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第10話 【獣魔闘士】 獅音 【魔弾射手】ショコラ

 

 【サバイバル・オペレーション・リミットゼロ】


 荒野、密林、雪山、火山。

 ありとあらゆる環境が牙を剥く世界――

 【アストラル・インタラクティブ】のサバイバルMMORPG


 【サバイバル・オペレーション】


 このゲームは開始当初、「生き延びること=正義」というコンセプトを徹底した、純粋すぎるサバイバルゲームだった。

 モンスターとの戦闘のみならず、飢え、毒、気温、天候、病気。

 どれか一つでもおざなりにすれば、すぐに命の危険にさらされるというピーキーな難易度が、一部のユーザーに好評を得ていた。

 だが、その過酷さが仇となり、いつしかユーザー数は伸び悩じ始める。


 そこで運営は大胆なテコ入れを行う。


 サバイバル × 戦闘FPSの融合。

 アップデート名は【リミットゼロ】

 サバイバル要素を残しつつ、銃撃戦と戦場戦術を導入することでゲームは一気に化けた。


 以降、この世界で最も有名な二人の名が語られることになる。


 獣の如き野生の申し子【獅音しおん】は【サバイバル・オペレーション】時代からの古参プレイヤーで常にトップを走り続ける王者だった。

 リミットゼロが導入される前のまだ純粋なサバイバルだけだった頃から、一人の小柄な少女がランキングの頂点に立ち続けていた。

 猫耳のアクセサリーをつけ、その強靭な身体能力を利用した体術で相手を圧倒する。

 リミットゼロで銃火器が導入された後も、その強さは不変だった。


 「銃は便利ニャが、結局必要ないニャ! 我輩の拳で十分ニャ!」


 密林の奥、咆哮を上げるAランク魔獣【デスホーン・レオ】

 強固な角と岩のような皮膚を持つ強敵。

 普通はパーティーで挑むレベルの相手であり、一人で挑むのは無謀と言われるボスモンスターだ。

 だが獅音は笑う。


 「お前の角、我輩の食卓に飾ってやるニャーッ!」


 闘気をまとい、跳躍すると、凄まじい轟音と共に鉄拳を叩き込み、角を粉砕してしまった。


 【獣化解放:牙王ノ性】


 その姿は獣人と化し、瞳は紅に輝く。

 わずか十秒後、デスホーンは地に伏した。


 「今日も完璧ニャ。 我輩はやっぱり最強ニャね!」


 今日も野生の申し子は、単独ソロで強敵たちを薙ぎ倒していくのだった――


 ◆


 一方で、リミットゼロでFPS要素が導入されると、新たな天才が現れた。


 プレイヤーネーム【ショコラ】

 淡い銀髪、無表情の少女。

 彼女が持つのは、銀色の改造スナイパーライフル【ルナティック・ヴェール】


 一度スコープを覗けば、視界に入ったものは、生きて帰れない。


 「……風、右3メートル……そこ」


 パン!という静かな発砲音が鳴り響くと、その直後には敵の頭部が弾ける。

 彼女の射撃の命中率は100%、ヘッドショット率は90%を超えている。

 その前代未聞の記録を持って彼女は【銀色の悪魔】として一躍有名になる。


 しかし、本人はいつも無感情だった。


 「……こんなんじゃ、つまらない」


 敵は同じように死んでいく。

 もう誰も、彼女の射線を避けられない。

 そんな中で彼女が唯一興味を抱いた存在がいた。


 ランキング一位――【獅音】


 銃火器を使わずにトップに居座る「野生の申し子」……ショコラは彼女を見て、初めて心が動いた。


 「……あれ、ちょっと面白そう」


 こうして獅音とショコラはリミットゼロの双璧として語られるようになった。

 リミットゼロの世界では、いつしか語られるようになった。


 サバイバル王者  VS FPS王者

 野生の申し子 VS 銀色の悪魔

 ランキング一位の獅音と、二位のショコラ。

 どちらが真の王か、プレイヤーたちの間で論争が絶えなかった。


 プレイヤーたちが熱望し続けた獅音とショコラの直接対決。

 しかし、ここで一つの問題が浮上する。

 このゲームにはプレイヤー同士の戦闘、つまりPVPが存在しない。

 あくまでサバイバルとPVEに特化した世界であり、ランキング上の評価はあっても、この二人が真正面からぶつかる方法はなかった。

