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第23話 狂乱の聖者


 闇を纏う斬撃が走り、金剛石の拳が唸り、爆ぜる銃弾が戦場を縦横に飛び交う。

 グランディエルの角を破壊するべく、俺たちはありったけの力を叩き込んでいた。


 「くそっ! さっきからやたら素早く動きやがる!」


 「角を狙うのが難しいニャー!」


 「……イライラする」


 仲間たちの声が次々と上がる。

 どうやらグランディエルも、俺たちの狙いに気付いているらしい。

 先ほどまでとは比べものにならないほど素早く動き回り、巨体とは思えない機敏さで戦場を駆けている。

 まるで、角を狙わせまいとしているかのように。


 「くっ……! 早くあいつを倒さないと……長くは持たないかもです!」


 戦線の最前列で、グランディエルの猛攻を一手に引き受けている虎徹の声が響く。

 ヴァイオレットが絶え間なく回復魔法を飛ばし、全員のHPが尽きないように支えてはいる。

 だが、それでも状況は少しずつ押され始めていた。

 このまま有効打を与えられない状態が続けば、いずれ限界が来る。


 「誰か……あいつの動きを止める手段はないのか!?」


 思わず叫んだ俺の声に、すぐ反応が返ってきた。


 「うちに、一個考えがあるで!」


 ぴろこが手を挙げる。


 「どんな考えだ!?」


 「まあ、ちょっとどでかい必殺技があるんやけどな。ちょっと三分ばかし時間もらえるか?」


 「三分か……」


 思わず歯噛みする。

 この激戦の中で三分は長いが……


 「……ちょっときついが、まあいい! 全員、ぴろこの時間を稼ぐぞ!」


 俺が叫ぶと、仲間たちが一斉に頷いた。

 その間に、ぴろこは一歩後ろへ下がると、杖を両手で掲げた。

 瞳を閉じ、深く息を整えると、その場で静かに集中を始めた。


 俺たちは素早く距離を取り、改めて陣形を組み直す。

 先頭には大盾を構えた虎徹。

 そのすぐ背後に俺。

 左右の両翼をギガ林と獅音が固める。


 さらに俺の背後にはショコラとヴァイオレット。


 そして最後尾では、ぴろこが杖を掲げたまま、静かに集中を続けていた。


 「虎徹、俺も出来る限りフォローする。後少し……耐えてくれ!」


 「はい! 任せて下さい!」


 力強い返事。

 その背中越しに、虎徹の覚悟と意気込みがはっきりと伝わってくる。


 その時だった。


 『何を企んでおるかぁ! ガァアアアアアアアア!!!!』


 グランディエルが怒号を上げた直後、巨大な顎が大きく開かれ、漆黒のブレスが一直線に放たれた。


 「それは効かないって言ってんだろうが! 【障壁魔法・絶界】!」


 俺は即座に魔法を展開する。

 透明な壁のような結界が、俺たちの前方に広がった。

 轟音と共に、ブレスが結界へ叩きつけられるが、突破はされない。

 激しい衝撃が結界全体を震わせるだけで、俺たちには届かなかった。

 体勢さえ整っていれば、この攻撃はもう怖くない。


 グランディエルは忌々しげにこちらを一瞥した後に、巨大な翼を広げ、再びこちらへ襲い掛かってきた。


 「来るぞ!」


 「任せて下さい!」


 虎徹が一歩前へ出て、迫り来る巨体を、大盾で正面から受け止めた。

 凄まじい衝撃音が戦場に響く。


 「ぐっ……!」


 その瞬間、ヴァイオレットの回復魔法が飛ぶ。


 「【ヒール】!」


 淡い光が虎徹を包み込み、削られたHPを瞬時に回復していく。


 「今だ、攻撃だ!」


 俺たちはその隙を逃さず、一斉に攻撃を叩き込む。

 だが、グランディエルも黙ってはいない。

 巨大な爪が振るわれ、牙が襲い、尾が薙ぎ払う。


 荒れ狂うような猛攻のすべてを、俺たちは必死で耐え続ける。


 そして――


 「よっしゃぁ、準備出来たで! 道開けてやぁ!」


 ぴろこの声が、戦場に響いた。


 「待ってたぜ! 全員、散開!」


 その瞬間、俺たちは一斉に左右へ飛び退く。


 視線をぴろこの方へ向けると、その周囲には、三つの巨大な魔方陣が展開されていた。

 赤、青、黄の三色の魔方陣が宙に浮かび、激しく回転している。


 「いくでぇ! 【ゲヘナ・フレイム】、【ヘル・ブリザード】、【シュオル・ライトニング】……一斉展開!」


 詠唱と共に、それぞれの魔方陣が眩い光を放ち始める。


 炎と氷と雷、三つの異なる属性の魔力が、渦を巻くように収束していく。

 そして、ぴろこが杖を振り下ろした。


 「合体魔法……【光よ、冥獄を穿て(タルタロス)】!!!!」

 

