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お忍び王都散策④

「ねえ、エドガー!ここでストップ!ここより先でこの体勢はまずいよ」

「なんだよ?いきなり騒ぎ始めて…」


ランドル学園の校門近くで横抱きされたアルナはエドガーの肩を叩いた。


「エドガーに私が抱っこされてるのを生徒に見られたら、また噂が広がるかも…。色恋沙汰の噂は舐めちゃいけないのよ」

「…要は誰にも見られず部屋に戻ればいいんだろ?ここから寮までは距離も近いし、お前を抱いてればいけるな」

「いけるってもしかして…わっ!」


エドガーが転移魔法を発動させると、アルナが悲鳴をあげて目を瞑った。

アルナが目を開けると、そこはエドガーの寮の部屋だった。


「思ったんだけど、私を下ろして一度お互いの部屋に戻ってから、私が転移ペーパーでエドガーの部屋に行けば良かったんじゃない?」

「そうすると、説教が嫌だからって、お前が部屋に来ないかもしれないだろ?」

「確かに説教は嫌だけど、今日の浄化が終わってないから魔法医としてここには来たよ?」

「…そういうところは真面目だな。まあ、まずは確認だ」


そう言うとエドガーはアルナをベットに下ろし、靴を脱がせた。

下ろされたアルナは上半身を起こした。


「確認って何?」

「お前の怪我だよ。怪我は腕だけか?」

「他は…ないと思うけど」


アルナは自身の体を見たり触ったりした。

エドガーはアルナの全身を見ると、足を指差した。


「すね赤くなってるけど、大丈夫なわけ?」

「これは男を蹴り上げた時のあとかな?痛くないし大丈夫!腕の青あざのところは治癒魔法かけとこう。」

「…変なこともされてねえな?」

「変なこと?あいつらには腕以外触られてないよ?」


ほっと息を吐いたエドガーはアルナがいるベットに腰掛けた。


「今日は薬でふらついた男3人相手だから無事だっただけだからな。財布すられても1人でなんとかしようとせず、俺を呼ぶべきだった」

「そんなことしてたら、呼んでる間に犯人に逃げられちゃうじゃない!」

「財布よりも身の安全の方が大事だろうが!実際に怪我してんだろ?」

「これぐらいの怪我、治癒魔法で治るもの。エドガーは勘違いしてるみたいだけど、助けてもらわなくても、腕を掴んできた男ぐらい私1人で対処できたわ。エドガーは私を過小評価し過ぎよ」

「あーそうかよ!懲りてないのがよく分かった!じゃあ本当にそうか試すか」


アルナの態度にカチンときたエドガーはベットの上に上がり、アルナに近づいていく。

自身の怪我の治癒が終わり、気を抜いていたアルナはエドガーへの反応が遅れた。

アルナはエドガーに肩を押されて、仰向けに倒れ込んだ。

アルナは急いで上半身を起こそうとするも、エドガーがアルナの上に覆い被さってきて、アルナの両手をベットに押さえつけてきたために、起き上がることができなかった。


「たった男1人にこんな好きなようにされてるのに、過小評価し過ぎだって言えんの?」


エドガーがじっとアルナを見つめてきた。

アルナは顔を真っ赤にしてエドガーを睨んだ。


「不意打ちは卑怯よ!しかもエドガーは患者さんだから、私が本気で抵抗できないだけだもの!」

「本気ならどうするわけ?」

「急所を蹴り飛ばしてる」

「じゃあ本気でやってみろよ。俺を敵と思って」

「…その言葉忘れないでね」


アルナは蹴り上げようと足をあげようとしたが、エドガーの手で足を押さえつけられてしまった。

気がつくとアルナの両手はまとめてエドガーの片手で抑えつけられていた。


「次はどうすんの?このままだとやばいんじゃねぇの?」


エドガーはニヤリとアルナを見てきた。

アルナは悔しくて、手足に再度力をいれるがびくともしなかった。


「うう…降参よ!私の考えが甘かったの認めるから離して」

「これに懲りて1人で王都散策するのはやめろよ。護衛も素直にされろ。分かったな?」


そう言うと、エドガーはアルナの手足を押さえつけていた手を離し、そのままアルナを抱きしめた。


「ねえ?もう十分懲りたから、離してよ!説教も終わったよね?」

「うるせえ…。一日中お前を護衛してたせいで、身体中が痛いんだよ。しばらく抱き枕になってろ」


アルナは抵抗しようとしたが、エドガーを覆う瘴気の量はいつもよりも多く、目に見えて体の痛みが酷いことが分かったため、大人しくすることにした。


(そういえば、今日の王都散策中にエドガーに確認しないといけないと思ったことがあったような…。なんだったっけ?)


