どたばた校外学習④
「泥棒鳥ー!『結界石』返しなさい!」
アルナは『ジェムクロウ』の後ろにつき、結界魔法で捕まえようとしたが、魔法の発動を止めた。
(待って…。このまま『ジェムクロウ』を追跡して巣を見つけられたら、リナの髪飾りも取り返せるよね?)
アルナは悩んだ結果、捕まえずにこのまま追跡して、巣の場所を特定することにした。
しばらく追跡していると、昼間に来た侵入禁止エリアの上空にやってきた。
すると、『ジェムクロウ』はくるりとアルナの方に飛んできて黒い煙を体からだした。
(これがジェラルド様の言ってた煙ね。事前に聞いてて良かったわ!)
アルナは風魔法を発動し、煙を吹き飛ばした。
すぐに視界が晴れたが、そこには『ジェムクロウ』の姿は見当たらなかった。
「え?嘘?本当に消えた?どこに行ったの?」
アルナが周囲をきょろきょろしていると、はなちゃんがアルナのポケットから飛び出した。
【アルナ とり さがしてる?】
「そうなの。こんなにすぐに姿を消すなんて…。どうしよう?『結界石』盗られちゃったわ…」
落ち込むアルナの肩にはなちゃんは乗ると呟いた。
【いしのばしょ あんない してほしい?】
「え?はなちゃん、『結界石』の場所分かるの?」
【あおいいし アルナのまりょく こめられてる アルナのまりょく とくべつ だからわかる】
「私の魔力を目印にして『結界石』の場所が分かるってこと…?よし!はなちゃん、石の場所に案内してくれる?」
はなちゃんは頷くと、アルナを先導した。
はなちゃんは急降下すると、ある木の茂みに突っ込んでいく。
アルナも慌てて花ちゃんの後を追いかけた。
地上に降り立ち、木の茂みを抜けると、はなちゃんがいなくなっており、アルナは首を傾げた。
「え?はなちゃんも消えちゃった?どこいったの?」
【アルナ わたし ここ】
声が聞こえたかと思うと、アルナの足元にはなちゃんがいきなり現れた。
「いた!はなちゃんどこにいたの?って…痛っ!」
アルナが一歩前に進むと。見えない壁に頭をぶつけて痛みに悶絶していると、はなちゃんはアルナの足元付近を指差していた。
【そこ けっかい ある ここ おおきな あな あいてて けっかいのなか はいれる】
「…本当だ。ここ昼間見つけた視界遮断の魔法がかかった結界の壁があるわ。足元には穴?え?結界に大きな穴空いちゃってる!
視界遮断の魔法のせいでこの穴に入ると、消えたように見えたのね。こんな穴が空いてるって結界としてはお粗末な仕上がりね…」
アルナは目の前の結界の壁をペタペタ手で触って確認すると、しゃがみ込んで結界の穴に手を入れると、手が見えなくなるのを確認した。
【けっかいのなか アルナのまりょく かんじる】
「『ジェムクロウ』はさっきの煙で私の視界を奪った隙にこの結界の中に逃げ込んだのね。消えたように見えたのは視界遮断の魔法のせいか…」
じっと結界の穴を見つめ、アルナは悩んだ。
「結界の中は関係者以外入っちゃだめなんだろうけど、中に入って巣を発見すれば、盗られた私物を発見できるし、みんなも喜ぶよね?入っちゃっても仕方ないよね?」
【アルナ とりのすよりも けっかいのなか なにあるか きになる?】
「はなちゃん、鋭いね…。だって何を隠してるのか、気になるじゃない!いや、これは『結界石』とみんなの私物を取り返すためよ!ということで、失礼しまーす…」
アルナは結界の穴を結界の壁の穴を通り抜けると、見えたのは木の上に作られた、たくさんの『ジェムクロウ』の巣だった。
(嘘…。この巣は全部『ジェムクロウ』の巣?こんなにたくさんいるの?)