 満を持して放たれたのは――まさかの合体魔法だった。

 赤の魔方陣から噴き上がる地獄の業火。

 青の魔方陣から吹き荒れる絶対零度の吹雪。

 黄の魔方陣から迸る破滅の雷光。

 三つの属性魔法が、ぴろこの杖の先で一つに束ねられていく。


 炎と氷、そして雷、本来なら互いに反発し合うはずの魔力が、強引に圧縮され、融合していく。


 「死にさらせぇえええええ!」


 ぴろこが杖を振り抜くと、三色の魔力が一つの巨大な光の奔流となり、一直線にグランディエルへと放たれた。


 『グ……ァ……!?』


 グランディエルの巨体が光に飲み込まれる。

 轟音と閃光が戦場を埋め尽くし、視界のすべてが、白く染まる。

 凄まじい衝撃波が戦場を薙ぎ払った。


 俺たちは思わず腕で顔を庇う。

 砂煙が舞い上がり、しばらく何も見えない。


 「……や、やったか?」


 誰かが呟いた。

 

 砂煙がゆっくりと晴れていくとその向こうに――グランディエルが立っていた。

 まるで何事もなかったかのように、巨体を支えながら佇んでいる。


 「……マジかいな」


 ぴろこが思わず声を漏らす。

 先ほどの合体魔法で、精魂尽き果てたのか、膝に手をついて辛そうにしている。

 あれほどの威力を、真正面から受けてなお、倒れない。


 しかしその姿は、無傷ではなかった。

 グランディエルの全身は焼けただれ、白銀の鱗は至る所で剥がれ落ちていた。

 かつて誇らしげに広げていた翼も、今では無残に裂け、焦げ、見る影もない。

 これでは、あの俊敏な動きは出来ないはずだ。


 「チャンスだ! 今のうちに角を狙うぞ!」


 俺たちは一斉に駆け出した。

 今なら、目標の角を正確に狙うことが出来る。

 ぴろこが作ってくれた最大の好機、これを逃すわけにはいかない。


 「出し惜しみは無しだ! 全力で合わせるぞ!」


 俺の声に、全員が力強く応じる。


 回復役のヴァイオレットと、魔力を使い切ったぴろこを除き、前衛全員が最大火力のスキルを解き放つ。


 「【魔王剣・鏖花】!!」


 「【冥王輝刃・天穿(あまうがち)】!!」


 「【アグニ・イグニッション】ニャー!!」


 「【ジャッジメント・シュート】」


 「【ギガント・トマホーク】!!」


 俺が放つ魔王としての全力の一撃。

 ギガ林は闇の闘気を纏わせた必殺の突きを叩き込み、獅音は全身に炎を纏って渾身の体当たりを繰り出す。


 さらに、ショコラは一点集中の貫通特化の射撃を放ち、虎徹もまた、全力で振り抜いた戦斧を叩きつけた。


 それらすべての攻撃が、グランディエルの角へと一斉に叩き込まれる。

 鈍い破砕音が響き、角に走っていた亀裂が一気に広がっていく。

 蜘蛛の巣のように亀裂が拡大し、黒く光る角の表面を覆い尽くしていく。


 ……これなら、折れる!


 そう思ったが、無情にもまだ角は、折れない。

 八割ほどまで亀裂が広がっているにも関わらず、その禍々しい角はなおも健在だった。

 そして、角から放たれる黒い光も、消えてはいない。

 俺たちのHPを削り続けるスリップダメージも止まらなかった。


 「くっ、駄目か!」


 押し切れなかった……

 ここまでやって、まだ足りないのか。

 だが、諦めるわけにはいかない。

 全員が次の行動へ移ろうとした、その瞬間だった。


 「まだまだぁっ! 【形態変化(モードチェンジ)】!」


 声が響いた。

 振り向いた俺たちの視界に飛び込んできたのは――


 杖を振り上げ、グランディエルへ突っ込んでいくヴァイオレットの姿だった。

 その手に握られている杖が、変形していく。

 優雅で神々しい装飾が施された聖杖が、音を立てて姿を変え、

 棘だらけの鉄球を備えた、物々しいモーニングスターへと変貌した。


 ……狂乱の聖者


 俺の脳裏に、そんな異名が浮かぶ。

 普段は回復役だが、仲間を守るためには、誰よりも危険な前衛になる。


 「いっけぇええええ!! 【ベルセルク・バスター】!」


 ヴァイオレットが渾身の力でモーニングスターを振り下ろす。

 狙いはもちろん、亀裂だらけのグランディエルの角。

 鉄塊が叩きつけられた瞬間、ドゴォォンッ!と凄まじい衝撃音が戦場に響いた。

 そして、とうとう亀裂だらけだった角が、限界を迎える。


 バキィィィィンッ!と甲高い破砕音と共に、グランディエルの角が、ついにへし折れたのだった。

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