魔法の資質検査
「ねえねえ?この前のエドガー様との2人っきりの王都散策はどうだったの?」
休日が明けた学園の昼休み、食堂でわくわくした顔を見せるシェリーにどよんとした顔をアルナは見せた。
「え?何その反応は?エドガー様と2人っきりにしたら、何か進展があるかも?ってロナウド様と期待してたのに」
「なるほどね…。ロナウド殿下とデートしたいっていうのは、私とエドガーを2人っきりにさせるためだったのね。なんかおかしいと思ったのよ」
アルナは目の前にある昼食をフォークでつつき、ため息をついた。
「え?何?アルナ、エドガー様とデートしたの?」
リナも興味ありげにアルナを見てきた。
「あれはデートとはとても言えないよ…。事件にも巻き込まれたしね」
「アルナの場合は、どうも私の予想から外れた展開になるみたいね。何があったか教えてほしいわ。」
「市場に行ったらスリにあって変な連中に絡まれ、エドガーにいろいろされて…。うう…思い出しちゃった」
アルナは思わず顔を赤くして両耳を押さえ、机に突っ伏した。
「ちょっと待って!いろいろ気になるけど、特に後半!気になるから、そこを話して欲しいわ!」
「俺も気になるなあ。その話俺も混ぜてくれる?」
頭上から優しい柔らかい声が聞こえ、アルナは顔を上げた。
そこにはルイスとジュラルドの2人が立っていた。
「ルイス様、女子の話に入ってくるのは無粋ですわ」
シェリーがルイスを嗜めると、ルイスはにこりと笑った。
「ごめんね。けど、アルナがデートとか聞こえてきたものだから。それは気になるでしょ?」
「ルイスが女の子に興味をもつなんて、珍しいね」
ジュラルドは驚いた顔でルイスを見た。
「俺だって男だし興味はあるよ。まあ、ジュラルドは興味ありすぎるみたいだけどね」
「私もそう思いますね」
「ルイスは慣れてるんだけど、リナ嬢に言われるとつらいな…」
項垂れるジュラルドを横目にルイスはアルナの方を見た。
「で、話は戻すけど、アルナはエドガーとデートしたの?」
にこりと微笑みながらアルナをじっと見てくるルイスの目線にアルナは気まずくなり、目線をそらした。
「だからデートじゃないの!ルイス?そんな顔をしても私は何も話さないから、これ以上聞かないでね!」
ルイスは顎に手を当てて、残念そうな顔を見せた。
「だいたいの女の子は俺が微笑みかけると、顔を赤くして話をしてくれるんだけど、アルナには通じないか。なかなかアルナは手強いね」
(ルイスにエドガーにされたこと言ったら、またエドガーに抗議するとかいって騒ぎ出すのが目に見えてるもの!噂が酷くならないようにルイスを刺激しないようにしないとね。)
アルナはエドガーにされたことを忘れようと目の前の昼食を食べることに集中した。
シェリーはアルナの反応を確認すると、ルイス達を見て手を叩いた。
「殿方が来てしまったし、この話は女同士でまた今度にしましょう!アルナも今は話したくないみたいだしね」
「そうだね。この後、魔法実技で運動着に着替えないといけないから時間がないもの。そういえば、今日の魔法実技は魔法の資質検査するらしいよ」
「え!リナ、それ本当?」
昼食に集中していたアルナはガバッと顔をあげた。
「う、うん。そう聞いたよ。魔法の資質検査を受けたことが無い生徒が結構いるらしくて、今回の授業で検査を実施することが決まったみたい」
「アルナ、そんな驚いてどうしたの?何が不都合なことがあるの?」
「あはは…ないよ。そっか。授業内でするのね。知らなかったわ…」
アルナは平静を装い、ご飯を再開した。
シェリー達はアルナのおかしな態度に首を傾げた。
(どうしよう!魔法の資質検査が授業内であるなんて思わなかった!あれって魔法のスキル判定までされるから、浄化スキル持ちがばれちゃうよね…?こうなったら、お父さんの悪知恵に頼るしかない!)
