第22話 最終形態
グランディエルの最終形態とも言える、巨大な角が出現した。
眉間から天へ突き出す一本角。
漆黒の光を帯び、圧倒的な存在感を放っている。
全く……第二形態の後に、こんな最終形態まで控えているなんて。
バランス調整、絶対ミスってるだろこれ。
『全くもって忌々しい……この力は、消耗が激しい故に使いたくは無かったものを……』
グランディエルの角が、妖しく輝きを増していく。
脈動するたびに、黒い魔力が周囲へ滲み出す。
やばい……!
直感が、警鐘を鳴らす。
これは放置したら……洒落にならないやつだ!
そう判断した俺は、咄嗟に剣を握り直し、地面を蹴った。
止めるなら、今しかない――。
『我の最後の奥義……存分に味わうが良いわ!』
しかし、一瞬早くグランディエルの残った眼が見開かれる。
『ヌォオオオオオオオオオ!!!!』
咆哮と同時に、角が輝き出すと、そこから放たれた怪しい光が、戦場全体へと一気に広がった。
空も、雪原も、周囲すべてが黒い光に覆われていく。
「……これは、全方位攻撃か!?」
その瞬間、視界の端に表示されているHPゲージが、じわじわと減り始めた。
「そんな馬鹿なスキル有りかよ!?」
慌てて左腕を掲げる。
「【障壁魔法・絶界】!」
瞬時に障壁を展開し、仲間全員を囲い込むが――HPの減少が、止まらない。
「……まじかよ?」
絶界の内側にいるはずなのに、じわじわとHPが削られていく。
『フハハハハハ! 無駄だ……その程度の防御では防げぬわぁ!』
グランディエルの嘲笑が、戦場に響き渡る。
くっ、まずいな。
このままじゃ確実に、倒しきる前にこちが力尽きてしまう。
歯を食いしばった、その時だった。
「【邪神の加護】!」
ヴァイオレットが杖を高く掲げると、紫色の光がふわりと広がり、俺たち全員の身体を包み込んだ。
禍々しいはずのその光が、不思議と温かく感じる。
そして、さっきまで勢いよく減っていたHPゲージの減少速度が、目に見えて緩やかになった。
「これは……自動回復のスキルか!」
「ええ、気休め程度にしかならないけど……この間に、あいつを倒さないと!」
ヴァイオレットが使用したのは【邪教神官固有魔法】の一つ。
味方全員に、HP自動回復の効果を付与する支援魔法だ。
だが、なおも戦場を覆う黒い光は、確実に俺たちの命を削り続けている。
回復はしているが、それ以上にスリップダメージの方が大きく、HPゲージは、ゆっくりとだが確実に減り続けていた。
このままでは、じり貧なのは間違いない。
『無駄な抵抗を……やはり貴様らは……我が手で縊り殺さねばならぬようだな!』
巨体が低く構え、完全な臨戦態勢へ入る。
鋭い爪が雪原を抉り、翼が大きく広がる。
……まじかよ。
あの光を放ちながら、普通に攻撃も出来るのか。
だが、逃げ場はない。
俺は覚悟を決め、剣を強く握り直した。
「ちっ……とにかくやるしかないな」
仲間たちを見渡すと、全員が黒い光にHPを削られながらも、しっかりと武器を構えていた。
誰一人、退くつもりはないらしい。
「皆、HPが無くなる前に、あいつを倒すしかない!」
俺は声を張り上げた。
「ヴァイオレットは全員のHP管理を頼む!」
「わかったわ!」
即座に力強い返事が返ってくる。
「虎徹は、グランディエルの攻撃を出来るだけ引き付けてくれ!」
「了解です!」
盾を構えた虎徹が、大きく頷いた。
「他の皆は――」
そこで言葉を切り、俺はグランディエルへ視線を向ける。
漆黒の角を輝かせた巨竜もまた、完全に戦闘態勢を整えていた。
「俺も含めて総攻撃だ!」
剣を前へ突き出す。
「これで最後だと思って、残った力を全部ぶつけるぞ!」
俺の指示に呼応するように、全員が一斉に動き出した。
そして、俺も地面を蹴り、グランディエル目掛けて一直線に突っ込んだ。
【天空竜王・グランディエル】
その巨体が、怒号とともに翼を広げる。
――最終決戦の幕が、今まさに上がった。
グランディエルは、先ほどまでとは比べ物にならないほど俊敏な動きで襲い掛かってきた。
強靭な爪が次々と振るわれ、回避した先へ間髪入れずに鋭利な牙で噛み付いてくる。
さらに、禍々しい漆黒のブレスが容赦なく吐き出され、こちらの動きを封じにかかる。
攻撃の手はそれだけでは終わらない。
ついには、あの巨大な角までも武器として使い始めた。
天を貫くかのように伸びた漆黒の一本角が振り下ろされ、まるで槍のようにこちらを貫こうとしてくる。
一撃でも直撃すれば、串刺しにされるのは間違いない。
「何だかどんどんあいつの動き速くなってる気がするニャー!」
「そんなのゲームのボスならあるあるだろうがよ! 無駄口叩いてる暇があったら攻撃し続けろ!」
「ニャー! わかったニャー!」
ギガ林と獅音は、そんな軽口を叩き合いながらも、攻撃の手を一切緩めない。
だが、俺も含めた全員の猛攻を受けてもなお、グランディエルはまるで意に介した様子もなく反撃を繰り出してくる。
さすがは伝説級モンスター。