アルナが『ジェムクロウ』の数に驚いていると、はなちゃんがある1つの巣を指差した。
【あのす あそこから アルナのまりょく かんじる】
「あの巣ね?じゃあ取り返しにいきますか!」
アルナははなちゃんを手に乗せて、自分自身とはなちゃんの周りに結界魔法を施して飛行魔法で、巣に近づいた。
『ジェムクロウ』達はくちばしでアルナ達を攻撃してきたが、結界があるため、アルナ達に攻撃は届くことはなかった。
「あ!私の『結界石』あったわ!他にも髪飾りやブローチとかある。これみんなの私物っぽいわね…。結構量があるから私だけじゃあ持ちきれないし、先生とスタッフさん達に報告してから後で回収すればいいかな?」
アルナは『結界石』だけ回収すると、巣から離れ、地上に降りた。
アルナが巣に近寄ったせいか、たくさんの『ジェムクロウ』がアルナを見下ろして鳴いて威嚇している。
「鳥達、怒ってるな…。巣を見つけたことを報告しに一度テントに帰ろうかな」
結界の穴に戻ろうとした時、誰かの足音と声が聞こえて来た。
(ここ関係者以外立ち入り禁止だよね?見つかったら怒られるかも…。とりあえず隠れよう!)
アルナが近くの茂みに隠れると、2人の男が歩いて来た。
男達の身なりは『ルーチェの森』のスタッフの服装とは違っていた。
「鳥達が騒がしいから来てみたが…何か入ったか?」
「また魔物かもしれねえな。あいつら鼻がいいからな。この鳥を含めた魔物がこの結界内に侵入してるってことは、この結界完璧じゃねえのかもな…」
「魔物はあれの蜜に引き寄せられてるんだろ?最近だと『ネージュウルフ』がよく侵入して来るよな。魔物エリアのスタッフも魔物の数が減ってること気がついてるようだし、何か対策しないと、ここのことバレちまうぞ」
「そしたら俺らは捕まって人生終わりだな。今晩ボスがここにくるらしいから、報告しようぜ。ほら、そろそろ時間だし、あいつらに餌やりに行こうぜ。」
「餌いるか?今頃侵入した魔物でも食べてんじゃね?」
「…かもな?見に行ってみようぜ」
柄の悪そうな2人の男はそう言うと森の奥に消えていった。
(さっきの会話だと、この結界内で育ててるものってやばいもの?バレたら捕まるって言ってたよね?)
アルナはごくりと唾を飲みこむと、森の奥を見つめた。
【アルナ おく みにいく? きけんかも】
「…はなちゃんもそう思う?けど、巣にある盗品回収のために、後で結界内に入らざるえないから、危険な要素があるなら確認しといた方が良いよね?」
アルナは覚悟を決めると、物音をたてないように、男達が向かった森の奥に向かった。
すると、どこかで嗅いだことのある匂いがした。
(ん?この独特の甘い香りは…もしかして…)
アルナが目線の先には大きな『ケトリア』が複数植えられていた。
(うちの病院で栽培してるものよりも大きい!こんなにたくさん栽培していいものなの?)
アルナは目を見開いて、『ケトリア』を見ていると話し声が聞こえて来て、近くの茂みにアルナは慌てて身を潜めた。
先程の男2人ともう1人の男がアルナの見ていた『ケトリア』の前まで来た。
「こいつも魔物は食べてなさそうだな…。魔物の侵入は気のせいか?」
「ただの鳥の喧嘩じゃねーの?それか誰か人が侵入してたりして?」
「それなら大問題だろ?不正に『ケトリア』を栽培してるところ発見されてみろよ?俺ら将来真っ暗だぞ?」
「『ケトリア』の蜜の密売でかなり儲かってるし、ここで捕まるのは惜しいしな」
「念の為、もうちょっと見回りしてみようぜ。今日はボスが来る日でもあるしな」
3人はそのまま違う『ケトリア』の方に向かって歩いて行く。
アルナは青ざめて息を殺した。
(え?この結界内では不正に『ケトリア』の栽培が行われて、蜜が密売されてるってこと?それって犯罪よね…?急いで戻って先生達に報告しないと!)
アルナは見つからないように、静かに結界の穴に向かって歩いていた時だった。
魔法通信機の通知音が制服のポケットから鳴り響いた。
(私のバカー!通信機の通知音、切り忘れてた!)
