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お忍び王都散策③

「どこまでいくの!止まりなさい!」


アルナは財布を盗んだ少年を追いかけていた。

市場は人が多く、人をかき分けて進むのは困難だった。


(あの子、体が小さいから人混みかき分けていくの早い!このままじゃ見失う…。あ!あの子横道に入った!それなら…。)


「へっへ!スリなんてチョロいや!」

「はい、そこまで!」

「わっ!なんでここにいんの?」


アルナは転移魔法で横道に移動し、少年の前に立ち塞がった。

少年は来た道を戻ろうとしたが、ガツンと何かにぶつかって戻れない。

よく見ると透明の壁が道を塞いでいた。


「そっちは結界魔法で壁を作ったから、市場の方には逃げられないわよ。今財布を返してくれるなら、警備隊に引き渡さないであげるわ」

「もしかしてお姉さん、魔法使い?俺、運悪いなあ。けど…詰めが甘いね!」


そういうとアルナの股下に滑り込み、そのまま横道の奥に走って行く。


「やられた!待ちなさい!」


アルナは横道の奥ヘと逃げる少年と追いかけっこを続け、やっと行き止まりに追い込んだ。


「はぁはぁ、お姉さんしつこすぎない…?」

「こっちのセリフよ!こんな全力疾走したの久しぶりよ。ほら!もう観念して私の財布返して」


少年は悔しそうな顔をしてアルナに財布を渡した。


「盗ったのは私の財布だけ?」

「そうだよ!ちぇ!初めてのスリで魔法使いを引きあてるなんてさ!痛っ!お姉さん、今俺の額にデコピンした?」

「これで許してあげる。もうこんなことしちゃダメよ」


少年はアルナの顔を見ると顔を赤らめて、フンと顔をそむけた。

財布を取り返して安心したアルナは周りを見渡した。


(あれ?ここどこ?市場から横道に入って気がついたら裏路地で…。なんか暗いし嫌な雰囲気だな。ここってもしかしてエドガーが治安が悪いって言ってた場所じゃない?)


「ねえ、君?ここどこか分かる?」

「え、まさかお姉さんどこか分からず俺を追いかけてたの?間抜けすぎない?ぷぷって…え?俺なんで浮いてんの?怖いって!降ろしてよ!」

「私怒ってるのよ。笑ってないで答えなさい」

「お姉さん、可愛い顔してるのに容赦ない!教えるからもう浮かさないで!」

「ほら、降ろしたよ。できればさっきの市場まで案内してくれないかな?」

「はあ、腰抜けたよ…。あのさ、俺お姉さんのことさっき笑ったけど、実は俺もここどこか分かんない」

「え?そうなの?」

「だって途中から逃げることに必死でさ。そもそも道が分かってたらこんな行き止まりのところ来ないでしょ?」

「確かにそうね…。仕方ないね。適当に歩いて市場までの道を一緒に探そう。ほら、手を貸して。立てる?」


きょとんとした少年は照れくさそうにアルナの手を取ると立ち上がった。


「…お姉さん、優しいんだね。さっきはごめん。財布盗って」

「やっと謝ったね。いいよ。許してあげる」


2人が笑い合った時だった。

アルナ達が来た方向から複数の足音が聞こえ、3人の男が現れた。


「ほら見ろ。こっちに女と子供が走っていったって言ったろ?」

「お!綺麗な女の子じゃん!今回当たりだな」

「ちょうどキマってるし、いいね。この子に相手してもらおーぜ」

「子供はどうする?邪魔されても嫌だし気絶でもさせとくか?」


3人の男の様子は妙に興奮しており、足取りはふらつき涎を垂らして目は赤く血走っている。

いやらしい目で見てくる男達にアルナは不快な気分になった。

男達が近づいてくると、独特の甘い匂いが漂ってきた。


(この人達の反応と独特のこの甘い匂い…。前病院に運び込まれた患者さんに似てる。しかも『キマってる』って言ってたよね?これロナウド殿下が言ってた『ケトイン』を使ってない?)


背後の少年は怯えて泣きそうな顔をしていた。


(仕方ない…。久しぶりにやりますか!)


アルナは少年に近づくと自分の荷物を渡した。


「大丈夫だから落ち着いて。少し私の荷物預かってくれる?そこの隅っこに座って待ってて。」

「お姉さん、危ないよ…。このままじゃあ襲われる…」


アルナは少年の頭をなでると、そのまま男3人に向き合った。


「お嬢さん、ちょっと付き合ってもらうぜ!」


1人の男がアルナに向かって来た。

するとアルナは足元の砂利を蹴り上げた。

男が砂利に怯んだ隙に距離を詰め、顔に手をかざし睡眠魔法をかけた。

男が睡魔でふらついたところに相手の足首に自分の足首を引っ掛けた。

男はそのまま派手にこけて、目を閉じて眠り始めた。


(よし、あと2人!)


「こ…こいつ妙な技使うぞ。気をつけろ!2人がかりでいくぞ」

「技じゃなくて魔法よ!」


近づくいてきた2人のうち手前の男にアルナは狙いを定めた。


(こんな足下がおぼつかない相手なら、狙うのは簡単…。)


