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第20話 激戦!グランディエル

 『ま、魔王軍だと……? 貴様ら、自分が何を言っているのか、わかっているのか?』


 俺の言葉を聞いた瞬間、グランディエルの双眸が大きく見開かれた。

 その反応は、単なる警戒や敵意とは明らかに違い、ただただ驚愕しているようだった。

 まるで、決して起こるはずのないことが、今まさに目の前で起きているとでも言いたげな表情だった。


 『おい! 質問に答えんか! 貴様らが……』


 言いかけて、竜王の言葉が一瞬途切れる。

 巨大な瞳が、俺たちを一人ひとり舐めるように見回していた。


 ……何だ、この反応。


 ここまで露骨に動揺されると、逆に違和感がある。


 想定していたのは、もっと単純な反応だった。

 例えば、「魔王軍? そんなもの知らん」と鼻で笑われるとか、あるいは「ならば敵だ」と即座に戦闘に入るとか、その程度だ。

 だが、今のグランディエルの様子は、明らかに違う。


 「……おいおい、何だよそのリアクション」


 思わず眉をひそめると、次の瞬間、グランディエルの表情が一変した。


 驚愕が、怒りへと塗り替えられる。

 巨大な竜の顔が歪み、牙の隙間から低い唸り声が漏れた。


 『――魔王軍などというものが、残っているわけがないだろうがぁ!!』


 咆哮と同時に、竜王の翼が大きく広がる。


 ドォォン!!!!と叩きつけられた翼の衝撃だけで、山頂の雪が吹き飛び、岩盤が震えた。


 『戯言を吐くな、人の子がァ!!』


 怒りに染まった黄金の瞳が、まっすぐこちらを射抜く。

 次の瞬間、巨体が、信じられない速度で突っ込んできた。

 山そのものが動いたかのような質量が、一直線に迫る。


 「……なるほど」


 俺は、静かに息を吐く。


 「いいじゃないか……最初から全力で来るなら、その方が面白い」


 大木のような太さの前脚が振り上げられ、巨大な爪がこちらへ叩きつけられた。


 「うぉっとぉ!」


 振り下ろされた巨爪を、俺は間一髪で横へ飛んで回避する。


 ズドォォンッ!!


 次の瞬間、さっきまで俺が立っていた場所へ、鋭利な爪が深々と突き刺さった。

 岩盤が砕け、粉塵と雪が激しく舞い上がる。

 まともに受けていれば、ひとたまりもない威力だ。


 だが、その瞬間を、見逃さない影が一つ。


 「はっ! そろそろ俺たちも混ぜろよ!」


 電光石火の踏み込みを見せるのは、ギガ林だ。

 爆発的な加速で距離を詰めながら、腰の剣を一気に引き抜く。

 突進の勢いで体勢を崩していたグランディエルの胴体へ、迷いなく斬り込む。


 ギィィンッ!!

 鈍い衝撃音と共に、白銀の鱗が鮮やかに切り裂かれた。


 『ぬぐぅっ!?』


 竜王の喉から、初めて苦悶の声が漏れる。


 裂けた鱗の隙間から、鮮血が噴き出し、白銀の体を赤い飛沫が染める。


 自らの鱗の硬度には絶対の自信があったのだろう。

 グランディエルの瞳に、隠しきれない驚愕が浮かぶ。

 巨体を翻しながら、大きく後退し、距離を取りつつ、体勢を立て直そうとしていた。


 「まだまだぁ!」


 だが、ギガ林は止まらない。

 そのまま地面を蹴り、追撃へ踏み込む。


 しかし――


 『舐めるなぁ! 小虫の如き人間がぁっ!』


 怒号と同時に、グランディエルの巨体が大きく反転し、次の瞬間――


 ブンッ!!


 山を薙ぎ払うような勢いで、巨大な尾が振り抜かれた。


 「なっ!?」


 あまりにも速い挙動に対して、追撃に意識を向けていたギガ林は、完全に不意を突かれていた。

 タイミング的に回避は、とても間に合いそうにない。


 ドンッ!!!!


 ――という鈍い衝撃音が戦場に響き、誰もがギガ林の身を案じたが、振り抜かれたはずの巨大な尾は、途中でぴたりと止まっていた。


 その直前に立っているのは、虎徹。

 大盾を構えたまま、真正面からその一撃を受け止めている。


 竜王の尾は、大木どころか城門すら叩き潰せそうな質量だ。

 それが全力で振り抜かれている。


 だが、虎徹の体は、わずかに軋むだけで、一歩も下がっていない。


 『ぬぅ! 小癪な!』


 グランディエルが苛立たしげに唸る。

 次の瞬間、巨大な腕が振り上げられ、鋭利な爪が怒りのままに叩きつけられる。


 ガギィンッ!!