アルナは慌てて通信機を手に取った。
通信機の画面にはシェリーからの通話が表示されていた。
慌てて通信機の通話を切り、通知音をオフにするも背後からは男達が通知音に気づいて、こちらに向かってくる足音と声が聞こえてきた。
アルナは走って結界の穴から飛び出ると、テントに向かってそのまま走った。
あと少しでテントのエリアに着きそうなところで、昼間に出会った老人がのんびりとこちらに向かって歩いてきた。
「おや?昼間のお嬢さんじゃないか。そんなに慌ててどうしたんだい?」
「ちょっと緊急事態で…。先生達を呼ばないといけないので、行きますね!」
「ちょっとお嬢様お待ちなさい。もしかして、保全エリアで何かあったのかい?私は植物エリアの管理責任者じゃ。問題があれば、わしがすぐ対応しよう」
心配そうに見つめる老人にアルナは慌てて説明をし始めた。
「実は『ケトリア』が不正に栽培されてるの発見しちゃって…それで悪い奴らに追われてたんです」
「なんじゃと?それは大変じゃ!わしを栽培してるところに案内してくれ!」
「ええ?危ないですよ!行くなら悪い奴らがいるので。戦力が必要ですし…。とりあえず私の先生達に報告してきますね!」
「ちょっと待ちなさ…うっ!心臓が…」
そう言うと老人はしゃがみ込んだ。
「えっ!大丈夫ですか?心臓ってことは心筋梗塞?今、分析魔法かけますね」
アルナは老人に駆け寄って座り込み、分析魔法をかけようとした時だった。
老人はにこりと笑い、アルナを見た。
「お嬢さん、油断は禁物だよ」
「え?今何て…!」
アルナが老人の歪んだ笑顔を見たと同時にアルナの顔面に老人の手がかざされた。
アルナは急に眠気を感じ、眠りに落ちていった。
**********
(なんだろう?誰かが私のほっぺを叩いてる?)
アルナはぼんやりと目を開けると、はなちゃんが小さな手でアルナのほっぺをぺちぺち叩いていた。
【アルナ おきる はやく にげる】
「…はなちゃん?もしかして私寝てた?」
【アルナ とじこめられてる いまひといない にげる】
アルナは状況が飲み込めず、眠い目を手で擦ろうとしたが、両手を後ろ手に紐で縛られていて不可能だった。
周囲は何処かの檻の中で、窓もなく檻の外には農機具が棚に並んでいた。
(この檻って昼間見学で見た魔物専用のやつだっけ?私、もしかして睡眠魔法で眠らされて、捕まった?あの老人に?なんで?理由はよく分からないけど、手の拘束をはずさないと…。ちょっと手荒いけどやってみよう)
アルナは火魔法を発動して、片手の人差し指に小さな火の玉をだした。
その火の玉を縛っている紐に近づけ、焼き切る。
(熱っ!手首をちょっと火傷しちゃったけど、なんとか切れた!)
自由になった手で部屋の中を確認すると、檻の扉の鍵は頑丈でいくら力を込めても開かなかった。
制服のポケットを探ってみたが、魔法通信機はなくなっていた。
(魔法通信機は盗られちゃったし、外との連絡手段がないわね…。自分の居場所が分からないと転移魔法は使えないし、やばい状況だわ)
アルナがどうやって逃げるか悩んでいると、誰かが階段か降りてくる足音が聞こえてきた。
はなちゃんは口の前で指を交差させてバツ印を作った。
【あいつら もどってきた アルナ しずかに ねたふりする】
はなちゃんは焦った様子でアルナに話しかけてきた。
アルナは頷くと、さっき寝ていたように手を後ろに回して寝転ぶと寝たふりをした。
複数の足音は近づいてくると檻の前で止まった。
「へぇー綺麗な子ですね。この子に『ケトリア』の栽培、見られちゃったんですか?」
「ああ、そうだ。俺が捕まえなかったら、今見学にきてる魔法学園の奴らにばれるところだったんだぞ?お前ら、この子取り逃がしたんだろ?何のためにお前らを雇ってると思ってんだ?『ケトリア』の餌にしてやろうか?」
誰かを蹴飛ばす音が響き、男の悲鳴が上がった。
「いてえ!ボス、すみません…。それだけは勘弁を…」
「じじいに魔法で化けてやっと『ケトリア』の密売もうまくいってるところなんだぞ?絶対捕まってたまるかよ。」
アルナはばれないようにうっすらと目を開けた。
そこには結界内で見た3人の男が座って謝る姿と、見慣れない男1人が3人の男を見下ろして叱責している姿があった。
(さっきから怒鳴ってる人、魔法で化けてるって言った?もしかして、あの人がおじいさんに化けてたの?)