 そのため、獅音は思っていた。


 「結局ショコラと殴り合えないニャ……」


 同じくショコラも思っていた。


 「……あの獣、撃ってみたいのに」


 ある意味相思相愛の二人だったが、どちらが本当に強いのか、決着をつける場所だけが、この世界には存在しなかった。


 ◆


 そんなある日、二人に同時に特別な通知が届く。


 それは――


 【アルティメットクロニクル】からの招待メッセージだった。


 ――――――――――――

 『獅音殿』


 あなたをアルティメットクロニクルにおける魔王軍の幹部【六魔将】第四将【獣魔闘士】として招待いたします。


 その獣王としての力、野生の勘、戦場を支配する豪胆さ――いずれも魔王軍に必要な力です。

 存分に暴れ回り、魔界の大地を揺るがすことを期待しています。

 なお、あなたがかねてより決着を望んでいた

 ショコラ殿にも同時招待を行っております。


 この世界なら、あなた方が望む本当の決着をつけられるでしょう。


 ――――――――――――


 内容を読んだ瞬間、獅音は躊躇なく叫んだ。


 「我輩を獣王って言ったニャ!?いいニャ!そこでならショコラと勝負できるニャ!」


 即答だった。

 そして、間髪入れずにその門を叩く。

 【アルティメット・クロニクル】をすぐにインストールし、即座にログインを行う。


 眩い光が収まると、そこに立っていたのは黄金の鬣を風に揺らし、しなやかな筋肉をまとった獅子の獣人だった。

 紅い眼光は戦意にきらめき、背に装備した黒鉄の篭手からは、まるで呼吸するように圧が滲み出ている。

 まさに戦場に生きる者の姿、魔王軍【六魔将】第四将【獣魔闘士】獅音がここに誕生したのである。


 「おお……これ、めっちゃ強そうニャ! 最高ニャ!」


 自身の変貌を目にした彼女は、尻尾をぶんぶん振りながら喜びをあらわにした。

 【サバイバル・オペレーション】時代よりもはるかに強靭で、雄々しく、そして何より自分らしい体を得たという実感が全身を駆け巡る。

 拳を握れば力がほとばしり、どんな敵にも負けないと確信に満ちている。

 そんな新たな力に酔いしれる彼女の前へ――。


 「お待ちしておりました、獅音様」


 恭しく頭を下げる少年――アストラル君が歩み出た。

 獅音の新たな物語は、ここから本当の開幕を迎えることとなるのだった。


 ◆


 その少し後、もう一柱の光が魔界の空を切り裂くように降り立った。

 細い足が着地と同時に砂をわずかに跳ね上げ、蒼白の羽根が空気を切り裂く音を響かせる。

 風に揺られた銀髪がふわりと広がり、少女は静かに、しかし存在感を放ちながら地へ降り立った。


 【六魔将】第五将【魔弾射手】ショコラ。

 その姿は、人と鳥の特性を併せ持つ、空中を支配するハーピーへと変貌していた。


 「……羽、悪くない。高所から狙える」


 淡々とした声が響き、羽を軽く広げた瞬間、その表情にごくわずかな喜色が宿る。


 ――この感覚は【サバイバル・オペレーション・リミットゼロ】時代に愛用していたジェットバーニアに近かった。

 羽ばたくたびに生まれる圧力と浮力は、あの機動射撃を彷彿とさせる。

 ショコラは冷静に装備を確認しながらも、どこか楽しげだった。


 「ふむ……適応も早くて助かりますね」


 不意に声が割り込む。

 次の瞬間、空間がきらりと歪み、アストラル君が姿を現した。

 彼は微笑みながらショコラの前に歩み寄る。


 「ようこそ、魔王軍へ。 【六魔将】第五将ショコラ様――あなたの射撃、存分に期待しておりますよ」


 そして二人は、同じ魔王軍の六魔将として肩を並べる。

 獣の拳と、空を裂く弾丸。

 同じゲームの中で育った二つの才能は、いずれ必ず決着をつける――その静かな誓いを胸に、同じ旗の下へ集った。


 こうして、魔王軍【六魔将】の第四将【獣魔闘士】獅音と、第五将【魔弾射手】ショコラが誕生する。

 宿命にも似た対抗心を抱えながら、彼女たちはそれぞれの未来へと歩み出した。

 

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