冑が、ゴリ……と低く鳴る。
「……いいだろう。」
メガ林は、黒騎士としての新たな声で宣言した。
「魔王軍【六魔将】――第一将、黒騎士の座、確かに引き受けた。」
「ご承諾、誠にありがとうございます。 それでは黒騎士様――魔王軍本城へのご案内を開始いたします。」
周囲の闇が、まるで幕が上がるようにゆっくりと揺らぎはじめ、魔王城へと続く光景がうっすらと形を取り始めたその時――
アストラル君が何かを思い出したかのようにふと動きを止め、優雅に一礼した。
「ひとつ、お伝えし忘れておりました、現在のメガ林様のお名前、この【アルティメットクロニクル】においてのお名前そのものは、変更が可能でございます」
「……名前を、変えられる?」
「ええ、現在のお名前のままでは、何か不都合がありそうな場合はご遠慮なくお申し付けください」
メガ林は思わずその場で立ち止まり、思案を始める。
別にこのままメガ林という名前でも全く不都合は無い、【ブレイド・オブ・ファンタズマ】で築き上げた名声は、自分としてはむしろ誇らしげですらある。
しかし、ここから先は完全に魔王軍の一員として歩むことになる。
新たな戦場、新たな立場、新たな物語……
名前をどうするかによって、この世界での自分の在り方まで変わってしまう気がした。
「このままの名前でもいい。 だが……黒騎士として新しい名を名乗るのも悪くないか。」
強者としての名を刻むべきか。
英雄と敵対する魔将として、新たな名を創るべきか。
あるいは、元の名に何かを加えるのも――。
アストラル君は、彼の答えを急かすことなく穏やかに微笑む。
「どうかごゆっくりお考えくださいませ、新たなる御名は、これから紡がれる物語の第一歩となりましょう」
メガ林、いや、黒騎士となった男は、静かに目を閉じた。
この世界で、自分は何者として生きるべきか。
その答えを探しながら、彼はゆっくりと名の候補を思い浮かべていった。
魔王軍最高幹部の六魔将、その中の第一将に該当する【黒騎士】誕生の瞬間だった。
少しでも面白いと思って頂けましたら、評価をお願いします。下にスクロールすると評価するボタン(☆☆☆☆☆)があります。
ブックマークも頂けると非常に喜びますので、是非宜しくお願い致します。
良ければ、感想もお待ちしております。
評価や、ブックマーク、いいね等、執筆する上で非常に大きなモチベーションとなっております。
いつもありがとうございます。




