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第3話 蝶のように舞い蜂のようにクリティカル

 

 アストラル・シェイドの黄金の翼から放たれた衝撃波が、戦場全体を容赦なく押し流す。

 俺は抗う術もなく呑み込まれ、粒子と化して死亡した。

 ……はずだった。

 だが今、俺はこうして戦場に立っている。


 「いや危ねーよ! 死んだかと思った!」


 ――正確には、確かに死亡し、そして復活した。


 【救命の護符】


 即死級ダメージを一度だけ無条件で帳消しにしてくれる、超がつくほどのレアアイテム。

 入手条件は鬼畜そのもので、遭遇率激低のレアモンスター【ハートフルスライム】を狩り、そのドロップ率0.3%を引き当てなければならない。

 市場価格は一千万ゴールド超とも言われ、実際に持っているプレイヤーは片手で数えるほどだ。


 「……三年プレイしてやっとの思いで一枚だけ手に入れた伝説の護符、それをここで使う羽目になるとか……こうなったらもう後には引けないじゃんよ!」


 リスポーンしても、再挑戦できる可能性は低い……

 それなら、超貴重なアイテムを消費してでも、リスポーンを拒否し、先頭を継続することを選ぶ。

 粒子化して消えかけていた身体は完全に復元され、再び戦場へ舞い戻る。


 「くそっ! よりによって【救命の護符】まで消費させやがって!」


 ただの双剣ブンブン野郎だと思い込み、油断していた自分を殴り飛ばしたい衝動に駆られる。

 もう少し警戒していれば……落ち着いて対処していれば……あの攻撃から生き残る術もあったかもしれない。

 だがもう迷いも油断も微塵もない。

 【救命の護符】を無くしたショックで逆に頭が冷えたわ。

 俺は改めて相手を見据え、呼吸を整える。


 幸い、あの衝撃波は連発できるような技じゃないというのが俺の見立てだ。

 いかにステータス四桁の化け物とはいえ、それだけのリソースは持ち得ていないはずだ。

 案の定、【アストラル・シェイド】は双剣を構え直し、再び接近戦を仕掛けてきた。


 「よーし、今度はこっちのターンだ」


 冷静に対処すれば、奴の通常攻撃は怖くは無い。

 敵の猛攻を躱しながら、ヒット&アウェイで斬撃を叩き込む。

 先ほどのように無謀に踏み込みはせず、冷静に、そして着実にダメージを積み重ねていく。


 ――やがて戦況は、俺の一方的なペースに傾いていた。


 「蝶のように舞い……蜂のようにクリティカル!」


 ……我ながら何を叫んでいるのだろうか。

 まあ、今の俺は正に蝶のように敵の攻撃を華麗に避けまくり、蜂のように急所を突きまくっていた。

 怒涛の連撃を浴びたアストラル・シェイドは苦悶の咆哮を上げ、後退る。

 追い詰められた巨躯が再び黄金の翼を広げ、光を帯び始めた。


 「来たな……また衝撃波!」


 だが今度は準備万端。俺には策がある。


 「いくぞ!――【エアリアル】!」


 風魔法【エアリアル】、突風を引き起こし敵を吹き飛ばす効果を持つが――

 俺はこの風魔法を足下に叩きつけ、自らを空へと弾き飛ばす。

 衝撃波は水面の波紋のように横方向へ広がる仕様となっている、ならば真上に飛んでしまえば確実に避けられる。


 「弱点……見つけたぜぇ!」


 強烈な衝撃波が戦場を薙ぎ払う中、俺だけが頭上から敵を見下ろしていた。


 「さて、こっからは逆襲タイムだ……行くぞオラァアアア!!!!」


 空中で自由落下しつつ、錐揉み回転し、全身の力を剣に集中させ――まるで一つの竜巻となって敵に突き刺さる。


 「くらえぇぇぇぇえええええ!!!!」


 剣がアストラル・シェイドの頭蓋を直撃する。

 落下の重力と回転の遠心力を計算に含めた、文字通り全力の一撃だ。


 『ヴァァアアアアアアアア!!!!』


 凄絶な断末魔を響かせながら、アストラル・シェイドは崩れ落ちた。

 HPゲージはゼロ。勝利は確定だ。


 『……お見事でした……よくぞ我が試練を乗り越えられました……ラグナ様こそ、闇の住人を統べし者となるに相応しい……漆黒の魔王たる証を受け取り……そして、この世に災厄をもたらす存在となるのです……』


 そう言い残し、アストラル・シェイドは粒子となり消滅していく。


 「……っしゃぁ! 倒してやったぞ! でも、この世に災厄とか、ちょっと物騒すぎない?」


 『闇夜の悪魔 アストラル・シェイドの討伐を確認しました』

 『装備品【魔王の鎧】を獲得しました』

 『装備品【魔王の盾】を獲得しました』

 『【不浄の魔剣】が【魔王の剣】へと進化しました』

 『アクセサリ【魔王の心臓】を獲得しました』

 『超越職【魔王】への進化が可能となりました』

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