↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
20/35

第19話  天空竜との邂逅

 聖煌峰域――


 アルクロ世界に存在する数あるダンジョンの中でも、最高難度と謳われる山脈型フィールドだ。

 主峰の標高は一万メートルを超え、現実世界のエベレストすら霞ませる異常な高度を誇る。

 環境そのものが侵入者を拒絶するこの地では、生半可なステータスでは立っていることすら叶わない。

 高所適応、寒冷耐性、気圧制御――複数の環境系スキルを所持して初めて、ようやく挑戦権を得られる。


 さらに厄介なのは、そこに棲むモンスター群だ。

 空を裂く雷鳥。

 氷刃を撒き散らす巨狼。

 そして山肌を泳ぐ岩竜。

 雑魚と呼ばれる個体ですら、並のボス級に匹敵する脅威を秘めている。


 そして――その山頂付近。

 雲海を突き抜け、天空と同化するかのような白銀の断崖に、俺たちは立っていた。


 目的はただ一つ。


 【天空竜王・グランディエル】の討伐。


 聖煌峰域の最奥、天を戴く頂こそが、その黄金の龍の縄張り。

 俺たちはアストラル君の魔方陣によって、直接この高度へと転送されてきた。

 通常ルートを登攀すれば数日、いや数週間を要する道程を、一瞬で踏破したことになる。


 「……さすがに空気が薄いな」


 肺に流れ込む冷気が、鋭く胸を刺す。

 通常のプレイヤーなら即座に行動制限が入るレベルだ。

 だが、六魔将たちは違う。


 「いや、高いし怖いし、何やのこのリアルさは!戦う以前に落ちたら死んでまうやないかぁ!」


 「ほ、本当に恐ろしい光景ですね……ちょっと足が竦んじゃいますよ、これは……」


 「ニャー!本当の雪山に来たみたいだニャー!まあリアルでも行ったことないんだけどニャー!」


 「しかし、本当に凄いグラフィックだな。ブレイド・オブ・ファンタズマとも比較にならないレベルだ。本当に同じ【アストラル・インタラクティブ】製か?」


 「凄い……ここで戦ったら楽しそう」


 ヴァイオレット以外にとって、アルクロの世界に出るのはこれが初めて。

 そのリアルなグラフィックに驚くのも無理はない。


 いや、俺はもう慣れてるんだけど、別ゲーから来たらそりゃこうなるのも無理はないよな……


 しかし、この高負荷環境にもかかわらず、六魔将のステータスバーに異常はない。

 寒冷デバフも、高山ペナルティも、発生すらしていない。

 並のプレイヤーなら、立っているだけでHPが削られていく環境だが、それを平然と踏み越えている。


 やはり超越職。

 この程度の環境に対する耐性はデフォで備えているということか。


 そんなことを考えていると、吹雪の向こうで、何かがゆっくりと影を落とした。

 空がわずかに陰り始める。


 「……来たか?」


 吹き荒れる白い嵐の向こうで、何かが動いた瞬間……ズン!と空気が押し潰されるような音が響く。

 次の瞬間、分厚い雲海が左右に裂けた。


 ……どうやら、ここがこの聖煌峰域の山頂らしい。

 足場は広大な円形の岩盤となっており、雪は不自然なほど薄く、まるでこの場所だけが戦場として整えられているかのようだった。


 そして、目の前に出現したのは、白銀の体を持つ巨大な竜、【天空竜王グランディエル】だった。


 天を覆うほどの翼、氷晶のように鋭利な角、陽光を反射する鱗は、白銀でありながらどこか黄金の輝きを帯びている。

 その双眸が、ゆっくりとこちらを捉える。


 瞬間、強烈なプレッシャーが俺たちを襲う。


 地面に見えない重力が叩きつけられたかのように、空間そのものが軋む。

 威圧スキル、それも、並大抵のレベルではない。

 