アルナは驚き、男の顔を凝視した。
「この子の魔法通信機はさっきから通知音が鳴りっぱなしだ。おそらく学園側はこの子の行方を必死に探し回ってるところだろうな」
「だけど、この子『ケトリア』の栽培知ってるんですよね?学園に戻せないでしょ?」
「だからここに隠してるんだよ。とりあえず、この子が侵入してきた経路を探すぞ。こんな非力そうな少女が簡単に入れる結界なんて大問題だからな。
魔物の侵入も見逃せないし、最悪、この子を探しに来た魔法学園の連中が侵入してくるかもしれねえ」
「分かりました…。けどボス、ここの結界広すぎてどこに問題があるか見つかるか…」
「俺なら魔法が使えるから、見つけられるはずだ。
お前ら2人がさっき言ってた、鳥の巣の場所に案内しろ。そこが1番怪しいからな。
ったく…こんなことならお金ケチらずちゃんとした奴に結界を作るよう依頼すべきだったな」
ボスと呼ばれた男はちらりとアルナを見ると、ニヤリと笑った。
「あとはあの子をどうするかだな?ひとまず監禁しておいて、騒ぎが落ち着いたら売るのもありだな。見た目はいいし魔法も使えるとなると、高く売れるぞ」
「ボス、あの売る前に俺らで楽しむのは…?」
「駄目だ。商品にするから手出しするな。お前は前科あるからな。次やったら迷わず『ケトリア』の餌だ。餌になりたくなかったら、大人しくこの小屋の前の『ケトリア』達の見張りしてろ」
「ちぇ!分かったよ。もったいねえな…」
舐め回すような視線を感じ、アルナの背筋に寒気が走った。
男達は話し合いが終わると、檻の前を通り過ぎ、階段を上って行った。
アルナはゆっくり体を起こすと、身震いした。
(このままだと私、売られちゃう!何とかして脱出するか、助けを呼ばないと!学園側は私がいなくなったことに気がついているから、閉じ込められてる場所を伝えればいいんだろうけど、通信機がないのよね…)
「脱出したくても、この檻は魔物向けに作られてるから、魔法では壊せない仕様になってるみたいだし、厄介ね…。あーもう!爆弾とかあれば、この檻を派手にぶち壊して、運が良ければ結界も壊せるのに…」
【それ アルナも ふきとばない?】
「そうね…現実的じゃないわ。冷静にならないと…。脱出が難しいなら、助けを呼ぶことを考えないと。さっきの男達に見られずに外部の人に監禁場所を伝えて助けを求める方法…あ!」
アルナは、はなちゃんをじっと見つめた。
「はなちゃん!あなたの体のサイズなら、檻から逃げられるし、姿も見られないよね?逆に学園側の人間に姿を見せることも可能じゃない!」
【もしかして わたしに おねがいある?】
「私の運命ははなちゃんにかかってるの。お願い!はなちゃんだけでここから逃げて、助けを呼んできてくれない?」
【まかせて だれ よぶ?】
はなちゃんは胸を叩くと、じっとアルナを見つめた。
「はなちゃんの存在を知ってて、頼りになって助けに来てくれる人…。あの人しかいないか」
アルナはしばらく考えこみ、顔を上げた。
「今日会った人で、呪いを受けてる人いたでしょ?エドガーっていうんだけど、その人にこの状況を伝えて助けて欲しいことを伝えて欲しいの」
【アルナと いちゃいちゃ してたひと?】
「……ん?待って。はなちゃん『いちゃいちゃ』って誰から聞いたの?というか、あれはいちゃいちゃしてないよ!」
【マリア おしえてくれた なかよしのあかし】
「お母さん、はなちゃんに何教えてるのよ!って、今はつっこんでる場合じゃないわ!その人に今から私が言うことを伝えてくれる?」
【わかった あのひと けがれで ばしょわかるから おいかけられる】
「それなら都合が良いわ。姿を見せるのに魔力がいるだろうから、私の魔力をたくさんもらっておいて」
はなちゃんは頷くと、アルナの指先にキスをして魔力を吸った。
アルナの伝言を聞いたはなちゃんは飛び立った。
【アルナ もどるまで ひとりでも がんばって】
「私なら大丈夫だから。はなちゃん、頼むわね」
はなちゃんは頷くと檻から飛び出ていった。
残されたアルナは周囲を見渡して立ち上がった。
「助けを待ってるのは性に合わないから、私もやれることはやらないとね」
アルナは自分の頬を軽く叩き、気合を入れた。