アルナは不安を抱えながら、シェリー達と実習場に移動した。
魔法実技の授業が始まると、キャンベル先生とローブを着た大人が数名、生徒達の前に立った。
「今日はまず魔法の資質検査を行うわよ。この検査では、個々の魔力を読み取って、どんな属性の魔法が得意なのかが明らかにできるわ。自分が得意な魔法属性を知っておくと、魔法の上達も早くなる。だからこそ、今回の検査結果は重要な情報であり、今後のカリキュラムに関わるものだから、みんな検査を受けてね」
生徒達は自分の魔法の資質が気になるのか、ざわざわし始めた。
キャンベル先生は水晶玉を両手に抱えると、魔力を込めた。
すると、水晶玉は青く光りだした。
「検査方法はこの水晶玉を使う。魔力をこめれば、このように水晶玉はいろんな色に光る。光る色で得意な魔法属性が分かるわ。私の場合は青色だから、水魔法が得意ということね。魔法スキルを持っていれば、水晶玉にスキル名が表示されるわ。実際の検査は私の隣にいる検査員の方々が行ってくれるから、検査員の前に並んで検査を受けなさい」
説明を聞いた生徒たちは列を作り、検査を受けていく。
検査員は検査結果を書類にしっかり記録しており、アルナはその様子を確認していた。
(検査結果を生徒に口頭で伝えるだけなら問題ないかなと思ったけど、しっかり記録として検査結果が学園側に残るとなると…今回の検査で浄化スキルがばれたらまずいわね。やっぱり小細工は必要だわ。)
アルナが思案していると、リオが気が付いて声を掛けてきた。
「あれ?アルナ嬢、検査受けねえの?今だったら奥の列はすいてるぜ?」
「う、うん!じゃあ行ってくるね」
アルナは覚悟を決めて検査の列に並んだ。
検査の順番が回ってきたアルナは水晶玉に手を乗せ、魔力を込めると水晶玉は白く光り輝いた。
「白色ということは、君は光魔法が得意なようだね。光魔法には、治癒や浄化魔法が含まれるんだよ。君の場合は治癒スキル持ちだから治癒魔法が得意ってことかな?…ん?あれ?何かもう一つスキルがありそうな…」
(やばい!浄化スキルを確認されそう!検査員の方には申し訳ないけど、やるしかない!)
検査員が水晶玉をのぞき込もうとした時だった。
アルナは慌てて水晶玉に思いっきり魔力を強くこめた。
すると水晶玉にひびが入り、水晶玉の光が消えた。
「あれ?光が消えた?ああ!ひびが入ってる!こりゃこの水晶玉は使えないなあ」
「あの、すいません。もしかしたら私の魔力が多すぎて水晶玉が割れちゃったのかもしれません。前もこんなことがあったんですよ」
「そうか。君、ずいぶん魔力保有量が多いんだね。この水晶玉はあまりに多い魔力を込めると、割れて使い物にならないとは聞いてたんだけど、実際見るのは初めてだな…。これじゃあこの水晶玉で測定は無理だな」
「あの、魔法の資質確認はできたんで、検査は終わってもらってもいいですか?光魔法が得意なのは治癒スキル保持だからだと思います。また新しい水晶玉を壊すのは申し訳ないですし…」
検査員は予備の水晶玉を取り出しつつ、少し考えこむと顔をあげた。
「そうだね。今日はこのタイプの水晶玉しか持ってきてないし、スキル確認は必須ではないからね。光魔法が得意なのは分かったし、今日はもういいよ」
(良かったー!水晶玉を壊したのは申し訳なかったけど、ばれたら情報が神殿に漏れて自由のない生活になるかもしれないんだもの。お父さんの悪知恵、ありがとう!)
