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第18話 いざ天空竜

 俺の言葉を聞いた六魔将たちの反応は様々だった。

 まあ、ほとんどの面子は大歓迎といったような感じだったが……


 「へえ……それは面白ぇじゃねぇか」


 ギガ林は間違いなく乗り気だった。

 獰猛な笑みを浮かべたまま、胸の前で固く握った拳を、反対の掌へと叩きつける。

 ――パンッ、と乾いた音が大広間に響く。


 「このまま戦闘……腕が鳴るニャー!」


 獅音も、完全にノリノリだった。

 準備運動をするかのように両肩を大きく回し始めている。

 ぐるり、ぐるりと円を描くように、関節をほぐすその動きは、まるで獲物を前にした猛獣が狩りの前に身体を温めているかのようだ。


 「ラグナはん、ナイス提案やん!うちもテンション上がってきたわぁ!」


 ぴろこも賛成のようだ。

 にっこりと朗らかな笑みを浮かべている。

 だが、細められた瞳の奥が、わずかに細工職人のように光っている。

 楽しそうに見えて、脳内は既にフル回転させ、きっともう、いくつも作戦を組み立て終えているのだろう。

 いや、味方ながら、恐ろしい。

 八神獣より先に、敵に回したくない相手がここにいるのかもしれない。


 「初戦闘が巨大ボス……楽しみ……」


 ショコラは相変わらず口数は少ないが、その目は完全に獲物を捉えた捕食者のそれだ。

 愛銃を胸元に抱き寄せ、頬をわずかに緩めている。

 ……いや、やっぱりこいつは戦闘狂なのか?


 ギガ林、獅音、ぴろこ、ショコラの四人はかなり乗り気のようだった。

 発案者の俺に負けず……いや、それ以上に伝説級モンスターと戦えることに、意欲的のようだった。

 

 いやいや、本当にこいつら頼もしいな……

 

 だが――全員が同じ温度というわけではなかった。


 「いや、まあ良いんだけど……本当に今から行くの?」


 ヴァイオレットが、わずかに眉を寄せている。

 声は落ち着いているが、そこには戸惑いが混じっているのがわかる。

 決して反対ではないが、準備や段取りをすっ飛ばすことに対する懸念が見え隠れしている。

 さすが後方支援担当、冷静だ。


 そして、もう一人。


 「そ、そうですよ!いきなりそんな強敵と戦いだなんて!僕たち、たった今出会ったばかりなんですよ!」


 虎徹が一歩前に出る。

 さっきまでの控えめな声音はどこへやら。

 今ははっきりと、全員に届く声量で叫んでいる。


 「連携だって何も確認できていませんし、役割分担も曖昧です!いきなり伝説級モンスターに挑むなんて、無謀です!」


 正論だ。

 ぐうの音も出ないほどの正論だ。

 確かに、勢いだけで突っ走るのは危険だ。


 だが……


 「無謀……確かにそうだな」


 俺は改めて、空中に投影された八つの光点を見上げる。

 虎徹の言うことは正しい。


 冷静に考えれば、準備不足だし、連携も未確認……普通なら、絶対に避ける選択だ。


 だが、今回はそういうことじゃないんだよな。

 視線を六魔将へと巡らせる。


 「俺たちは【普通のプレイヤー】じゃない……魔王軍だ」


 一人一人の目を、真っ直ぐに見る。


 「他のゲームからトッププレイヤーを引き抜いてまで集められた俺たちが、普通の尺度で動いてどうする?」


 大広間に声が響く。


 「安全第一?段階的成長?効率重視?そんなの、有象無象のプレイヤーに任せとけばいい」


 胸の奥の熱が、言葉を押し出す。

 


 「俺たちは、これから世界に牙を剥く側だ……最初から限界まで踏み込まなきゃ、魔王軍を名乗る意味がないだろ?」


 自分でも、少し大げさかと思うが、胸の奥から湧き上がってくるこの熱は、誤魔化せない。

 魔王軍となり人類の敵となる覚悟を決めたのなら、最初の一歩から全開で行くべきだ。


 俺は六人を見渡す。


 「言うじゃねぇか」


 「それでこそ、魔王ニャ!」


 「ほんま、煽るん上手いなぁ。でも嫌いやないで?」


 「……さっさと、行かない?」


 最初から賛成している四人は、当然ながら熱は一切冷めていない。

 ギガ林は今にも飛び出しそうな勢いで肩を鳴らし、獅音は尻尾を大きく揺らしながら足踏みしている。

 ぴろこは余裕の笑みを浮かべたまま、すでに戦場の地形を想像しているような目つきだ。


 そして、ショコラに至っては、完全に臨戦態勢だった。


 愛銃の安全装置を確認し、静かに息を整えている。


 ……頼もしすぎるぜ。


 「わかったわよ、そこまで言うなら私も付き合ってあげる。でも、無理は禁物よ?」


 最初に折れたのはヴァイオレットだった。

 やれやれ、といった風に肩をすくめるが、その瞳には決意が宿っており、後方支援としての覚悟を決めた目だ。


 残るは虎徹。


 腕を組み、うつむいたまま何かを考えている。

 やがて、ぐっと拳を握りしめた。


 「うう……皆さんがそこまで言うなら、わかりましたよ。もうこうなったら、とことん暴れてやりますからね」


 さっきまで反対していたとは思えない言い回しだ。

 ぴろこがくすりと笑う。


 「ほらな、結局ノリノリやん」


 「ち、違います! これは覚悟を決めただけです!」


 大広間に、わずかな笑いが広がり、重苦しかった空気が、一気に軽くなる。

 よし、これで全員、同じ方向を向いた。


 「では、どの【八神獣】を最初の相手に選びますか?」



 静まり返る大広間に、アストラル君の声が響く。

 俺の答えは、すでに決まっている。

 魔王軍の初陣にふさわしい相手は一つだけだ。


 「最初の標的は――」


 天空山脈の頂に灯る光点へ視線を向ける……指先が、ひときわ強く輝く光を示す。

 

 「天空竜王、グランディエルだ」


 俺が選んだのは天空を支配する竜王の名前。

 恐らくこの八体の中でも難易度は高いだろう。


 だが、だからこそそこを選ぶんだ。


 魔王軍の名を刻む最初の戦いは、中途半端な相手では意味がない。



 魔王軍、初陣の相手は、天空の覇者に決まった。

 俺たちは空を落としに行く。

 

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