↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
26/35

第25話 繋絆の儀


 【繋絆の儀】――


 【八神獣】を配下に加えるために、たった今、俺が新たに獲得したスキルだ。


 発動には、明確な条件が存在する。

 対象となる【八神獣】に勝利していること。

 それは単純に討ち倒すだけでなく、相手が自ら敗北を認めた場合も含まれるらしい。


 そして、目の前にいるグランディエルは、つい先程、自ら敗北を認めた。

 つまり、条件はすでに満たされているということだ。


 「それでは、ラグナ様、早速【繋絆の儀】を使用して下さい」


 アストラル君が、畏まった口調でそう告げる。

 その言葉に背を押されるように、俺はゆっくりとグランディエルの前へと歩み寄った。


 「……おい、本当にいいんだな? 俺の配下になるってことで」


 最終確認のつもりで問いかける。


 『ふん……我の言葉に二言は無いわ……気が変わらぬうちに、さっさと為さねばならぬことを為すが良い』


 グランディエルの声には、誇りとわずかな覚悟が滲んでいた。


 ……それならもう、迷う理由はない。

 俺は静かに息を吐き、意識をスキルへと集中させる。


 「【繋絆の儀】、発動!」


 その瞬間、グランディエルの足元に、眩い光を放つ巨大な魔方陣が出現した。

 幾重にも重なり合う紋様や古代文字のような符号が、円環に沿って脈動するように輝いている。

 次の瞬間、魔方陣の中心から、黄金の鎖が音もなく噴き上がった。

 幾本もの鎖は生き物のようにうねりながら宙を駆け、グランディエルの四肢へと絡みついていく。


 『……ぬぅ?』


 反射的に身構えるが、グランディエルは動かない。

 黄金の鎖はさらにその身へと巻き付き、やがて胸元へと収束していく。


 『……なるほどな、奇妙な感覚だ……しかし、不思議と嫌な感じはせんな』

 

 グランディエルが低く唸るが、拒絶はしていない。

 そして、その変化は俺の側にも訪れていた。


 「……なんだ、これ……」


 胸の奥が、じわりと熱を帯び、そこへ何かが流れ込んでくる。


 これは……グランディエルの感覚か?


 力の奔流、荒々しく、それでいて統制された膨大な魔力、誇り高く、孤高で、決して折れぬ意思。

 それらが断片的に、しかし確かに、俺の内側へと流れ込んでくる。


 「これが……【繋絆の儀】……」


 それは、お互いの境界が曖昧になり、俺とグランディエルの線引きが溶けていくような――まるで、魂同士が直接結び付けられていくかのような感覚だった。

 黄金の鎖は淡く光を増し、やがて粒子となって空中へと溶けていく。

 そして、最後に残った光が、グランディエルの胸と、俺の胸を一瞬だけ繋ぐように細く伸び、静かに消えた。


 『契約は成された……これより我はお主の配下となる……新たな我が主の名は――魔王ラグナ』


 グランディエルはそう言いながら、ゆっくりと深く頭を垂れる。


 「ああ、こちらこそ、よろしく頼む」


 これで、【天空竜王・グランディエル】は魔王軍の配下、つまり俺たちの仲間になったということになる。

 魔王軍始動の最序盤からこんな心強い仲間が出来るなんて、幸先いいなんてもんじゃないな。


 「――これにて【繋絆の儀】は無事完了です」


 静かに歩み寄ってきたアストラル君が、いつもの落ち着いた声音で告げた後、わずかに視線をグランディエルへと向ける。


 「せっかくですので、名前をお付けになってはいかがでしょうか?」


 「名前?」


 俺は思わず聞き返す。


 「はい。せっかく仲間になったのですから、親しみを込めて新たに名を与える――それは主従の関係をより強固にするだけでなく、互いの距離を縮める意味合いも持ちます」


 「距離を縮める、ねぇ……」


 ちらりとグランディエルを見る。


 ……気のせいか?

 さっきまでと同じ無表情のはずなのに、その黄金の瞳の奥に、わずかな揺らぎがあるように見える。


 心なしか、期待してるような……

 え?ちょっとワクワクしてないか?


 「……おい、名前なんて付けられることに抵抗とか無いのか?」


 『ふん……名前などどうでも良いわ』


 間髪入れずに返ってくる、いかにもらしい尊大な物言い。

 だが、ほんのわずかに間を置いてから、続ける。


 『……まあ、どうしてもと言うのなら、聞いてやらんことも無いがな』


 うん、やっぱりめちゃくちゃ期待してるよねこれ。


 「……あのさ、やっぱり期待してるよな?」


 『な、何を言うか! 我がそのような――』


 言いかけて、ほんの僅かに言葉が詰まる。

 その一瞬で、確信に変わった。


 「あーはいはい、分かった分かった」


 『ぐっ……』


 不機嫌そうに顔をしかめるグランディエル。

 【繋絆の儀】を終えたらちょっとだけキャラ変してないか?