その圧倒的なタフネスを、これでもかと見せつけてくる。
「ぐっ……!」
グランディエルの鋭い爪が振り下ろされる。
だが、その真正面に立ちはだかっていたのは虎徹だった。
「うぉおおおおお! 【オーガ・カウンター】!」
咆哮と同時に、虎徹の身体が赤黒い闘気に包まれる。
グランディエルの一撃を左腕に持った大盾で受け止めた瞬間――
右腕の戦斧を振るい、その衝撃をそのまま叩き返すように反撃を繰り出した。
【オーガ・カウンター】は、敵の攻撃に対し、絶妙なタイミングで発動することで、受けた衝撃を利用して大ダメージを与えるカウンタースキルだ。
「――くらえぇぇぇ!」
虎徹の渾身の一撃が、グランディエルの巨体に叩き込まれた。
『ぐぅう!?』
さすがの衝撃に、グランディエルの動きが一瞬止まる。
巨体がわずかに揺らぎ、硬直が生まれた。
その隙を、仲間たちが見逃すはずもない。
「【ディザスターショット】」
ショコラの冷静な声が響く。
放たれた弾丸は一直線に飛び、グランディエルの頭上へ到達した瞬間――弾けた。
無数に分裂した銃弾が、嵐のように降り注ぐ。
鋭い金属音が連続して鳴り響き、巨竜の鱗へと容赦なく叩きつけられていった。
「【ゲヘナ・フレイム】!」
続けて、ぴろこが両手を掲げると、黒く燃え上がる炎の奔流が戦場を覆った。
地獄の業火と呼ぶに相応しい漆黒の炎が渦を巻き、グランディエルの巨体を呑み込んでいく。
上空からは弾丸の豪雨。
周囲からは黒炎の嵐。
二つの遠距離攻撃が重なり合い、凄まじい相乗効果を生み出している。
『グァアアアアアアアアッ!!』
グランディエルが怒号を上げ、苦悶するように天を仰ぐ。
その巨体が大きくのけ反り、喉元が無防備に晒された。
――今だ。
俺は地面を蹴り、一直線に飛び込む。
「よっしゃぁ! タイミングバッチリ! 【魔王剣・鏖花】!」
振り上げた剣に禍々しい魔力が凝縮し、刃が黒く輝く。
そのまま、渾身の一撃を天を仰いでいたグランディエルの喉元へ叩き込んだ。
『ぬぐぁあああ!!!!』
巨竜の絶叫が戦場に轟く。
たまらずよろめきながら後退するグランディエルの姿に、確かな手応えを感じ取った。
――決まったか?
そう思いながら、俺はグランディエルへ視線を向ける。
その瞬間だった。
『死ねぇえええええええ!!!!』
怒号と共に、グランディエルが翼を激しくはためかせながら突っ込んでくる。
狙いは――俺。
天を貫く巨大な角が、一直線にこちらへ向けられていた。
猛スピードで迫るその突進は、明らかに俺を串刺しにするつもりだ。
しまった。
――油断した。
一瞬の硬直、それが最大の隙になる。
回避は――間に合わない。
その時、俺の視界の前へ、巨体が割り込んだ。
大盾を構えた虎徹だった。
「させるかぁ!!!! 【オーガ・カウンター】!!!!」
咆哮と同時に、虎徹が大盾を正面に構える。
次の瞬間――
グランディエルの巨角と、大盾が激突した。
凄まじい衝撃が戦場を震わせる。
だが、その衝撃を受け止めた瞬間、虎徹は右腕の戦斧を全力で振り抜いた。
カウンターの一撃が、突き出された角へと叩き込まれる。
――ドォォンッ!!
耳をつんざくような衝撃音が響き渡る。
凄まじい衝突の反動で、虎徹とグランディエルの巨体は互いに弾き飛ばされるように吹き飛んだ。
もんどり打ちながら地面を転がるグランディエル。
その一方で、虎徹の巨体も凄まじい勢いで戦場を吹き飛んでいく。
虎徹の体は戦場の端まで到達し、地面に叩きつけられるようにして倒れ込んだ。
俺が声を上げるより早く、ヴァイオレットが杖を掲げる。
「大丈夫!? 【ハイヒール】!」
淡い光が虎徹の身体を包み込む。
「ぐっ……はぁ……はぁ……」
なんとか耐えきったらしい。
虎徹はよろよろと体を起こし、そのままゆっくりと立ち上がった。
「虎徹、悪い……助かった!」
「気にしないで下さい……それより、今のうちにグランディエルに追撃を!」
軽く手を振って応答する虎徹の姿を見て、俺は安堵する。
「ラグナはん、あれ見てみぃ! グランディエルの角が……」
ぴろこの声に、俺は振り向いた。
そこには、怒りを露わにしながらゆっくりと立ち上がるグランディエルの姿があった。
だが、俺たちの視線は自然と、その巨大な角へ向く。
天を貫くように伸びた漆黒の角。
その根元付近に、僅かではあるが、確かに亀裂が走っていた。
さっきの衝突で入ったのか。
虎徹のカウンターと、あの突進の衝撃。
その二つが重なった結果だろう。
「……あの角、破壊できるのか?」
もしそれが可能なら……
この戦場を覆っている、あの忌々しいスリップダメージも無効化できる可能性がある。
「よっしゃぁ、俺に続け! このまま、あの角圧し折って――グランディエルを討伐してやるぞ!」
【天空竜王・グランディエル】戦は、いよいよ最終局面を迎える。
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