どたばた校外学習⑤
「次は風魔法…駄目だわ。傷1つつかない…」
はなちゃんがいなくなった後、アルナは檻を壊せないか、試行錯誤していた。
(檻の鉄格子を壊せればと思って、いろんな属性の魔法攻撃使ってみたけど、全然効かないし無理ね。檻の扉の鍵が手に入ればいいんだけど、男達の誰かが持ってるみたいだし難しいか…)
アルナはため息をついて、その場に座り込んだ。
(はなちゃんがいなくなって結構時間がたったけど、はなちゃんは無事エドガーのところにたどり着けたかな?もしかして途中で魔物に襲われてたり…いや、マイナス思考は駄目よ!)
アルナが立ち上がり、檻の扉の鍵をいじっていた時だった。
階段から誰かが降りてくる足音が聞こえてきた。
(また誰か来た!寝たふりしないと!)
慌ててアルナが寝転ぶと、先程の男1人が檻の前までやって来た。
「ボスはああ言ってたけど、こんな可愛い子、見過ごせねえだろ?この子にはボスに告げ口しないように脅せばいいし…」
男はズボンにぶら下げた鍵を取り出し、檻の扉の鍵を開けると、檻に入ってきた。
「おっと、暴れて逃げだす可能性もあるから、念のため扉は閉めとくか…」
男は扉を閉めると、アルナの傍にしゃがみ込んで、アルナの顎を片手で持ち上げ、じろじろと見た。
「さて何処から味見しようかね…」
「ねえ?味見って何するつもり?」
「わっ…!起きてたのかよ…」
ぱっちりと目を開けて言葉を発したアルナに驚いた男は、アルナの顎から手を離した。
その隙にアルナは男の顔の前に手をかざすと、雷魔法を発動した。
「ぎゃああああ!」
男は感電して悲鳴を上げ、身体をピクピクと痙攣させるとそのまま横向きで倒れた。
(死なないように魔力は調整したはずだし、大丈夫よね?)
アルナは倒れた男を横目に立ち上がると、檻の扉の鍵に駆け寄った。
(ご丁寧に檻の扉の鍵は閉まってるか…。鍵は男が持ってたよね?)
アルナは男に近づきしゃがみこんで、ズボンについている鍵束をとろうとした時だった。
男の手が動き、鍵束をとろうとしたアルナの腕が掴まれた。
(噓っ!あの雷魔法の攻撃を受けて動けるなんて…)
「…よくもやってくれたな?優しくしてやろうと思ったが、やめだ」
「あなた、なんで動けるの?」
「ボスのお仕置に比べたら、さっきの雷魔法は可愛いもんだ。お嬢ちゃん、これ以上怪我したくなかったら、大人しくしな」
男は空いた手にナイフを持ち、アルナを脅してきた。
アルナが男のナイフに驚いていると、男に腕を引っ張られ、押し倒された。
男はナイフをアルナの首元に突きつけた。
「暴れるなよ?まだ死にたくないだろ」
(痛っ!これ首の表皮、少し切れたんじゃない?仕方ない…ここは大人しくするふりをして…)
アルナが大人しくなったのを確認すると、男はにやりと笑った。
「いい子だ。そのまま抵抗するんじゃねぇぞ」
男がアルナの首元からナイフを少し離した時だった。
アルナは男の急所を足で思いっきり蹴り上げた。
「いっ…!お嬢ちゃん、よくも!」
男は痛みに悶絶しながら、ナイフをアルナの首元に向かって突きつけた。
しかし、アルナの首元には何か透明な壁があるようで、刃先は進まない。
「なんだ?ナイフが動かない…?」
「結界魔法で私の首元はガードされてるから、無駄よ。じゃあね、良い眠りを!」
ナイフが動かないことに混乱する男の前に手をかざしたアルナは、睡眠魔法を発動した。
男は瞼を閉じると、アルナに倒れこんできて、ナイフは男の手から滑り落ちた。
アルナは男の体の下から脱出すると、ほっと息を吐いた。
「ナイフと鍵束を回収して…。他に武器持ってたりする?うわぁ…この人銃も持ってたの?これも回収しとこう…」
アルナは男の持ち物を回収すると、檻の外に出て扉を施錠した。
男を閉じ込められたことに安堵したアルナは、息を吐いた。
手を首元にあてると、ナイフできられた切り傷からでた血が手についた。
(これぐらいで済んでよかったわ。次はこの小屋から脱出ね。)
ハンカチで血をぬぐってアルナは立ち上がり、階段近くまで来た時だった。
また、階段から誰かが下りてくる足音が聞こえてきた。
(嘘!また誰か来た?どうしよう?隠れる場所もないし、迎え撃つしかない!)
