第4話 汝は魔王、災禍を纏いて覇道を歩む者
超越職――
それはアルクロに存在する数あるジョブの中でも、頂点に立つ存在。
文字通り、あらゆる能力を超越する力を持つが、その職に就けるのはほんの一握り。
条件は不明、存在数も不明――まさに謎だらけのジョブである。
全世界で何人がこの超越職に就けているのかは謎に包まれているが、数千万人がプレイしている中で百人にも満たないなんて話も聞くほどだ。
……で、魔王ってジョブもその一つなのか?
情報量が多すぎて、頭がパンクしそうだ。
しかも俺の大事な【不浄の魔剣】が、勝手に【魔王の剣】に進化してるし!
禍々しさがさらに増して、まるで呪いの武器みたいな見た目になってるんですけど!?
他にも【魔王の鎧】、【魔王の盾】、【魔王の心臓】……禍々しいアイテムが勝手にアイテムボックスに放り込まれている。
「一体どうすればいいんだよ……」
――その時、不意に声が響いた。
「ラグナ様……魔王就任の権利獲得、おめでとうございます」
焦りと困惑で頭がショートしそうな俺の前に、再びアストラル君が現れた。
先ほどと全く同じ落ち着いた笑顔をこちらへ向けている。
「えーと……生きてたんだね?」
「はい、先ほどの【闇夜の悪魔 アストラル・シェイド】の姿は私の一つの姿でしかありません、従ってあの姿で倒されたくらいでは私は死にませんので」
「そうなんだ、ていうか俺って本当に魔王になれるのか?」
「はい、ラグナ様が討伐した【闇夜の悪魔・アストラル・シェイド】は、魔王になるための試練用の特別モンスターです、それをソロで討伐したラグナ様は、魔王となる資格を獲得されました」
「……で、魔王になったら俺はどうなるんだ?」
「超越職【魔王】に就くと、プレイ内容はこれまでとはまったく異なるものになります。恐らく今までのプレイ内容とは一線を画すものになるかと」
「そうなのか、それはそれで少し寂しい感じもするかもな」
「はい、基本的には通常プレイは不可能となり、人類の敵として活動していただくことになります」
「はぁ……なるほどな……」
人類の敵かあ、いや、薄々気付いていたが、はっきりと言われると若干の抵抗があるのも事実。
恐らく全てのプレイヤーと敵対関係になるのは避けられないのだろう。
土壇場になり、若干の躊躇を覚えた俺にとあるメッセージが表示される。
『NPC【アストラル君】より、アルティメットクエスト【汝は魔王、災禍を纏いて覇道を歩む者】への参加リクエストが届きました。リクエストを受理しますか?』
「………………っ!?」
アルティメットクエスト!?
その文字を見た瞬間、思わず目が飛び出しそうになった。
人は本当に驚くと、逆に声が出なくなるらしい――
アルティメットクエストとは――
アルクロには大小さまざまなクエストが存在している。
基本的にプレイヤーは【メインクエスト】を軸に進行するが、無数のサブクエストを組み合わせることで、無限の遊び方が可能だ。
だが、アルティメットクエストはそれらとは一線を画す。
超越職と同様に、出現条件・出現数ともに不明。
実際に受注できたプレイヤーは、世界中でもごくわずかだと言われている。
噂によれば、このクエストはゲームの核心に迫る存在。
クリアによって得られる恩恵は計り知れず、関連情報だけでも目が飛び出るくらいの高額で取引されているほどだ。
そんなものがいきなり目の前に出てきたんだ、驚くに決まっている。
「……いや、そうなると話が変わってくるんだが」
今までの経験を全て捨てて魔王になるのはリスキーだ。
だが、アルティメットクエストを受注できるチャンスなんて、二度と訪れないかもしれない。
俺の心は今激しく揺れている……興奮と不安がとてつもない勢いで入り混じっているのがわかる。
人類の敵となり、魔王として覇道を歩むか――。
フレンドや仲間と一緒にこのまま冒険を続けるか――。
……ん?
