第1話 孤高の魔剣士、断崖を舞う
「はぁ……ったくもう、面倒くさいな!」
俺は、悪態を吐きながら軽快に地面を駆ける。
アルクロがリリースされたのが三年前――
そして俺は、リリース当初からの古参プレイヤーの一人――「ラグナ」として、この世界をプレイしていた。
【孤高の魔剣士】の異名を持つ、銀髪の長髪にして容姿端麗な魔法剣士。
ゲーム内では、それなりに名前が知られている存在……だと思う。
そして、この【孤高の魔剣士】という異名の理由は、至って単純明快だ。
――ずっと、ソロ専だったからである。
うん、わかってるさ。
プロローグではフレンドたくさん作るって言ってたじゃないか!って?
……いや、俺だって頑張ったんだぜ?
『たくさんの仲間を作り、様々な冒険をする。そんな当たり前で、けれど何よりも胸が躍る未来を思い描きながら――』
なんてことを考えていた時期も、確かにありましたよ。
だが現実はそう上手くはいかない。
クランに所属してみても、フレンドを作ってみても、なぜかどこかで歯車が噛み合わない。
気を遣い、距離を測り、無駄に疲れていく。
――ゲームの中でまで、そんなことをする意味があるのか?
そう思ってしまった時点で、答えは決まっていた。
「もう一人でいいか」
そうして気楽さを優先してプレイしているうちに、気が付けば俺は、完全なる生粋のソロ専プレイヤーになっていた。
だが、ひたすらソロで鍛えたおかげでプレイスキルは研ぎ澄まされ、PVPでのイベントでは優勝経験もある。
「世界最高のスキルを持つのは【孤高の魔剣士】では?」と噂されるほどにはプレイスキルは磨かれていたと思う。
そんな俺が現在参加しているイベント――【不思議な魔角を収集せよ】
『とある富豪のNPCの娘の病気を治すために必要な特効薬を作るための原料にするために、出来るだけ多くの魔角を収集せよ』みたいな感じのイベントだったかな?
本来はクランやグループで挑むイベントだが、俺は当然ソロ参加だった。
規則上は問題ない。最少人数の制限はないのだから。
イベントの舞台は【黒晶の魔渓谷】、漆黒の結晶が谷全体に突き出すように堆積した危険地帯で、魔力濃度が異常に高く、結晶は触れただけで体力や魔力を吸い取ってしまうギミックであり、迷い込んだ者は方角を失いやすく、生還率は極めて低いエリアとして知られている。
この【不思議な魔角を収集せよ】は、このイベント用に用意されたモンスター、ミスティックユニコーンを狩って【不思議な魔角】を集めるシンプルなイベント……のはずだったんだけどね。
実際は、モンスターの出現率もドロップ率も異様に低く、プレイヤーは殺到しまくり、奪い合いはやがてPK合戦に発展し、イベントは世紀末の修羅場と化していた。
……そして俺は今、その渦中にいる。
「おい!そっち行ったぞ!【孤高の魔剣士】だ!」
「よっしゃ、俺が仕留める!」
「……っとぉ!甘いなぁ!」
戦士系プレイヤーの大振りをひらりと避け、逆に胴を真っ二つにぶった斬り、背後から迫った片手剣使いも一閃で斬り捨てる。
「おい! 次行け次ぃ! さっさとあいつを仕留めろよ!」
「ええ……無理無理、あんなん誰にも倒せな……グハァッ!」
「ま、またやられた……そんな、俺たち【デッドリーファング】が子供扱いなんて……グフゥッ!」
「だから甘いっての……これで半分くらいは倒したか?」
断崖だらけの渓谷を縦横無尽に駆け、俺は次々と襲撃者を屠っていく。
最初は勢いよく突っ込んできた連中も、今や恐怖に足をすくませていた。
今俺が相手しているのは【デッドリーファング】、PK専門としてある程度は悪名を響かせている中堅クランだ。
このイベントでも、プレイヤーたちを狩りながらレアアイテムを収奪しようという魂胆なのだろう。
だが、俺に絡んだのが運の尽き、逆に壊滅させてしまうか……
「おいお前、ラグナとか言ったな! うちのクラン【デッドリーファング】をよくもここまでコケにしてくれたなぁ!」