アルナは男から奪ったナイフを持ち、階段から降りてきた人影にナイフを突き出した。
「動かないで!少しでも動いたら攻撃…え?」
現れた人物を見て、アルナを目を見開き、固まった。
アルナを見たその人物は、一瞬驚いた表情を見せたが、アルナの無事を確認してほっとしたのか、表情を緩めた。
「落ち着け。俺だ。もう大丈夫だから、そのナイフはしまえよ」
「エドガー?本当に来てくれたんだ…」
アルナの目の前には、はなちゃんを肩に乗せたエドガーがいた。
安心したアルナはナイフを離すとその場にへたり込んだ。
エドガーは慌ててアルナに駆け寄ると、しゃがみ込んでアルナの顔をのぞき込んだ。
「お前、大丈夫か?…ちょっと待て。首から血出てるぞ」
【アルナ くび だいじょうぶ?】
「大丈夫…安心して気が抜けたの。首はちょっと切られただけ。エドガー、来てくれてありがとう。はなちゃんも助けを呼んできてくれてありがとうね」
安堵して微笑んだアルナを見たエドガーは耳を赤くして頭をかいた。
「あー礼はいいから。それより怪我見せろ」
「ちょっと大丈夫だから…エドガー近い!」
エドガーはアルナの両肩を掴み、首元をじっと見た。
「たしかに傷は浅そうだか…あ?こっちは絆創膏?お前、これ…」
「…っ!そっちは気にしなくていいから!少し離れて!」
そう言うとアルナは顔を赤くして両手でエドガーの胸を押した。
エドガーは少し後ろに下がると、アルナの手首を見て眉をひそめた。
「お前、手首見せてみろ。痣に火傷…?怪我しまくりじゃねえか。」
「致命傷じゃないし、こんなのかすり傷よ。」
「もしかして、お前に怪我させたのって、あの檻の中で倒れてる男か?」
「首の傷はね。けど変なことはされてないよ。手を出される前に眠らせたから。檻からも自力で脱出できたのよ。私の護身術、すごいでしょ?」
アルナは得意顔をエドガーに見せた。
檻の中の男を睨んでいたエドガーはアルナの顔を見て、ため息をついた。
「そういう台詞は無傷で帰ってきてから言え。絆創膏の件も含めていろいろ聞きたいことはあるが、今は時間がない。早くここを脱出するぞ」
「そういえば、エドガー1人でここに来たの?先生達にも報告済みなの?というか、ここは何処なの?」
「あー何から説明するかな…。まずはこの小屋の場所だ。この小屋はお前が見つけた結界内にあって、お前が捕らわれてたのは小屋の地下だ。この小屋の前には『ケトリア』がたくさん栽培されてて…」
エドガーが話していた時だった。
小屋の外から銃声が数発聞こえた。
エドガーが血相を変えて、階段上を見た。
「嫌な予感がする…。説明は後だ。この小屋から出るぞ。お前は俺から離れるなよ。」
「分かったわ。はなちゃん、私のポケットに隠れて」
はなちゃんは頷くとアルナのポケットに飛び込んだ。
エドガーが先に階段を上がり、安全なのを確認するとアルナに合図をした。
アルナは階段を上がると、そこはシンプルな小屋で部屋の奥には棚があり、ピンクの液が入った瓶がたくさん並んでいた。
(あれ『ケトリア』の蜜かな?ここに一時的に保管してるのか)
アルナがきょろきょろ部屋の中を見渡していると、エドガーは窓越しに外の様子を見て、顔をしかめた。
「窓越しじゃあ何があったか、分かんねえな。ルイスが無事だといいが…」
「え、ルイスも来てくれてるの?」
「ああ。俺が地下にお前を助けに行く間、ルイスはこの小屋に近づく敵を追い払う役割だったんだが、いねえな…」
「さっき銃声も聞こえたもんね…。じゃあ小屋の外にでてルイスを探そう!私が最初に小屋から出ようか?」
やる気に溢れるアルナにエドガーは眉をひそめた。
「何言ってんだ?お前は戦うの禁止。俺が呼びに来るまでくるまでこの小屋に隠れとけ。」