でもよく考えたら俺、フレンドも仲間もいなかったわ。
【孤高の魔剣士】だもんね。
ウィンドウを操作し、アストラル君のリクエストに回答する。
答えはもちろん――
「YESのお答え、確かに承りました、それでは早速まいりましょう。魔王ラグナ様の誕生です」
アストラル君の体が光を放ち、同時に俺の身体も輝き出す。
なるほど、これは以前、下級職から上級職【魔法剣士】にランクアップした時と同じ現象だ。
上級職から超越職にランクアップする時も、同じ現象が起こるのか。
そうこうしているうちに、俺の体がどんどん変化していくのがわかる。
【魔王】っていうことは種族も変わっちまうのか?かなり苦労して作成したこのアバターの見た目が変化するのはちょっと勘弁して欲しいよなぁ……なんてことを考えていると、やがて光は収まり、進化は完了した。
【魔法剣士】ラグナから【魔王】ラグナへ――。
俺の心配を他所に見た目はほとんど変わっていなかったが、身に着けている装備が全て漆黒の禍々しいものに変わっている。
どうやら自動で魔王装備が適用されたらしい。
角とか翼とかが生えるのを覚悟してた分、ちょっと拍子抜けだな。
一応、ステータスも確認しておくか。
名前: ラグナ
種族: 魔人族
ジョブ: 魔王【超越職】
レベル:1
HP(体力): 540
MP(魔力): 660
STR(筋力): 480(+400)
DEX(器用): 440(+400)
AGI(敏捷): 430(+200)
TEC(技量): 490
VIT(耐久力):440(+200)
LUC(幸運): 530
装備: 魔王の剣、魔王の鎧、魔王の盾、魔王の心臓
スキル:魔王固有スキル
……んー、正直に言おう。
ちょっと微妙じゃね?
「あのさ、アストラル君。ちょっと聞きたいんだけど……」
「はい、何でしょうか?」
「魔王っていう割には、ステータスがちょっと微妙じゃない?」
確かに強いとは思う。
装備の補正も含めるとそんじょそこらのプレイヤーよりも遥かに高いステータス値となっているし、スキルにもやばそうなのが揃ってるとは思う。
俺のプレイスキルも合わさればかなり良い線まで行くだろう。
だが、アルクロ内でのトッププレイヤーともなると、ステータス三桁後半は当たり前、中身は四桁に届くなんて者も存在するはずだ。
それに比べて仮にも魔王と呼ばれる存在がこんなもんで良いのだろうか?
トッププレイヤーの中には、俺と同等のプレイスキルを持つ者もいるだろう。
そうなれば最終的にはステータスやスキルが上の者が勝利に近づくのは間違いない。
プレイヤーとタイマン張って負ける可能性がある時点で魔王なんて名乗れないだろうに。
まあ、最終的には俺の研ぎ澄まされたプレイスキルで押し切れば良いんだけど、魔王ってこう……もっとでーんと構えてるもんじゃないの?
そこら中を飛び回って襲い掛かってくるラスボスなんてあまり聞いたことがなくない?
「良い質問です。 もちろん、確かに【現在の】ステータスは魔王であるラグナ様からすれば物足りないかもしれません、しかし……」
「しかし?」
「ご安心ください。ラグナ様にはまだまだ成長の余地があります」
アストラル君はそう言って、ゆっくりと俺の背後を指し示した。
「現在、ラグナ様がおられるこの【金輪奈落の大魔宮】は魔王専用の経験値獲得用ダンジョンです」
「経験値獲得用ダンジョンだと?」
「ええ、このダンジョンは全部で地下百階、魔王として成長するためのモンスターが数多く存在しています」
「……つまり?」
「簡単に言えば――魔王は、魔王として成長する必要がある、ということです」
アストラル君は、変わらぬ微笑を浮かべたまま告げる。
「現在のステータスは、あくまで魔王としての初期値、本来の力を取り戻すためには、この魔宮の地下で力を蓄えていただく必要があります」
「……なるほどな」
そう言われたら、確かに俺の現在のレベルは1だ。
魔王になってまでレベル上げをすることになるなんて思わなかった。
しかも専用のダンジョンまで用意されているとは……
まあ、他のプレイヤーに交じってフィールドや他のダンジョンでモンスターを倒す、なんてのはおかしな話だし、その点で言えば有難いのかもな。
「さあ、魔王ラグナ様、覇道の第一歩として――まずは、この魔宮のさらに奥へご案内いたしましょう」
その言葉と同時に、床に巨大な魔法陣が浮かび上がる。
どうやら、俺の魔王ライフは――ここからが本番らしい。
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