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危険な薬草園見学②

目の前に迫りくるつる達にアルナがパニックになっていると、背後から誰かが駆け寄ってくる足音が聞こえた。


「お嬢様!そこから絶対動かないでよ!」

「ノエル!けど、動かないとつる達に捕まる…」

「もっといいやり方があんの!ほら、俺の言う通りにして!」


アルナがノエルの言うとおりに静止すると、ノエルは火魔法を発動した。

すると、アルナとつる達の間に火の壁ができ、襲ってきたつるは火の壁から逃げるように後退していく。


「こいつら植物だから火を怖がるんだよ!つるが火にひるんでる隙にこっちに戻ってきて!」

「戻れないの!左足がつるに捕まってて…」


ノエルはアルナの左足を確認し、眉をひそめると白衣のポケットからマスクを取り出してつけると、赤い円内に駆け込み、アルナの足元にしゃがみこんだ。


「つるを切ると蜜が飛び散って面倒なことになるから…この方法でいくか」


左足を拘束しているつるに、ノエルが火魔法で指先に小さな火の玉をだして近づけると、つるはしゅるしゅると火を嫌がりほどけて、アルナの左足から離れていく。

アルナは嬉しそうに左足を動かした。


「ノエル、ありがとう!」

「お礼はいいから早く円外に出て!」

「分かった!」


アルナ達が円外に出ようとしたときだった。

火の壁を乗り越えたつるがアルナ達に向かってきた。


「あーもう!野生の奴なら火魔法で本体ごと燃やしつくすのに!燃やさず、つるがひるむ火加減調整むずいんだよ!本当にこいつ手がかかる!」


ノエルは火の壁の魔法を一度解除し、また火魔法でより高い火の壁を作った。


「お嬢様、俺がつるはどうにかするから、早く走って逃げて!」

「そうしたいけど、クロが暴れてて片手で取り押さえることに精一杯で…。クロ、おとなしくして!」

「犬の嗅覚は人間よりも優れてるから、蜜の匂いに酔いやすいんだよ!」

「そっか!だから円外にいても犬のクロは様子がおかしくなったのね。仕方ない…。クロ、少し寝ててね!」


アルナはクロに睡眠魔法をかけた。

その時、火の壁を1本のつるが乗り越えて、つるの先の蕾をアルナに向け、花を咲かせて大量の蜜を噴出した。

アルナは睡眠魔法をかけている最中で、つるへの反応が遅れた。


(睡眠魔法に集中しすぎた!今から動いてもあの蜜の量は避けきれない!転移魔法か結界魔法を使う?駄目だわ…。魔法の発動がとても間に合わない!)


アルナが蜜を被ることを覚悟したときだった。


「お嬢様、クロを抱えてその場でしゃがんで!」


ノエルが叫ぶと、アルナはノエルの言う通りに眠っているクロを抱えて、しゃがみこんだ。

すると、アルナの頭上に半球状の結界ができ、蜜は結界にはじかれて周囲に飛び散った。


「これってノエルの結界魔法…?」


アルナが驚いて頭上の結界を見つめていると、結界魔法が解除された。


「ぼけっとしてないで!円外に走って!」


ノエルの声にはっとしたアルナはクロを抱えて円外に走った。

円外にでれたアルナはノエルを見た。

ノエルは火魔法を使って暴れるつるを相手にしていた。


「円外にでれたよ!ノエルもこっちに来て!」


ノエルは振り返ってとアルナとクロの無事を確認すると、火魔法を解除して、円外に向かって走り出した。

つるはノエルを追いかけてくるも、ノエルの走るスピードに追い付けず、ノエルが滑り込むように円の外にでた。


「ノエル、走るの早い!そんな早かったっけ?」

「足に強化魔法かけたんだよ!肉は…あった!ほら!お前の餌はこっちだよ!」


ノエルは円外に置いていた鶏肉を入れた袋を掴むと、袋ごと円内の『ケトリア』に向けて放り投げた。

すると、複数のつるが袋に群がり、鶏肉は『ケトリア』の大きな袋に放り込まれた。

袋のふたが閉まったかと思うと、つるの先にある蕾は開いて紫の綺麗な花が咲き、暴れていたつるは動かなくなった。


「動かなくなった…?」

「捕食時間に入ったからね。あの紫の花が咲いてる内はあいつの食事中だから、近づいても襲ってこない。この間に蜜を採取するんだよ。はーこれで一安心かな…」


ノエルはほっと一息つくと、その場にしゃがみこんだ。


「ノエル、助けてくれてありがとう!言いつけ守りたかったんだけど、クロが温室内に入ってきちゃったの。そしたらクロが蜜に酔ってみたいで『ケトリア』に向かって走り出して…。ねえ?ノエル、聞いてる?」

「…ひと段落ついたと思ったら…こんな即効性とは…。くそ…なんで魔法が使えないんだよ…」


ノエルの息が荒くなり、ノエルはしゃがみこんだまま黙り込んだ。

ノエルの様子がおかしいことに気が付いたアルナは眠るクロを地面に寝かせて、ノエルの様子を観察した。

ノエルの着ている白衣やマスクには、ピンク色のシミができており、よく見ると手や額が何かで濡れて、ノエルからは甘い蜜の匂いがしていた。


(そういえば、ノエルが発動してくれた結界魔法ではじかれた蜜が周りに派手に飛び散ってたよね?もしかして、その時にノエルに蜜をかかった?)


