↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
29/35

第28話 異変の気配


 魔王城内部、会議室――


 「あれ? 何か変じゃない?」


 不意に、ヴァイオレットが声を上げた。


 「どうした?」


 俺が問い返すと、彼女は少し眉をひそめながら指を伸ばす。


 「いや、ちょっと……あれを見て欲しいんだけど」


 その指先が示していたのは、魔王城に表示されている全域マップだった。

 そこには【八神獣】の位置を示す光点が表示されている。

 そのうちの一柱――【天空竜王・グランディエル】は、先日俺たちが討伐し、魔王軍に加えることに成功している。

 そのため、現在地図上に存在する光点は七つ、本来であれば、それで何もおかしくはない。


 「えーと、それがどういう……?」


 ぱっと見では、違和感はないように感じるが……


 「気付かないの? あの真ん中辺りの光点の場所――何か変じゃない?」


 ヴァイオレットに言われて、視線を地図の中央付近へと向ける。

 そこに表示されている光点、その位置は――


 「……あそこは……確か【ノクティルカの森】か?」


 初心者から中級者まで、多くのプレイヤーがレベリングに利用する有名なダンジョン。

 常に人の出入りが絶えない場所だ。


 そして、その光点の上には――【魔影黒狼】アビスハウル。


 その名が、はっきりと表示されていた。


 アビスハウル……。

 グランディエルと同格と見ていい、【八神獣】の一柱。


 そんな存在が、よりにもよって【ノクティルカの森】にいる。


 「……あれ?」


 思考の途中で、ふと違和感が引っかかる。


 「……確かにおかしいな」


 思わず、低く呟く。


 「何でそんなところに【八神獣】がいるの? ……そもそも、前はあんな場所に光点なんてあったかしら?」


 ヴァイオレットの言葉に、周囲の空気が一変し、ざわりと緊張が走った。


 「あんなプレイヤーだらけの場所に……【八神獣】なんて出現したら……」


 そんなこと、想像するまでもない。

 伝説級モンスターをあの密集地帯に放り込めば――結果は地獄だ。


 「前に確認した時、【ノクティルカの森】に光点なんてなかったはずだ」


 「ということは、【八神獣】が移動しているのか?」


 その事実が、じわりと背筋を冷やした。


 「……一体、何が起こってるんだ?」


 誰に向けるでもなく呟く。

 だが、この場で推測を重ねても埒が明かない。


 「とりあえず、アストラル君に事情を聞くか。おい、アストラル君はいるか?」


 「はい、ラグナ様。お呼びでしょうか?」


 間を置くことなく、すぐ背後に気配が現れる。

 振り返れば、いつも通りの落ち着いた様子でアストラル君が一礼していた。


 「これは一体どういうことだ? 何故、【八神獣】を示す光点が移動している?」


 問いかけに対し、アストラル君は一瞬だけ視線を地図へと向けると――


 「……申し訳ございません。現時点では原因は不明です。少なくとも、私には把握できておりません」


 「原因不明かよ……」


 ギガ林が低く呟く。

 アストラル君が分からないということは、現時点で俺たちに原因を把握する術はないということだ。

 場の空気が、さらに重く沈んだ。


 「さて、どうする?このまま放っておくのか?」


 その問いに、俺はすぐには答えなかった。

 視線は、地図の中央――【ノクティルカの森】に浮かぶ光点へと向けたままだ。


 「……」


 暫し、思考を巡らせる。

 確かに、放置するのはよくないのかもしれない。

 あんな初心者だらけのダンジョンに、ラスボスクラスの【八神獣】が出現したら――それこそ地獄だ。


 だが――


 (……待てよ?)


 ふと、別の考えが頭をよぎる。


 俺たちは魔王軍だ。

 プレイヤーたちに対して、特別な義理があるわけじゃない。


 仮にあそこにいる連中が全滅したとしても――

 それはゲームとしての結果に過ぎない。


 むしろ、それこそが魔王として正しい在り方なのかもしれない。


 そこまで考えて、小さく息を吐く。


 (……いや)


 もう、答えは出ている。

 この感情はそんな、理屈から出てきていない。

 もっと単純で、本能的な理由――それは、あいつと戦ってみたいという感情だ。


 【八神獣】が通常のダンジョンへ。唐突に移動する。


 突発イベントか、それとも未知のフラグか。詳細は分からないが――

 そんな想定外が目の前に転がっているのに、無視する理由があるか?


 (……せっかく、魔王になったんだ)


 胸の奥が、わずかに熱を帯びる。

 こんな面白そうなところに顔を出さないなんて――あり得ない。


 「……行くか」


 思わず、声に出していた。

 その直後に、ふと我に返る。

 少し独断が過ぎたか――そう思ったが。


 「面白そうだな」


 即座に、ギガ林が短く呟いた。


 「やっぱりそうくると思いましたよ」


 虎徹は苦笑しながらも、どこか楽しげに肩をすくめる。


 「戦ってみたいニャー!」


 獅音は尻尾をぶんぶんと振り回している。


 「……影の狼、撃ち抜いてみたい」


 ショコラはいつも通り、既に臨戦態勢だ。


 「ほんと、戦闘好きなんだから……まあ、付き合ってあげるわよ」


 ヴァイオレットも呆れたように言いながら、完全に乗り気だった。


 「お前ら……」


 思わず、口元が緩む。

 魔王軍の訓練でこの場にいないぴろこを除けば、全員が同じ方向を向いている。


 (……やっぱり)


 このメンバーは、最高だとつくづく実感する。

 こんな唐突な事態にもかかわらず、誰一人として躊躇しない。

 むしろ、その状況すら楽しもうとしている。

 危険だとか、リスクだとか、そんなものは二の次で、ただ純粋に目の前に転がってきたイベントを楽しむ。

 アルティメットクロニクルというゲームを、全力で遊び尽くそうとしている。

 その姿勢が、何よりも頼もしくて――そして何より、心地よかった。

少しでも面白いと思って頂けましたら、評価をお願いします。下にスクロールすると評価するボタン(☆☆☆☆☆)があります。

ブックマークも頂けると非常に喜びますので、是非宜しくお願い致します。


良ければ、感想もお待ちしております。


評価や、ブックマーク、いいね等、執筆する上で非常に大きなモチベーションとなっております。

いつもありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。