「あ!思い出した!」

「…いきなり大きな声だすなよ」

「エドガー、離して!こういうことする前に確認しないといけないことがあったの」

「なんだよ?」

「エドガーって婚約者とか恋人はいる?」


エドガーはアルナを抱きしめたまま、怪訝そうな顔をして、アルナを見た。


「それをなんでお前は知りたいんだよ?」

「嫉妬に駆られた女性が怖いから」

「は?意味分かんねえよ。分かりやすく説明しろ。」

「だから、もしエドガーに婚約者や恋人がいた場合、相手の女性が私のことをどう思うか気にしてるのよ。呪いの浄化のためとはいえ、夫や恋人が他の女性を抱きしめたりしてると知ったら、嫉妬心が芽生えて面倒なことになるかもしれないでしょ?」

「いねえよ。そんな女」

「本当にいないの?あんな女の子にモテてるのに?」

「俺の家柄や容姿に惹かれて寄ってくる女に興味ないね」

「そうなんだ。じゃあ大丈夫なのかな…?けど、全く女に興味ないわけじゃないでしょ?たしか、昔ある女の子探してたって…ちょっと!抱きしめる力強くしないで!」


(エドガーの機嫌が一気に悪くなったような…。寒気もしてきたし、これ瘴気出てるよね?エドガーが昔探してた女の子の話はしない方が良かったかも…。)


「お前がいなくなって探し回ってて忘れてたが…思い出したわ。お前、からかい甲斐があって面白そうだの言ってたな?なんか腹立ってきたわ…」

「エドガー、落ち着いて?瘴気が出始めてるよ!深呼吸して…」

「護衛して襲われそうになってるところを助けてやったのに、お礼もなく1人でなんとかなったって言われるし?悪人に見えるとも言われたっけ?」

「ははは…よく覚えてるね…。ねえ?説教は終わったし、一度私は部屋に戻ってもいいかな?」

「…俺が許可すると思うか?」

「護衛に危ないところを助けてくれてありがとうございました!お礼言ったし、許してくれないかな…?」

「お礼言うのがおせえわ!心配をかけさせやがって…。罰として、今日は俺の好きにさせろよ」

「何を…ひゃあ!エドガー、それやめて!くすぐったい…」


エドガーはアルナを抱きしめたまま、アルナの耳に唇を寄せた。

吐息が耳にかかり、くすぐったさにアルナは身を捩らせた。


「脇腹くすぐってきたやつが何言ってんだよ。あとこれからが本番だからな」


そう言ったエドガーはアルナの耳を軽く噛んだ。


「ひゃあ!なんで耳を噛むの…ストップ!」

「俺の言うこときかねえから、耳は飾りかと思ったけどそうじゃないみたいだな…。俺が満足するまで我慢しろ」

「耳元で話さないで…息が耳にかかって…うう!また噛んだ!なんかゾクゾクして…。何なの?この感覚…」

「…そんな表情されたら、続けるしかねえな。こっちの耳終わったら、もう片方の耳もするぞ」

「え…もう片方も?ひゃあ!また…これ変になりそう…もう許してー!」


しばらくして解放されたアルナはぐったりとなり、引き続きエドガーの抱き枕になっていた。


「これぐらいで許してやるか」

「エドガーの鬼…。これで耳がおかしくなったらエドガーのせいよ…」


アルナは顔を赤くして両耳を手で押さえていた。

そんなアルナをエドガーはニヤニヤしながら見つめていた。


「甘噛みだから大丈夫だろ?お前が耳弱いことがよく分かったわ。脇腹くすぐった件もこれで許してやるよ」


機嫌がなおったエドガーはアルナの髪を指ですくい眺めていた。


「お前さ、この髪色は地毛か?」

「うん、生まれた時からこの色だよ」

「髪色を変えたことは1回もないのか?」

「…変えたくても変えられないのよ」

「どういう意味だよ?」

「体質なのか分からないけど、何故か私の髪は他の色に染められないの。昔遊びで髪色を変える魔法も使ってみたけど、それでも変えられなかった。魔法が発動できてないのかと思ってヴァンにも魔法を試しにかけたら髪が真っ赤になって怒られたことあったな…」

