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第5話 金輪奈落の大魔宮


 【金輪奈落の大魔宮】地下十一階――


 「あそこの地下に、こんな広いダンジョンがあるなんてな……」


 アストラル君の誘いを受けて辿り着いたのは、石造りのダンジョンだった。

 天井も壁も床も、すべてが黒ずんだ石で組まれているが、ところどころに魔力を帯びた灯りが設置されているおかげで、思ったほど暗くはない。


 むしろ――妙に見通しが良すぎる。


 目の前に広がるのは、ひとつの巨大なフロア。

 そこから放射状に、複数の通路が枝分かれするように伸びている。

 まるで迷宮というより、何かを迎え入れるための空間のような造りだ。

 そして、その通路の奥から――


 「……いるな」


 肌にまとわりつくような濃密な気配。

 あちこちの通路の先に、モンスターが群れているのがはっきりと分かる。

 数体どころじゃない『うようよいやがる』という表現が、これ以上なくしっくりくる密度だ。


 「レベル上げ用にしては、随分と物騒じゃないか?」


 「ご安心ください。ラグナ様の現在の強さからすれば、所詮は雑魚の集まりに過ぎません」


 「それでも、数が多すぎやしない?」


 視界に入るだけでも、通路一本につき十や二十では済まない。

 奥にはさらに気配が折り重なるように蠢いている。


 「ええ。魔王様のレベリング相手としては、これくらいの数がいないと物足りないでしょう」


 「なるほどな……」


 ……言われなくても分かってる。

 超越職【魔王】は、一つのレベルを上げるための必要経験値が高く設定されている、だったよな?

 俺は【魔王の剣】を手に取り、軽く構えた。

 禍々しい刃が、薄暗いフロアの灯りを反射して鈍く光る。


 「じゃあ、さっそく行かせてもらうか」


 通路の奥から、モンスターたちの唸り声が幾重にも重なって響いてくる。

 魔王としての初陣。

 そして――本当の意味でのレベリング開始だ。

 踏み出した一歩と同時に通路の奥から、無数の影が一斉に動き出すのがわかった。

 最初に飛び出してきたのは、獣型のモンスターだった。

 黒い石の床を蹴り、数体が一斉に距離を詰めてくる。


 「――遅い」


 踏み込み、【魔王の剣】を横一閃に振り抜く。

 剣圧だけで、先頭の数体がまとめて吹き飛んだ。

 斬った、というより押し潰したに近い。

 肉体は形を保ったまま、内部だけが破壊され、光の粒子となって霧散する。

 続く一体が跳びかかってくる前に、返す刃で縦に断つ。

 抵抗感はほとんどない。


 「――弱いな」


 通路から、さらに数体。

 だが、数が増えようが関係ない。

 一歩、前へ踏み出しながら剣を振るい、数体まとめて両断する、その繰り返しだ。

 背後から迫る気配には、振り向きざまに肘打ちを繰り出す。

 魔力を帯びた一撃が炸裂し、モンスターの胴体がひしゃげて床に転がる。


 「……うん、余裕だな」


 数十体を斬り伏せても、息一つ乱れもしない。

 通路の奥から、また新たな影が迫る。

 今度は数十体のトカゲ型のモンスターが群れを成して襲い掛かってくるのが見えた。


 「どんどん来いよ」


 今度はスキルを試してみるか……

 剣を両手で持ち、精神を集中する。


 「【魔王剣・黒蓮(こくれん)】!」


 剣を思いっきり振った瞬間、漆黒の闇が周囲に一気に吹き荒れ始め、モンスターたちを豪快に吹き飛ばし、一瞬で粒子に変えてしまった。


 「固有スキル……有能過ぎるな」


 魔王専用の固有スキルの威力は絶大で、大量のモンスターに対しての効果としては圧倒的だった。

 俺も今まで様々なスキルを使用してきたが、これほどまで殺傷能力を誇るスキルは無かったと思う。


 「……ん?」


 ふと気づく。

 通路の奥から押し寄せてくる気配が、さっきより濃くなっている。

 数が増えた、というより、間隔が縮まっている。

 倒しても、倒しても、すぐ次が来る。

 

 「ほう……」


 獣型に混じり、人型、爬虫類型、甲殻型と種類も増えてきている。

 気が付けば、足を止める暇もなくなっていた。


 「……少し、忙しくなってきたな」


 攻撃、回避、スキルで迎撃……それぞれの判断の間隔が短くなる。

 敵の数は減らずにむしろ、倒す速度に合わせるかのように、供給され続けている。

 その時、通路の向こうで、何かが蠢いた。


 一回り大きい影。

 魔力の質が、これまでとは違う。


 「雑魚だけじゃ終わらせてくれない、ってわけか」


 しっかりと力を込めるように剣を握り直す。

 通路の奥から新たな咆哮が響くと同時に、複数方向から気配が膨れ上がった。


 俺は小さく息を吐き、口角を上げる。

 魔王の初陣は、どうやら本気で殴り合う舞台を用意してくれているらしい。


 「……いいじゃないか」


 こうして、怒涛のモンスターラッシュへと飛び込んでいった。


 ◆


 そこから約二時間後――


 「ここがゴールか?」


 目の前には、怪しく光を放つ魔法陣。

 あれからほとんど休みなくモンスターを倒し続けながら進んだ結果、どうやら地下十一階の出口に到達したらしい。

 今の俺のレベルは……2。


 えーと……

 あれだけ大量のモンスターと二時間も戦い続けて――


 「……たった1レベルしか上がらないとか、鬼畜すぎない?」


 思わず天を仰ぐ。

 一時間経過したくらいでレベルが上がらない時点で薄々察していたけど、やっぱり必要経験値が多すぎるわこれ。

 まあ、さっきレベルが上がった時のステータスの上昇量は凄まじかった。

 確かに、これでポンポンレベルが上がったら、バランスが崩壊するのは間違いないな。

 ……魔王って、やっぱり面倒くさい職業だな。


 「でも……悪くないな」


 はっきり言って、地獄みたいなレベリングではあるが、その先にある景色は、どうやら相応に派手らしい。


 「このまま、もう一息暴れてみるかな?」


 そう言いながら一歩、淡い光を放つ魔方陣の上に足を踏み入れると、より一層激しい光を放ち始め、俺は新たな階層へ向かって転移していった。


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