アルナは青ざめてノエルに近づくと、しゃがんだ。


「ノエル…蜜浴びちゃったのね?体は大丈夫?」

「…お嬢様。俺は大丈夫だから…このまま俺を置いて、薬草もって学園に帰って…」

「こんな状態のノエルをほっとけないよ!魔法使えないってことは、治癒魔法で自分も治療できないんでしょ?蜜の効果って何?教えてくれたら、それに合わせて私が治療するから…」


「…言いたくない。というか、お嬢様が傍にいるのがやばいんだって…。俺から離れて早く温室出て!時間がたてば落ち着くはずだから…」

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!とりあえず蜜がついたマスクと白衣は脱いで!あと、かかった蜜はふき取るね」

「待って…今お嬢様に触れられたら…」


アルナはノエルの言葉を遮るように、ノエルの白衣を引っ張って脱がせた。

そして、持っていたハンカチでノエルの手についた蜜を拭きとった。

ノエルの顔にかかった蜜もふき取るために、ノエルのマスクをアルナがとった時だった。

ノエルがアルナの片手を掴み、顔あげてアルナをじっと見つめてきた。

ノエルの顔は赤くほてり、ノエルからとろんとした熱い視線を感じた。


(ノエルの雰囲気がいつもと違う!ノエルをこんな風にするなんて、蜜の効果は何?『ケトイン』の効果は神経を興奮させ、幸福な気分にさせるんだったよね?『ケトイン』の原料が蜜なんだから、効果は同じか類似するはずだから…。ん?興奮?ノエルが言いたがらなかったことやこのノエルの反応も考慮すると、もしかして…)


「ごめん!ノエル、分析魔法使うね。私の予想があってるか、確かめさせて!」

「…っ!待って!それは勘弁…」


アルナはノエルの言葉を無視して、ノエルに捕まれていない手でノエルの肩に触れると、分析魔法を使った。

分析結果を確認したアルナは顔を赤くした。


「やっぱり!結果が『精神障害(性的興奮)』ということは…蜜には媚薬効果があるのね!」

「分析魔法だとそんなふうに結果でんの…?恥ずかし…。だからお子様のお嬢様には言いたくなかったのに…」

「お子様って、ノエルとは4歳しか違わないじゃない!恥ずかしがらずに症状を言ってくれないと、治療できないでしょ?」


「媚薬って分かって顔赤くしてるうちはお子様でしょ?あーやばい…。媚薬として使う時は蜜を薄めて使うのに、俺は原液もろにかかちゃったし、効果がすごくて…。しかもお嬢様と2人っきりって…。他の女なら耐えられたのに…」

「ぶつぶつ言ってないで、ほら!症状が分かったから、早速治癒魔法かけるよ。精神障害の治癒魔法の呪文はたしか…」


アルナが魔法をかけようとノエルの体に手を伸ばした時、ノエルはアルナの両手を掴んで、アルナの目をじっと見つめてきた。

ノエルの目には熱がこもっており、捕食者の目のように見えた。


「ノエル、手を放して!これから治療するから」

「なんで…お嬢様逃げなかったのさ?自分から近づいてくるし…俺我慢の限界…」


ノエルはそう言うと、アルナの手首に唇を近づけキスをした。

アルナは顔を赤らめて固まった。


(ノエルがおかしい!色気がダダ漏れというか、何かスイッチ入っちゃってる!早く治療しないと本格的にやばい!)


ノエルはアルナの手首から唇を離したかと思うと、アルナの両手を引っ張り、アルナを抱きしめた。

ノエルはそのままアルナの首筋に唇をあてたかと思うと、強く吸い付いた。


「ひゃあ!ノエル、やめて…。それくすぐったい!」

「ごめん…無理。文句は後で聞くからさ…」

「後でって…ひゃう!耳弱いのに…」


アルナは顔を赤くして抵抗するも、ノエルはアルナの肩や首、耳にもキスを繰り返した。

キスの途中で何度かピリッとした痛みを感じて、アルナはノエルの拘束から逃げようとするも強く抱きしめられており、逃げられそうになかった。


(ノエル、全然話聞いてくれない!私も蜜の匂いにあてられてるのか、体は熱くて力が入らなくなってきてる…。)


無抵抗になっていくアルナにキスをし続けていたノエルは唇を首から離し、アルナの頬に片手を添えると、アルナの顔をのぞき込んできた。


「顔真っ赤じゃん…。可愛い…。あー止めらんない…」


ノエルはそう言うと、顔をアルナに近づけてきた。

アルナはぼんやりとノエルの顔を見つめていた。


(あれ?これって唇にキスされるんじゃ…。唇にキス?いや、それは駄目!絶対阻止しないと!ノエルが正気に戻るような衝撃的なこと…そうだ!昔ノエルに言ったあの言葉!)