 虎徹の盾が、わずかに角度を変える。

 爪は正面から受け止められるのではなく、軌道を逸らされて横へ弾かれた。


 続けざまに二撃目。


 ガキィンッ!!


 三撃目。


 キィィンッ!!


 暴風のような連撃。

 だが虎徹は、すべてを完璧なタイミングで弾き返していく。


 力任せではない。

 衝突の瞬間に角度をずらし、衝撃を流す精密なパリィ。


 巨大なグランディエルの攻撃を、まるで熟練の剣士のようにいなしていた。


 「やるな、さすがタンクのスペシャリスト!」


 俺は思わず感心する。

 その言葉に応えるように、横から声が飛ぶ。


 「助かったぜ!」


 ギガ林だった。


 竜尾を防がれた隙を逃さず、再び鋭い踏み込みで距離を詰め、剣を振り上げる。

 だが、その隣にもう一つ影が並ぶ。


 「ニャー! 我輩もそろそろ混ぜてくれニャー!」


 獅音だ。

 獣のように低く構えた姿勢から、一気に加速する。

 人間離れした俊敏さで、グランディエルの懐へと潜り込んだ。


 「いくニャ!」


 拳と蹴りが、目にも止まらぬ速度で叩き込まれる。

 まるで嵐のような連続攻撃だ。

 獅音の打撃が集中したのは、先ほどギガ林が斬り裂いた傷口の周辺。


 白銀の鱗に、細い亀裂が走る。

 さらに、もう一撃、パンチが叩き込まれると、グランディエルの胸元に、はっきりとヒビが広がった。


 『ぐぅ……っ!?』


 グランディエルの巨体が、わずかに揺らぐ。


 「まだまだいくでぇ! 【ゲヘナ・フレイム】」


 次に動いたのは、ぴろこだった。

 杖を掲げると、虚空から湧き上がるように現れたのは夥しい量の漆黒の炎。

 黒炎が渦を巻きながら、グランディエルの胸元へ叩きつけられる。


 『ぐううう!?』


 竜王の喉から、明確な苦悶の声が漏れた。


 輝きを帯びていた白銀の鱗が、黒炎に包まれた瞬間、じりじりと焼け焦げていく

 たまらず、グランディエルは巨大な翼を広げる。


 バサァァァッ!!


 暴風が巻き起こり、雪煙が舞い上がる。

 どうやら、一度空へ逃れようとしているらしい。


 「逃がさない……」


 静かな声が、吹雪の中で響いた。


 ショコラだ。

 すでに愛銃を構え、スコープ越しに竜王を捉えている。


 次の瞬間、ドンッ!と銃声が一発、空気を裂いた。

 放たれた弾丸は一直線に飛び、グランディエルの眉間へ吸い込まれるように向かう。


 見事なヘッドショットだが、ギィインッ!と金属が弾けるような衝撃音が鳴り響き、弾丸はグランディエルの額の鱗に弾かれていた。


 『ふん……その程度か』


 わずかにダメージが入るが、致命傷には程遠い。

 グランディエルの鱗は、やはり並外れて硬いようだ。


 しかし、ショコラの表情は変わらない。


 「……それなら」


 スコープの向こうで、照準が静かに移動する。

 ショコラの指が、静かに引き金を引いた。


 ドチュンッ!!


 鈍い音が響くと、鮮血が一直線に噴き出した。


 『ぐあぁっ!?』


 今度は、明確なダメージが入る。

 弾丸は、寸分違わぬ精度で胸元の亀裂の中心を撃ち抜いていた。


 『我に傷を付けるとは……許さんぞぉ! ガァアアアアアアアアアアアア!』


 怒りに満ちた咆哮と共に、グランディエルがブレスを放つ。

 雪原を焼き払いながら一直線に迫る、銀色の光の奔流。

 再び障壁魔法で防ごうと、俺は一歩前へ出るが――


 「ここは私に任せて! 【障壁魔法・闇楯】」


 俺よりも先に前へ出たのは、ヴァイオレットだった。

 彼女が両手を突き出すと、紫紺の魔力が一気に広がり、巨大な障壁が展開された。


 ブレスが直撃するが、闇色の障壁は揺らぎながらも、確かにそれを受け止めていた。

 紫紺の魔力が渦を巻き、光の奔流を押し返していく。


 「くっ……!」


 ヴァイオレットの額に汗が滲むが、障壁は崩れない。


 「ラグナ、今のうちに!」


 「おう!」


 ヴァイオレットの叫び声を受けて、俺は地面を蹴った。

 雪を弾き飛ばし、一直線にグランディエルへと突っ込む。

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