「え?私、戦力になるよ?魔力も十分残ってるし」
「あのな、怪我人を戦わせるわけねえだろ?」
「これぐらいの傷で怪我人扱いしないでよ。」
「前言ったよな?素直に護衛されろって!」
「相手はナイフや銃を持ってる危険な連中だよ?それでエドガーは怪我するのは嫌だもの」
「……」
「何?私、変なこと、言った?」
「ほんとお前は…。なんでそういうこと言うかな…」
じっとエドガーを見つめるアルナに、エドガーは顔を背けると頭をかいた。
すると、小屋の扉が勢いよく開き、誰かが小屋に飛び込んできた。
エドガーは顔をあげ、腰に差していた剣を抜こうとしたが、相手の顔を見て剣から手を離した。
小屋に飛び込んできた人物はアルナを見つけると、嬉しそうにアルナに近づくと抱きついてきた。
「アルナ、良かった…。無事だったんだね!」
「わっ!ルイス…痛い!抱きしめる力、緩めて!」
「ルイス、てめえ…こいつから離れろ」
エドガーはルイスの首根っこを掴むと、アルナから引き剥がした。
「エドガー、手荒いなあ。アルナ、抱き着いてごめんね。すごく心配だったからさ」
「心配かけてごめんね。ルイスは大丈夫なの?さっき銃声が聞こえてきたけど、撃たれてない?」
「結界魔法で防御したから、大丈夫。速攻これで気絶させたしね」
ルイスは腰に差した剣を指差した。
「あ、2人とも剣差してる!持ってきたんだ!」
「明日の魔物の討伐訓練のためにな。選択授業で剣術取ってる奴らは持参してる。まあ、今回は緊急事態で使うことになったがな」
「アルナの救出に役に立ったんだから、剣を持ってきた甲斐があったよ。って、今は話してる場合じゃないよ!今は早く小屋からでよう。さっきの銃声で敵がこっちに向かってくるかもしれない」
「そうだな。小屋からでて、何処か隠れられる場所で一度、先生達に連絡するか。」
3人は急いで小屋をでると、敵に見つからないように小屋から離れた木の茂みに身を潜めた。
魔法通信機でルイスが連絡をする間、アルナとエドガーは小声で話し始めた。
「エドガー、今回助けに来てくれたメンバーは?」
「学園の先生達と『ルーチェの森』のスタッフ達、俺とルイスだ」
「え?随分大勢で助けに来てくれたんだね?」
「お前の伝言だと敵が4名だったが、複数の『ケトリア』の栽培をバレないようにこなすには、それだけの人数で足りるわけがないってお前の幼馴染が言ったんだよ。それで敵がもっといる可能性を考えてのメンバーだ。
念のため、テントには残った生徒達を守れる最低限の戦力も残してきてる」
「ノエルがそんなこと言ったんだ。確かにあの数の『ケトリア』の栽培は少人数では無理ね…」
「もし、あいつの言う通り、多くの人が関わってるとしたら、今回の件は大事だ。本来は俺らだけで対応する案件じゃないんだがな…」
エドガーがそう言うとため息ついた。
ルイスは通信機の通話をきると、眉をひそめた。
「状況が良くないな…。どうしようか」
「何があったの?トラブル?」
「えーと、最初のプランだと先生とスタッフの大人組がおとりとして、結界内に派手に侵入して敵を引きつけてる間に、俺らが妖精の案内に従ってアルナを救出する。アルナが救出されれば、人質もいないから後は容赦なく相手を倒すだけだったんだけど…」
「あいつの予想が当たったのか?」
「ああ。残念なことに、敵が大人数で結構強いらしくて、スタッフに怪我人がでてるらしい。先生達は怪我人を庇いながら戦っていることもあって、戦局が厳しいそうだ。
俺達はアルナを救出したら、すぐテントに避難するよう言われたけど、戦闘に加勢する必要があるかも…」
エドガーとルイスは、アルナの方を見た後、目を合わせると頷いた。