お互いの唇が触れ合いそうになった時、アルナは叫んだ。


「これ以上やったらノエルのこと、『大嫌い』になるから!」


すると、それを聞いたノエルはビクッと震えて動きを止めた。

しばらく固まったままだったノエルは、アルナの頬から手を離して顔をアルナから遠ざけると、その自分自身の手に嚙みついた。

噛みついた手から赤い血がたれ、その血を見たアルナは青ざめた。


「ノエル、何してるの!?」

「痛っ…。痛みでちょっと頭はっきりした…。お嬢様、今の内に治癒魔法かけて!このタイミング逃したら俺止まれる自信ない…」

「分かった!」


アルナは出血しているノエルの手を両手で握り、精神障害の治癒魔法をかけた。

ノエルの顔の赤みは徐々になくなり、アルナを抱きしめる力も弱まっていく。


「よし!治癒魔法かけ終わったよ!手の噛み傷も直しとくね」


アルナが治癒魔法で手の噛み傷も治すと、ノエルは大きく息をはいて、顔をあげた。


「お嬢様、ありがとう。やっと落ち着いた…。魔力の流れが元に戻ったから、魔法は使えるな。あれ?お嬢様、まだ顔赤いじゃん?一応確認するか…」

「や、やめて!私は大丈夫だから、分析魔法はいらないよ!」


アルナは慌ててノエルの手を離してノエルから距離を取ろうとした。

しかし、ノエルが強く抱きしめてきたため、逃げることは叶わなかった。


「こら、逃げないの。分析魔法かけるよ。あーやっぱり。軽度だけど『精神障害(性的興奮)』だって」

「症状名を口に出さないで!うう…これ恥ずかしい...」


アルナは両手で赤くなった顔を隠して、俯いた。


「俺の気持ちが分かったでしょ?俺にかかった蜜をふき取った時に蜜に触れちゃったのかもね?このままだとつらそうだから、治癒魔法かけとくよ」


ノエルはにやりと笑うとアルナ抱きしめたまま治癒魔法をかけた。

体の熱が落ち着いていくのを感じたアルナは安心して、思わず体の力が抜けた。

慌ててノエルが倒れそうになったアルナを抱きしめて支え、2人ともその場で座り込んだ。


「おっと!お嬢様、大丈夫?精神障害は治ったはずだけど?」

「大丈夫…。なんか安心したら力が抜けちゃった。ノエルが正気に戻ってくれなかったら、やばかったね」

「まさか魔法が使えなくなるとは盲点だったな...。それにしても『大嫌い』は効いたね。昔、俺がお嬢様にイタズラして、お嬢様が怒って叫んだ言葉だからね。あの後ずっと口をきいてくれなくなったの思い出したよ」


「あの時、ノエルすごいへこんでたもんね。私のお父さんまでもが『反省してるみたいだから、許してあげなさい』って言ってきたもの」

「え?ハリス院長が?それは初耳だわ...」


2人がほっと息を吐くと、ノエルはじっとアルナを見た。


「あのさ…蜜のせいとはいえ、暴走しちゃってごめん。今回の件で俺のこと嫌いになった?」

「え?ならないよ?元はと言えば、私の我儘でここに連れてきてもらったんだし、トラブルに巻き込んで申し訳なかったというか...。私こそごめんね」

「お嬢様の我儘に巻き込まれるのは慣れてるから、謝らないでよ。まあ、今回は役得だったしね。あんなお嬢様を見れるなんてレアでしょ?」


ノエルはニヤニヤしながら笑い、アルナは顔を赤くした。


「うう…ノエルがいろいろしてきたのも悪いんだからね!」

「いろいろって…あ!ちょっとお嬢様、首とか見せて」


ノエルは慌ててアルナの首や肩を観察し始めた。


「え、ノエル何してるの?」

「うわーこれはやばいというか…エロいな。俺どんだけ理性ぶっ飛んでたわけ?消しとくか…」

「ノエル?なんで私の肩や首に治癒魔法かけてるの?」

「…お子様は知らなくていいよ。ほら、じっとしてて」

「お子様って…え!嘘でしょ?ノエル、やばいよ!とりあえず私を離して!」


アルナはノエルの背後を凝視すると、慌てて腕をのばしてノエルから距離をとろうとした。


「ほら、暴れないで。やばいのは知ってるから少し待って。あと2箇所だから…」

「そうじゃなくて後ろ…ひぃ!あの顔は絶対怒ってるよ!」

「お嬢様、いい加減大人しくしてよ。さっきから一体なんなのさ?」


ノエルがアルナが凝視している背後を見るために、後ろを振り返った。

そこには、こっちに向かってゆっくり歩いてくるヴァンが見え、ノエルは固まった。

ヴァンはアルナ達の前まで来ると、2人を冷たい目で見た。


「さて…これはどういう状況ですか?アルナお嬢様とノエル、何があったのか、正直に全て話しなさい」


有無を言わせないヴァンの圧にアルナはただ震えるだけだった。

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