第27話 四天王
【金輪奈落の大魔宮】地下二十階――
「おっしゃぁ! これで、とどめだぁ!」
「キシャァアアア!!!!」
断末魔の咆哮を上げた巨大な蝙蝠型のモンスターの頭部に、俺の斬撃が深々と食い込み――次の瞬間、光の粒子となって崩れ去った。
「……っしゃ、勝ったな」
軽く息を吐きながら、剣を肩に担ぐ。
現在、俺たちは自分たちのレベルを引き上げるために、この【金輪奈落の大魔宮】へと潜っている最中だ。
そして今しがた、地下二十階のボスモンスターの討伐を終えたところだった。
地下二十階のボスは【ナイトグラスパー】、体長五メートルはあろうかという蝙蝠型のモンスターだった。
周囲に致死毒を含む瘴気を撒き散らし続けるのみならず、強力な超音波での攻撃を絶え間なく放ってくる強敵だったが、何とか討伐に成功した。
今回のメンバーは五人。
俺を筆頭に、ギガ林、虎徹、獅音、ショコラ。
なお、ヴァイオレットはリアルの都合で不参加。
ぴろこはログイン自体はしているものの、「魔王軍の育成を進めたい」とのことで別行動を取っている。
そのため、今回はこの五人でのダンジョン攻略となっていた。
「にしても……二十階層のボス、普通に強かったな」
消えていく粒子を眺めながら、ぽつりと呟く。
「確かにな。でも、なかなか経験値的には美味しかったぜ」
「レベルも上がったニャー!」
「でも、これで五時間くらいぶっ続けでプレイしてますよね」
「……疲れた」
ショコラの一言に、全員がどこか同意するように沈黙する。
確かに、ここまでずっと【金輪奈落の大魔宮】に潜りっぱなしだった。
集中し続けていた反動もあってか、どっと疲労が押し寄せてくる。
「……そろそろ、一回戻るか?」
そう提案すると、
「賛成だな」
「一旦休憩したいニャー」
「異議なしです」
「……ん」
全員が素直に頷いた。
「よし、それじゃあ、魔王城に戻るとするか」
俺はそう言ってウインドウを開き、帰還の操作を行う。
次の瞬間、足元に幾何学模様の魔方陣が展開された。
淡い光が円環を描き、五人の身体を包み込んでいく。
「お、来た来た」
「転送ニャー」
視界が白く染まり、ふっと、重力が消えるような感覚が起きる。
そして、次に視界が開けた時、俺たちは見慣れた場所に立っていた。
魔王城――玉座の間
高くそびえる天井、赤黒い絨毯が一直線に伸び、その先には禍々しくも威厳ある玉座が鎮座している。
「……やっぱ落ち着くな、ここ」
誰ともなく呟く。
「お帰りなさいませ、皆様」
聞き慣れた穏やかな声が、背後からかけられる。
振り返ると、そこに立っていたのはアストラル君だった。
「ちょうど良いタイミングです。ぴろこ様が皆様をお呼びです」
「ぴろこが?」
思わず聞き返す。
「はい。現在は、魔王城地下の訓練施設にいらっしゃいます」
訓練施設――
確か、ぴろこは魔王軍の育成をするって言ってたな。
俺たちはそのまま、魔王城の地下へと向かった。
階段を降り、長い回廊を抜け、その先に広がっているのは、地下とは思えないほど広大な空間。
まるで一つの戦場そのものが切り取られたかのような、巨大な訓練施設だった。
「グオオオオオッ!!」
「ギャアアア!!」
視界の先で繰り広げられていたのは、モンスターによる戦闘。
ざっと見ただけでも、千体はいるだろうか。
無数のモンスターたちが、統制の取れた動きで部隊を組み、互いにぶつかり合っていた。
「……すごいな、ちゃんと演習みたいになってるじゃないか」
俺が以前に魔王軍を見た時は、ただのモンスターの大軍――いわば数だけの烏合の衆といった印象だった。
統制の取れた動きなど、微塵も感じられなかったはずだ。
しかし、目の前に広がる光景は、その記憶を完全に覆していた。
モンスターたちは明確に部隊を編成し、それぞれが役割を持って動いているように見える。
そして、その手前には、椅子に腰かけながら、全体を見渡している一人のプレイヤー。
「おー、来た来た、遅かったやんか!」
ぴろこが、こちらに気付き、満面の笑みで手を振った。
「……すごいじゃないか、これ」
率直な感想が口をつく。
この短期間でモンスター相手に、こんな連携を叩き込むなんて、並の手腕じゃない。
「そやろ?」
ぴろこは胸を張り、得意げに笑う。
「ただのモンスターの集まりやったのに、ここまで練兵できるって……やっぱり、うちは賢いわー」
完全に自画自賛だった。
だが、その内容に関しては否定のしようがない。
「基本的に魔王軍のモンスターもな、烏合の衆みたいなもんやねん」
ぴろこは再び視線を戦場へ戻しながら続ける。