現れたのは巨大な戦槌を構える大男――クランオーナーのグラヴィオスだ。
装備は明らかに最上級で揃えており、SSランク相当の武器に、数名の幹部クラスの仲間を従えている。
「なるほど、ここからが本番ってわけね……」
俺は深く息を吐き、剣を構える。
今までは正直、雑魚ばかりでやる気が出なかったが、ここからは多少は本気を出す……
俺の中でギアを一段上げるつもりで集中する。
「一瞬で……仕留めてやるぜぇ!」
「な、なんだこいつ!? 動きが見えねぇ!?」
先手必勝、目にも止まらぬ踏み込みと共に、先頭に立っている重装備のプレイヤーの喉元へ剣の切っ先を叩き込み命を奪う。
「か、かはぁ……」
「お、おい!タンクが役一番にやられてどうすんだよ!?」
「やっぱり今倒したのがタンクだったんだな、っとぉ!」
崩れ落ちながら粒子化していくタンク役を背に、俺は次々と急所を突き、幹部たちを斬り倒していった。
「ば、化け物かよ!あんな動きができるわけが……ギャ!」
「えーと、残るはあのでっかい奴、一人だけだな」
「ふん……くたばれぇ! 【グラウンドブレイカー】!」
グラヴィオスが勢いよく戦槌を地面に叩きつけると、強力な衝撃波が発生し、大地を激しく震動させている。
しかし俺は即座に跳躍し衝撃波を回避する。
「【ファイアストーム】!」
上空から炎の攻撃魔法を放つと、炎の渦が巻き上がるが、グラヴィオスは戦槌の一振りでかき消した。
「はっはぁ! そんな小細工が――って、どこ行ったぁ!?」
すでに俺は目の前から消えていた。
こんな子供騙しに引っ掛かる様じゃPVP上位じゃ通用せんよ旦那。
「目くらましは成功……これで終わりだ!」
低姿勢のまま足元に潜り込み、一気に剣を突き上げる。
「ヴァ、ヴァカ……なぁ……ぁあ!」
喉を貫かれたグラヴィオスは声にならぬ悲鳴をあげて、崩れ落ちながら粒子と化して消滅していった。
「よしよし、これで全員倒したな、おお……【不思議な魔角】がこんなに……」
最後の一人でもあったグラヴィオスを倒した瞬間、クランが蓄えていた魔角が一気にドロップする。
拾い集めると、合計九十八個もあった。
これで現在の順位は全体でも三位となり、ソロプレイヤーとしてはダントツに優秀な順位となってしまった。
「ふぅ……この調子ならトップも狙えるかもしれないな」
勝利の余韻に浸ったその瞬間――視界の端に光る宝珠が見えた。
「これは……【爆震珠】!?」
気付いた瞬間、宝珠が派手に炸裂する。
「ちょちょちょ!? 爆発オチなんて聞いてないぞ!」
俺は咄嗟に背後に飛び退き、爆発を回避することに成功した。
これはアルクロ内で対PK用に開発された技術の一つだ。
使用してから三十秒後に周囲も巻き込む規模の大爆発を起こす【爆震珠】という手榴弾のようなアイテムを倒される瞬間に使用し、相手にわからないように転がしておくのだ。
今回はグラヴィオスが敗北する寸前に【爆震珠】を放り投げておいたらしい。
まあ、俺の神反射神経で咄嗟に回避したから良かったものの……俺じゃなかったら爆死してたよ、まじで。
「やれやれ……最後まで卑怯な真似を……」
安堵したのも束の間、足元が嫌な音を立てながら崩れ始めた。
「な、なんだ!?地盤が――!」
先の【グラウンドブレイカー】と爆震珠の余波で、脆くなっていた岩場が一気に崩落する。
完全に足場を無くした俺は一気に奈落へと落ちていく。
「おいおい、ラストは落下オチかよぉぉぉ!?」
俺は叫び声を残し、奈落の底へと飲み込まれていった――。
少しでも面白いと思って頂けましたら、評価をお願いします。下にスクロールすると評価するボタン(☆☆☆☆☆)があります。
ブックマークも頂けると非常に喜びますので、是非宜しくお願い致します。
良ければ、感想もお待ちしております。
評価や、ブックマーク、いいね等、執筆する上で非常に大きなモチベーションとなっております。
いつもありがとうございます。