「…方針は決まったな。とりあえず、こいつをテントまで避難させたら、俺らは加勢するぞ」
「そうだね。ひとまず、アルナは俺達とテントに戻ろう」
アルナはきょとんとした顔でエドガー達を見つめた。
「え?テントに戻らずにこのまま戦闘に加勢しに行こうよ!怪我人の治療なら私ができるし!」
「駄目だ。お前の安全が最優先だからな」
「私を戦闘に連れて行けば、ボスが誰か分かるよ!ボスを集中攻撃して倒せば、残った敵は戦意喪失して早く決着つくかも!あと、怪我人の治療もできて一石二鳥!ね?私を連れていけば、とってもお得!」
「バカ!得とかそういう話じゃねーだろ!」
「そうだよ。今回はアルナの救出が第一で…」
「ルイス、お願い。私も連れて行って!」
アルナはルイスの手を両手で握り、ルイスを見つめると、ルイスは顔を赤くすると俯いた。
「エドガー、ごめん…。俺、アルナのお願いには弱くて…」
「ルイス…お前どんだけこいつに弱いんだよ!冷静になれよ!」
エドガーがルイスに怒鳴りつけた。
アルナはルイスの手を離し、今度はエドガーに向かい合い、胸の前で手を合わせた。
「エドガー、お願い!」
「ルイスみたいに俺は甘くねえぞ。諦めろ」
「私が捕まったせいで、もし誰かが大怪我で亡くなったら、私一生自分を責め続けることになるわ。
怪我人を助けたいの…。エドガーだって私の立場ならそうするでしょ?お願い!戦闘現場に連れてって!」
アルナはじーっとエドガーを見つめた。
「…っ!いや、駄目だ!テントで大人しく待ってろ!」
「こうなったら不本意だけど、仕方ない…。もし、私を連れて行ってくれたら、1つだけエドガーのお願いを聞いてあげる!これでどう?」
エドガーは眉を顰めてため息をつくと、アルナに近づいて、アルナだけに聞こえるように耳元で囁いた。
「本気か?俺が無茶なお願いするかもしれねえぞ?例えば、キスマークつけさせろとか、もしかしたらそれ以上のこととか…拒否できないけど、いいわけ?」
アルナの首元の絆創膏を指でなぞり、じっと見つめてくるエドガーにアルナは一瞬言葉を詰まらせるが、エドガーに向き直った。
「…どんなお願いだって拒否はしない。約束する!これでいいでしょ?」
エドガーはアルナの耳元から離れて考え込んだが、諦めたように息を吐いた。
「脅しても駄目か…。こいつに何言っても譲らねえだろうし、時間もない…。分かったよ。ただし、絶対俺らから離れるなよ!いいな?」
「了解!じゃあ早速向かおう!」
「待て。俺とルイスで少し作戦会議させろ。無策で飛び込むのは無謀だ」
エドガーとルイスが相談している間、アルナはエドガーを見て、ふと思い出した。
(そうだ!戦闘前にエドガーに『結界石』渡しとこう!……あれ?ポケットに入れたのにない?もしかして、通信機と一緒に敵にとられちゃった?)
アルナが空っぽのポケットを覗き込み、落ち込んでいると、エドガー達が近づいてきた。
「アルナ、お待たせ!じゃあ向かおうか。……って、あれ?なんか落ち込んでる?どうしたの?」
「眠ってる間に敵に大事な物、盗られちゃったみたい…。鳥にも人にも大事な物は盗られるし、監禁されるし散々だわ…」
落ち込むアルナを見たエドガーは、見かねたのか、アルナの頭を軽く叩いた。
「盗られたなら、取り返せばいいだけだろ?取り返してやるから、元気だせよ」
アルナは顔を上げてきょとんとエドガーを見た。
「なんだよ…?その顔は?」
「いや、エドガーが励ましてくれることがあるなんて、夢かと…痛っ!デコピンやめてよ!」
「そんなことが言えるなら、大丈夫だな。早く向かうぞ」
おでこを押さえるアルナはエドガー達を追いかけた。