「せやから、とりあえず基幹に使えそうなやつを選抜して、こうやって訓練してるんよ、それがここにおる連中やね」」
ぴろこが指先で、戦場の一角を示す。
確かに以前、俺が魔王軍を初めて見た時は、こんな規模じゃなかった。
目の前の千体どころではない。あの時は、数千、いや数万規模の大軍だったはずだ。
だが、今ここにいるのは、その中の一部。
「……なるほどな」
思わず、小さく呟く。
あの膨大な数の中から、基幹として使える個体を選び抜き、こうして訓練を施している――
つまり、ここにいるのは、魔王軍の中でも選りすぐりの精鋭というわけか。
やねん」
上記の構成で作成して欲しい。
確かに、短期間で魔王軍全体の練度を引き上げるのであれば、このやり方が最も効率的だろう。
無秩序な大軍のままでは扱いきれない。
ならば中核となる戦力を先に鍛え上げ、そこを軸に全体を底上げしていく――理にかなっている。
「……さすがだな」
思わず、感心したように息を吐く。
「【タクティクス・アーク】の王者は伊達じゃない、ってわけか。この手のことに関しては、右に出るやつはいないな」
「せやろ?」
ぴろこは得意げに笑い、くるりとこちらへ向き直る。
「ああ、それと……おーい! 集合!」
軽く手を挙げながら声を張ると、戦場の一角から、四つの影がこちらへと駆けてきた。
やがて俺たちの前で足を止めたのは――
炎のような赤い鱗を持つ飛竜。
不気味な静けさを纏い、杖を携えたスケルトン。
重厚な鋼鉄の身体を軋ませるゴーレム。
そして、人間ほどのサイズを持つ巨大な蜘蛛。
「紹介しとくわ」
ぴろこは満足げに頷きながら言う。
「うちが見出したモンスターの中でも、特に知能が高い四体やな」
四体は、それぞれにこちらへ視線を向けてくる。
確かに、ぴろこの前で畏まるその姿勢は、他のモンスターとは一味違う、明確な意思を感じさせた。
「えーと、まずは――」
ぴろこは一体目へと手を向ける。
「レッドドラゴンやね。名前はまだ付けてないから……とりあえず一号で」
そう呼ばれた飛竜――一号は、ぐっと胸を張る。
炎のような赤い鱗がわずかに揺らめき、その姿にはどこか誇らしさが滲んでいた。
「次に、スケルトンメイジの二号」
杖を携えた骸骨のモンスターは、静かに一歩前へ出ると、丁寧に頭を下げた。
その動作は無駄がなく、どこか洗練されている。
「アイアンゴーレムの三号」
重厚な鋼鉄の巨体が、ぎしりと音を立てながら膝を折り、低く身を屈める。
「最後に、ジャイアントスパイダーの四号やね」
巨大な蜘蛛が、カサカサと関節を鳴らしながら前へ出る。
その複眼がこちらを捉え、じっと観察するように動いた。
「とりあえず……四天王ってところかな?」
ぴろこは満足げに腕を組む。
「たくさんのモンスターを見さしてもろたけど、この四体がダントツで優秀やったわ」
なるほど、と内心で頷く。
ぴろこが見出したこの四体を中核として、魔王軍全体を育てていくというわけか。
俺自身も、魔王軍をこのまま拡大させていけば、いずれ俺と六魔将だけでは統括しきれなくなる――そんな懸念は感じていた。
だが、それはあくまで「考えていただけ」に過ぎなかった。
対してぴろこは違う。
すでに行動に移し、部下の中から優秀な個体を選抜し、幹部候補として育てるという明確な方向性を打ち出している。
(……やっぱり、この辺りはすごいな)
素直にそう思う。
俺も、見習うべき部分だろう。
「どや? ラグナはんさえ問題なければ、この方向でどんどん育てていくけど?」
ぴろこがこちらを見て、確認するように問いかけてくる。
「ああ、全く問題ない。どんどん進めてくれ」
即答だった。
むしろ、ここまで形にしてくれている以上、止める理由なんてどこにもない。
「承知やね! それじゃビシバシいくでー!」
ぴろこは満面の笑みでそう言い、再び戦場へと視線を戻す。
その背中には、確かな手応えと自信が滲んでいた。
「――それと、もう一つ」
ふと思い出したように声をかける。
「ん? なんや?」
ぴろこが首を傾げる。
「四天王が一号とか二号じゃ、さすがにちょっと味気ないだろ。 何か名前を考えた方がいいと思うんだが……」
「……ああ、確かにそやな!」
一瞬の沈黙の後に、ぴろこはぽん、と手を打った。
「うん、今度までに何かええ感じの名前、考えとくわ!」
軽い調子の一言だが、これが後に、魔王軍の中核戦力として名を轟かせることになる【四天王】誕生の瞬間だった。
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