「…ふーん、そうかよ」


心なしか残念そうなエドガーの声にアルナは疑問を感じたものの、そのことを突っ込んでまたエドガーを怒らすのは避けたかったため、黙っていた。


(今日はもう私へとへとだわ…。早くエドガーの浄化を終わらせて部屋に帰ろう。けど、今日の瘴気の量は多いし、いつもの方法だと浄化にかなり時間かかりそう。効率よく浄化するために接触面積の多い浄化方法を採用したいけど、エドガー嫌がるだろうな…。いや、ダメ元で提案してみよう。)


「エドガー、今日の瘴気の浄化しようと思うんだけど、今日は瘴気の量が多いから効率良く浄化したいの。それで、提案なんだけど…」

「前やった体勢で浄化するのは拒否するぞ」

「だよね…。どう負担なのか教えてくれたら改善点が見つかるのに言ってくれないのよね」

「…言えるわけねえだろうが」

「もしかして、顔が近すぎて恥ずかしくて嫌だったとか?じゃあこの体勢はどう?」


そういうと、アルナはエドガーに背を向けてエドガーの腕を自分のお腹に回した。

そして、エドガーの両手を自分の両手で包み込んだ。


「エドガーが私を後ろから抱きしめて、その状態で私がエドガーの両手に触れるの。浄化は呪いを受けた部分に触れなくても可能だし、背中の火傷部分に手を当てるよりは接触面積は増えるから、浄化効率は上がるはず!これで浄化してみていいかな?」

「これなら(あれ)も当たらないし問題ないか…」

「え?あれって?」

「…気にすんな。ほら、早く浄化魔法かけろよ」


釈然としないアルナだったが、予想と違いエドガーからすぐに許可が下りたことに安堵し、早速浄化魔法を発動した。

アルナは顔だけ後ろに向けて瘴気の様子を観察した。


(前ほどじゃないけど、背中の火傷部分に手を当てるときよりも瘴気の消えていく速度は速い!呪いの掛けられた部分を触るよりも接触面積を増やすことが重要なのね。これはいいデータがとれた!)


瘴気の浄化を終えたアルナはエドガーの手を放し、エドガーの方を見て満足そうに笑った。


「エドガー、また浄化魔法のデータがとれたよ!これだから魔法って奥深くて面白いのよね」

「…そうかよ。それは良かったな」


エドガーは顔を赤くしアルナから目を逸らしたかと思うと、アルナを抱きしめる腕を動かし、アルナを解放した。

そのまま体を起こしてベットから降りると、机の引き出しをあけて1枚の紙を取り出してアルナのいるベットに戻ってきた。


「ほら、この転移ペーパーで自分の部屋に帰れよ」

「ありがとう。書くもの借りてもいい?」

「ああ。机に置いてあるもの適当に使えよ」


アルナはベットから降りて転移ペーパーに座標を書き込んだ。


「これも忘れないうちに渡しとく」


エドガーはカバンから『トラウ石』を出すと、アルナに渡した。


「そういえば『結界石』の製作依頼されてたね。できたら渡すから待っててね」

「ああ。あと、王都行く時だが相手がいないんだったら俺に声かけろ。付き合ってやるから。絶対1人では行くなよ」

「…。」

「返事は?まさかあんだけやってまだ懲りてねえわけ?また耳を…」

「よーく分かりました!だから近づかないで!」


アルナは両耳を押さえてエドガーから距離をとった。


「さすがのお前も懲りたようだな。分かったら早く帰れ」


ニヤリと笑うエドガーを横目にアルナは転移ペーパーを破り、自分の部屋に戻った。

部屋についたアルナはふらふらと歩き、ベットに寝っ転がった。


【アルナ おかえり かおあかい? だいじょうぶ?】


フェアリーフラワーの植木鉢に座るはなちゃんは羽を広げでふわりと飛ぶと、心配そうに寝っ転がるアルナの耳元にちょこんと座った。


「ただいま…。はなちゃん、今は私の耳に触らないでね。今日は疲れたわ…」


そのまますやすや寝落ちするアルナだった。

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