第14話 照れる魔王様
六魔将の視線が、一斉に俺へと向く。
……うん、知ってた。
次、俺の番だよな?
玉座に座ったまま、軽く咳払いする。
落ち着け。
ただの自己紹介だ。
世界を敵に回すとかよりよっぽど簡単なはずだ……多分。
「えー……その……」
声が、若干裏返った。
やめろ、今のは忘れてくれ。
目の前には修羅の国の王、人間要塞、戦略怪物、単独生存獅子耳娘、世界記録スナイパー少女、そして狂乱の聖者。
濃度が高すぎるわ。
自己紹介のハードルが天元突破しとるじゃないか。
「お、魔王の自己紹介か?」
ギガ林がニヤリと笑う。
やめろ期待するな。
「どんな経歴ニャ?」
獅音が身を乗り出す。
距離近い!
「魔王ってどんな戦い方するのん?」
ぴろこが興味津々で聞いてくる。
理詰めで分析する気満々だろ。
「……」
ショコラは無言だが、視線が完全に射撃モード。
虎徹は小さく頷き、静かに待ってくれている。
ヴァイオレットは――じっと俺を見ている。
うん、逃げ場なし。
「お、俺は……ラグナだ」
いやそれさっき聞いたよな!?
自分で自分にツッコミを入れたくなる。
「……それだけかいな?」
ぴろこが首を傾げる。
「魔王様、趣味とかないニャ?」
獅音、やめろ深掘るな。
「得意分野は?」
ギガ林、剣の話振る気だろ。
「……」
ショコラの視線が痛い。
やばい、本気で言葉が出てこない。
おい、人見知り、ここで発動するな。
魔王だぞ俺。
「……とりあえず、剣は、まあ……ちょっとは使える」
控えめに言ったつもりだったが……
「ちょっと?」
ギガ林の目が光る。
「ちょっとで魔王は張れへんやろ」
ぴろこが笑う。
「ステータス開示してみるニャ?」
獅音、ノリが軽い。
だめだ、完全に弄られフェーズ入ってる。
――その時だった。
「皆様、ご安心ください」
優雅で柔らかな声が、空気を整える。
アストラル君が助け舟を出してくれる。
マジ最高、何この神紳士、超助かるんですけど!
「魔王ラグナ様は、かつてアルクロにて【孤高の魔剣士】の二つ名で知られたプレイヤーにございます」
……は?
おい、それを言うな。
案の定、ギガ林の目が見開かれる。
「【孤高の魔剣士】……?」
ヴァイオレットの表情が一瞬で真剣になる。
「……やっぱり」
小さく呟く言葉は予想通りの言葉だった。
「知っているのか?」
思わず聞く。
ヴァイオレットは、少し複雑そうに微笑んだ。
「はい、【神の理】では……かなり有名でした」
嫌な予感しかしない。
「悪名の方で、ですけど」
やっぱりそうだよな!?
六魔将の視線がこっちへさらに集中する。
ヴァイオレットは続ける。
「単独行動。固定パーティーを組まず、前線に現れてはボスを奪取。
対人戦では複数同時撃破。
神殿レイドでは、私たちの先発隊を一人で壊滅させたこともあります」
やめろ具体例を出すな。
「……あれは事故だ」
「事故で三十人抜きはできませんよ?」
うん、知ってる。
ていうか冷静なツッコミやめて。
「面白ぇ……ますます戦ってみたくなった」
やり取りを聞いていたギガ林が、低く笑う。
いやまあ、それは良いんだが、ちょっと今はそんな気分じゃないんだ……
「データにない動きするタイプやな?」
ぴろこが腕を組みながらこちらを観察している。
うん、めっちゃ品定めされてるやん。
「強い奴の匂いがするニャ!」
獅音が目を輝かせて俺の匂いを嗅いでいる。
ていうか、さっきから距離が近い!
尻尾めっちゃ振ってるし!
「……撃ってみたい」
ショコラの呟きが聞こえる。
内容が物騒過ぎて泣きそうです。
頼むから殺気向けないで。
「……頼もしいです」
虎徹が小さく呟く。
うん、ありがとう!
でも、相変わらず声小さすぎるね!
……ちょっと待って。
評価が極端なんだが?
俺は額に手を当てた。
「……別に、孤高とか大層なもんじゃない。パーティー組むのが苦手だっただけだ」
俺の言葉に、仲間が沈黙する、しまった!また失言か?
と思った次の瞬間――ぴろこが吹き出した。
「ははっ!なんやそれ!」
ギガ林も豪快に笑う。
獅音がケラケラ笑い、
虎徹も小さく肩を震わせている。
ショコラの口元も、わずかに緩んだ。
「……でも、それでも最前線に立ち続けたんですよね」
ヴァイオレットの優しい言葉が聞こえてくる。
視線が、柔らかい。
「一人で背負うのは、もう終わりです」
その言葉に、少しだけ胸が軽くなる。
「孤高であったからこそ、今は群れを率いる資格がございます」
アストラル君が静かに締める。
……上手いこと言うな本当に。
「いいじゃねぇか。 【孤高の魔剣士】が【魔王】になる……なかなか面白い展開だと思うぜ」
ギガ林が剣の柄に手を置きながら笑う。
「戦略は任せとき。 あんたは何も考えんと戦ってればええんやでー」
「背中は守るニャ!」
「防衛はお任せください」
「……狙撃は任せて」
「回復は、私に任せてね」
……なんだこれ。
さっきまでの重たい空気が、嘘みたいに軽い。
俺はゆっくりと立ち上がる。
「……よーし、改めて言うぞ」
深呼吸してから話してみると、今度はちゃんと声が出た。
「俺はラグナ……【孤高の魔剣士】なんて呼ばれてたが……今日からは違う」
六人を見る。
「【魔王】ラグナとして、お前たちと一緒に、この世界をひっくり返す」
一瞬の静寂の後……
「おう!」
「任しとき!」
「ニャー!」
「はい!」
「……了解」
「頑張りましょう」
玉座の間に、笑いと熱が満ちる。
……悪くない。
【孤高の魔剣士】は今日で終わりだ。
ここからは――【魔王】ラグナとしての物語が始まる。