アルナはほっと息を吐いて、検査場所から離れると、誰かの目線を感じてそちらを向くと、そこにはエドガーがいた。
「エドガー、私に何か用なの?」
「お前、さっきのわざとだろ?」
「え?何のこと?」
エドガーは周囲に人がいないことを確認すると、小さな声でアルナに話しかけてきた。
「強い魔力をこめて水晶玉をぶっ壊したことだよ」
「…バレてた?お父さんからね、浄化スキルがばれそうになったら、検査用の水晶玉に魔力を思いっきりこめるといいって聞いてたの。私の魔力量なら余裕で壊せるだろうってね」
「力技すぎるだろ。今日の授業をさぼればよかったんじゃねえの?」
「それも考えたけど、別日に個人で検査受けることになった方が誤魔化しにくいでしょ?」
「…そういうところは頭まわるんだな」
「そういうところとは失礼ね。もしかして、浄化スキルバレしないか、私を心配してくれてたとか?」
「っ…!なわけねえだろ。お前がスキルバレて神殿行きになったら、俺の呪いの浄化ができなくなんだろ。そうなると俺が困るからな」
「なるほど…確かにそうだね。じゃあ私の患者でいたいのなら、今回のことは内密にお願いね?」
「…別にバラすつもりはねえよ」
耳を赤くしてアルナから目を背けたエドガーを横目に、アルナは他の人の検査風景を眺めた。
「そういえば、エドガーは資質はどうだったの?」
「俺は火魔法だ。まあ、血筋を考えたらそうだろうな」
「血筋?なんか遺伝的要素があるの?」
「お前、4大公爵家の由来を知らねえな?貴族なら知ってて当たり前だぞ?」
「貴族の一般教養は興味がないもので…。けど魔法と関連してるなら興味がでてきたわ」
「...本当にお前令嬢なのかよ?」
呆れた顔でエドガーがアルナを見た時だった。
2人の背後からロナウドが現れた。
「2人で何話してるの?僕も混ぜてもらってもいいかな?」
「ロナウド殿下!さっきまでの話聞こえてました?」
「いや?聞いてないよ。僕さっき検査終わったばっかりだからね」
「それならよかったです!あの、4大公爵家の由来って知ってます?」
「もちろん。僕は一応この国の第2王子だからね。
『4大精霊と契約して力を得た4つの一族は、王家を守ることを誓い、オルリア王国の守護者となった。』これはオルリア王国の建国記の一節だよ。この4つの一族が今の4大公爵家にあたるんだよ」
「4大精霊って、地・水・火・風の四大元素に宿ってる精霊でしたっけ?」
「そうだよ。精霊と契約して精霊の加護を受けることで、それぞれの属性魔法を得意とすることができるんだ。エドガーの一族は火の精霊と契約してるから、得意なのは火魔法だよね」
「ああ。ルイスの一族は水の精霊、ジュラルドの一族は風の精霊と契約してんだよ」
「ということは…ルイスは水魔法、ジュラルド様は風魔法が得意ということね。エドガーが火魔法ばっかり使うのは、単純に火魔法が好きなのかと思ってた」
「そんな単純な理由じゃねえよ。他の魔法に比べたら扱いやすくて魔力消費も小さいから便利なんだよ」
「なるほど…。ロナウド殿下、教えてくれてありがとうございます!」
「いや、王都散策の時、シェリーと2人でデートしちゃったしね。これぐらいいいよ。そういえばあの後、エドガーと2人で王都は楽しめた?エドガーがアルナ嬢の護衛を自ら進んでやるって言ってくれたから、エドガーに任せても大丈夫と思ってたんだけど」
ロナウドがそう言った時、アルナとエドガーの2人は固まった。
「え、ロナウド殿下がエドガーに護衛を頼んだんですよね?」
「それはそうなんだけど、アルナ嬢のことをルイスが気に入ってるみたいだから、最初はルイスに護衛を頼もうと考えていて、それをたまたまエドガーに話したら…」
ロナウドが話を続けようとした時、アルナの背筋がゾクゾクし、小さな火の玉がロナウドとアルナの目の前に一瞬現れて、アルナは悲鳴をあげた。
ロナウドは笑ってエドガーを見た。
「あーこれは言っちゃ駄目だったかな?」
「ロナウド、コイツに余計なこと言うな」
「エドガーが自ら私の護衛を希望…?あのエドガーが護衛なんて面倒くさいことを善意で引き受けるとは思えないし…。何を企んでいたの…?」
アルナが俯きブツブツ呟いて腕を組んで悩んでいると、エドガーが黙ってアルナに近づいてきた。
エドガーはアルナの両頬を手で包み顔を上げさせると、耳元に唇を寄せて囁いた。
「さっきのロナウドの話は忘れろ。忘れられないっていうなら、またこのまま…」
「ひゃあ!だから耳元で話さないで!」
アルナは顔を赤くし、エドガーの頭を耳から離そうと両手で頭を掴んで押すもビクともしない。
「うう…なんで動かないの!」
「お前が力弱すぎなんだよ。で?忘れられそうか?」
「だから息が…ひゃう!忘れる!忘れるから離れて!」
「お前、耳弱すぎじゃね?」
「あう…息かかって…もう!誰のせいでこうなったと思ってるの!」
エドガーはにやりと笑ってアルナから離れた。
アルナは片耳を押さえて真っ赤な顔でエドガーを睨んだ。
ロナウドは2人のやり取りを見て、目を丸くした。
「へえ、これは…。アルナ嬢のあんな表情見るの初めてだな」
「あら、ロナウド様も検査は終わったんですか?」
「シェリー、いいところに来たね。あの2人に何か進展があるかもとは言ってたけど、確かに何かはあったようだよ」
「ふふ、そうみたいですね。アルナの口から話が聞けるの楽しみだわ」
ロナウドとシェリーはアルナ達が騒ぐ姿を見て微笑みあった。