 「っ……!」


 思わず息を呑むが……

 だが、誰一人として膝を折らない。

 普通のプレイヤーであれば、これだけで戦闘不能に陥りそうな、桁違いの圧を受けているが、俺も六魔将も、こんなもので戦意を喪失するような弱者ではない。

 その様子を見て、グランディエルが、ゆっくりと首をもたげた。


 『――人の子よ……その小さき体でこの高みにまで至ったことは認めよう……だが、ここは、王の領域……さっさと立ち去るがよいわ』


 声を聞いているだけで、心臓が震えるような気がする。

、この威圧感は、まさしく規格外だ。


 ……だが、面白い。


 胸の奥が、静かに熱を帯びる。

 今からこんな化け物と戦えるのか……

 恐怖よりも先に湧き上がるのは、高揚だった。


 「……行くぞ、六魔将! 戦闘開始だ!」


 視線を前に固定したまま、戦闘の開始を告げる。

 この世界に、俺たちの名を刻みこむ……これはそのための栄えある第一歩となる。


 『ふん、我が姿を見てなお怯まぬか……ならば、一瞬で消し飛ばしてくれるわ』


 「あれは……まさか、ブレス!?」


 いや待て、開幕ブレスとかありなんか?


 グランディエルの口腔に魔力が収束していくのがわかる。

 それは、竜族が持つ必殺の息吹。


 『滅びよォオオオッ!ガァアアアアアアアアアアアアッ!!!!』


 「くそっ!おい、全員俺の後ろに隠れろぉ!」


 叫びながら魔力を練り上げ両手を前へ突き出す。

 

 「――【障壁魔法・絶界】!」


 その瞬間、半球状の障壁が、俺たち六人を包み込むように展開された。

 スキル【魔王固有魔法】の中でも、防御に特化した魔法を使用する。


 次の刹那、銀色の極光が凄まじい轟音と共に迫りくる。


 だが、障壁に触れた瞬間、銀の奔流は激しく火花を散らしながら徐々に勢いを失っていき、最後には儚く霧散してしまった。


 山頂の外周は、まるで隕石でも落ちたかのように抉れており、岩盤は溶け、白煙が立ち上る。


 だが、俺たちの足元だけは、無傷だった。

 障壁は、ひび一つ入っていない。


 「……うそやろ」


 ぴろこが、ぽつりと呟く。


 「……あれを正面から受け止めちゃうの?」


 ヴァイオレットの声にも、隠しきれない動揺が滲んでいた。

 アルクロを長くプレイしてきた古参であっても、今のような規格外のブレスを真正面から受け止める場面など、まず経験しない。


 そして、俺はその一撃を正面から受け止め、完全に防ぎ切ってしまった。

 それだけでも心の底から驚愕したのだろう。


 だが、おそらく、この場で最も驚愕しているのは、六魔将たちではなく、目の前の竜王に違いない。

 グランディエルの巨大な双眸が、はっきりと変化していた。


 『……馬鹿な、我が息吹を……真正面から防ぎ切っただと……?』


 「悪いな……いきなり消し飛ばされる趣味はないんだよな」


 『お、お前たちは……一体何者だ!?』


 「ん?ああ、俺たちか?俺たちは……」


 俺は障壁を解き、視線をグランディエルへと真っ直ぐ向ける。


 「魔王軍だよ!」


 その瞬間、山頂の空気が明らかに変わった。

 アルクロ最高峰の頂にて、魔王と竜王、二つの王の激戦の幕が切って落とされようとしていた。

 

少しでも面白いと思って頂けましたら、評価をお願いします。下にスクロールすると評価するボタン(☆☆☆☆☆)があります。

ブックマークも頂けると非常に喜びますので、是非宜しくお願い致します。


良ければ、感想もお待ちしております。


評価や、ブックマーク、いいね等、執筆する上で非常に大きなモチベーションとなっております。

いつもありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。