 まあ、そこまで楽しみにしてるなら、名前を付けてやるのも、やぶさかではないがな。

 確かに、グランディエルという名前は、少し呼びにくい面もあるのは否めないし……


 そこまで考えて、ふと思い出す。


 「……そういや、あったな」


 「はい?何でしょうか?」


 アストラル君が小さく首を傾げる。


 「アルクロで、テイマー系のプレイヤーがモンスターを仲間にした時に、名前を付けるシステムさ」


 仲間にした個体に、自分で名前を与える。

 あれも確か、ステータス的な補正とか、愛着度みたいな要素に関係してたはずだ。


 「まさか、こんな形で同じことやるとはな……」


 思わず苦笑が漏れる。


 「……まあ、名前をつけるっていうのは、良いアイデアやないか?」


 ぴろこが横から口を挟んできた。


 「俺も賛成だ。正直、グランディエルって毎回呼ぶのは、ちょっと長い気がするしな」


 「……長いと面倒」


 「戦闘中に呼ぶには、少し扱いづらいかもしれませんね」


 「呼びやすい方が連携もしやすいしね」


 「可愛い名前がいいニャー!」


 他の仲間からも次々と賛同の声が上がる。


 「……よし、それじゃあ――どんな名前にしようか?」


 名前を付けるのは決定、それならばどんな名前にするべきか?

 口にしたものの、すぐには思い浮かばない。

 腕を組み、改めてグランディエルを見る。


 黄金の体躯、圧倒的な威圧感、竜王と呼ぶに相応しい風格――

 下手な名前を付ければ、逆にしっくり来なくなる気がする。


 「うーん……」


 自然と唸り声が漏れる。

 しばらくの間、その場に沈黙が落ちた。


 そんな中――


 「ラグナ様、この場合、名を与えるのは魔王であるラグナ様ご自身が最も適しているかと」


 「……は?」


 思わず間の抜けた声が出る。


 「いやいや、ちょっと待て」


 軽く手を振って否定しようとするが――


 「確かに、それが一番しっくり来るな」


 「……ラグナが決めるべき」


 「せやな、それがええやん!」


 仲間たちから、間髪入れずに同意の声が飛んでくる。


 「ええ?俺が?」


 思わず素で聞き返してしまう。


 「契約したのラグナだし」


 「ここで他の誰かが決めたら、逆におかしいと思いますよ」


 「責任持って決めるべきニャー!」


 「……マジかよ」


 軽く頭を掻きながら、もう一度グランディエルへと視線を向ける。

 当の本人は、静かにこちらを見据えたまま、やり取りを静観しているようだ。


 「……はぁ」


 小さく息を吐く。

 逃げ道は、なさそうだ。


 「分かったよ……俺が決める」


 さて、とは言ったものの、どうしたもんか。

 正直、こういう名付けってセンスに自信があるわけじゃない。

 下手なこと言って滑る未来が、うっすら見えてるんだが。


 「……うーん」


 腕を組んで、しばらく考え込む。

 グランディエルの姿を改めて見ながら、頭の中でいくつか候補を浮かべては消し、やがて、一つだけ、妙にしっくり来るものが残った。


 「……よし」


 覚悟を決める。


 「グランディエル、お前の名前は、今から――【グラン】だ」


 ――沈黙。


 一瞬、場の空気が固まる。

 そして、次の瞬間。


 「めちゃくちゃシンプルやないか!」


 「そのままだよな……」


 「ちょっと拍子抜けだニャー」


 「さすがにもう少し捻って欲しいというか……」


 「……安易」


 「お前らなぁ!?」


 仲間たちから、容赦のない非難が一斉に飛んでくる。

 なんだよ!だから自信無いって言っただろうが!


 「いや、でもさ!呼びやすいし!戦闘中にも短くていいだろ!?実用性重視だよ実用性!」


 「言い訳にしか聞こえへんでそれ」


 「ぐっ……」


 思わず反論してしまったが、即座に痛いところを突かれて言葉に詰まる。


 「あはは、まあまあ、ラグナも一生懸命考えたみたいだし……それに、当の本人は満更でもないみたいよ?」


 「……え?」


 ヴァイオレットの言葉に、全員の視線が一斉にグランディエルへと向く。

 そこにいたのは、明らかに、機嫌が良さそうなグランディエルの姿だった。


 『ほう……グランか、まあ、良しとしてやろうか……』


 「……」


 「……もう決定でいいなこれ」


 こうして、俺たち魔王軍に新たな仲間――【天空竜王・グランディエル】改め【グラン】が加わった瞬間だった。


 

少しでも面白いと思って頂けましたら、評価をお願いします。下にスクロールすると評価するボタン(☆☆☆☆☆)があります。

ブックマークも頂けると非常に喜びますので、是非宜しくお願い致します。


良ければ、感想もお待ちしております。


評価や、ブックマーク、いいね等、執筆する上で非常に大きなモチベーションとなっております。

いつもありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。