男がアルナの手を押さえ込もうとした時、アルナは男の股間を思いっきり蹴り上げた。

男が悶絶してしゃがみ込んだ。

その隙にアルナは呆気にとられたもう1人のガタイのいい男に近づき、顔面に手をかざして睡眠魔法をかけた。

睡眠魔法をかけられた男はふらつき始め、その男の背後に回ったアルナは悶絶している男のいる方に向けて、ガタイのいい男の背中に蹴りを入れた。

すると、その男は悶絶してしゃがみ込んだ男の方に倒れこみ、いびきをかき始めた。

男の下敷きになった男は何とか抜け出そうともがいており、しゃがみ込んだアルナがその男の顔面に手をかざした。


「これでおしまいね」


アルナそう言うと、もがく男にそのまま睡眠魔法をかけた。


隅っこで見ていた少年は驚いた表情でアルナを見た。


「すげー!お姉さん強いじゃん!」

「だから大丈夫って言ったでしょ?この裏路地は人通りもないから、集まって『ケトイン』でも吸ってたのかな?とりあえず、この人達は警備隊に後で引き渡そう。何かこの人達の手足を拘束する紐とかあればいいんだけど…。ないなあ。君持ってる?」

「確か自分で作ったスリに使う道具でそれっぽいのあった!ちょっと分解するから待って」

「…その道具は後でお姉さんが没収するね」


2人が座り込んでゴソゴソかばんを探っていた時だった。

いきなりアルナの腕が強く掴まれ、アルナは尻餅をついた。

後ろを振り返ると、最初に倒した男がアルナの腕を掴んでおり、血走った目で睨んできた。


「お嬢さん、やってくれたな!もう手加減なしだ!」


(睡眠魔法がとけた?もっと強く魔法をかけとけばよかった…。今度は違う魔法で…)


アルナが応戦しようと時だった。

火の玉が男の背後から飛んできて、男の背中に当たり、男はアルナの腕を離して悲鳴をあげた。


「あちっ!何だ?火が消えねえ…お嬢ちゃん降参だ!助けてくれ!」


(私、火魔法なんて使ってない。あれ?何だか寒気もしてきた。これって…。)


叫ぶ男の後ろから足跡が聞こえ、アルナが顔を上げるとそこには見慣れた青年が立っていた。


「…エドガー?」

「お前…勝手に動くなって言ったよな?」


(顔が怖い!すごく怒ってるよ!エドガーの背後からは瘴気がすごい勢いででてる!寒気はこれが原因か!)


「エ…エドガー?これにはね、訳があってね…」

「…お姉さん、この人悪者なの?なんか怖いんだけど…」


少年は震えてアルナに擦り寄ってきた。

アルナは少年を抱き寄せ、ブルブル震えた。


「味方のはずなんだけどね…?今はご機嫌ななめで…」

「不機嫌なのは誰のせいだよ?」


そう言ったエドガーは火魔法を解除すると、男の頭を叩き気絶させた。

エドガーはアルナ達に近づくと、乱暴に少年をアルナから引き剥がした。


「エドガー、その子には優しくして…」


エドガーは黙ってアルナの状態を確認すると、ほっと息を吐いて、アルナを見据えた。


「…怪我はなさそうだな。で?俺に言うことは?」


エドガーの視線にアルナはびくりと体を揺らした。


「何も言わずにいなくなってごめんなさい!」

「なんで俺を待たなかった?納得する理由じゃなきゃ許さねえぞ」


(財布をその少年に盗られて追いかけたからなんだけど、このまま伝えると後ろの少年にエドガーが何かしそう!それは可哀想だしな...。何か良い言い訳ないかな?)


「何か余計な事考えてるだろ?このまま黙ったまんまなら、いつものやり方で聞き出すぞ?」

「全力で遠慮します!」

「あのなあ、お前に拒む権利なんて…何だ?」


エドガーは背後からの衝撃に驚いて、振り返った。

そこにはエドガーの腰にがっしりとしがみつく少年がいた。


「お姉さん、俺がこの悪人を抑えとくから逃げて!」

「何だよ。さっきからこのガキは…。黙らせるか?」

「エドガー、ストップー!事情を話すから、この子に手を出さないって約束して!あと、君もこの人悪人に見えるかもだけど、味方だから大丈夫!」

「…悪人に見えるかもだと?後で覚えとけよ?」


キレるエドガーをアルナは何とか落ち着かせ、事情を話した。

話を聞いたエドガーは少年の首根っこを掴んだ。


「なるほどな…。じゃあ警備隊にこのガキも引き渡すか」

「エドガー、待って!この子初犯だし、私が許してるんだから引き渡さないで。君ももうスリなんてしないよね?」


アルナが少年の方を見ると、少年は涙目になり、頭を素早くこくこくと縦に振った。


「もうしないよ!少しお小遣いほしいなって思ってやっちゃったんだ。けど、こんな怖い思い懲り懲りだよ!」


少年は限界なのか、目からは大粒の涙が零れていく。

エドガーは少年を地面に下ろし、少年を睨んだ。


「次やったらただじゃおかねえからな」

「も…もうしない。誓うよ!お姉さん、この人怖い!」

「ガキ…どさくさに紛れてこいつに抱きつくな」


アルナに抱きつく少年をエドガーはまた引き剥がした。

少年は寂しそうにアルナを見つめていた。


「子供だし、抱きつかれても私気にしないよ。けど、今はそれよりあの3人を何とかしないとね。」


そういうとアルナは先程眠らせた3人に近づき、少年からもらった紐を取り出して3人の手足を拘束した。


「こっちの2人は気絶じゃなくて…寝てる?お前がこいつら眠らせたのか?」

「3人とも1度は眠らせたんだけど、1人だけ意識が戻っちゃったのよ。それをエドガーが気絶させたの」

「護身術を身につけてたのは嘘じゃなかったんだな。けど、後で説教だな。」

「...なんで?無事だったからいいじゃない?」

「お前のその危機感のなさが問題だろ。とりあえずこの3人警備隊につきだすぞ」


エドガーは男1人を肩に担ぎ、もう一人の男を浮遊魔法で浮かせた。

アルナも残りの1人を浮遊魔法で運ぶ。

少年はアルナに手を引かれ、一緒に歩いていた。


「ここは危ないから、市場までは一緒にいこう。警備隊には引き渡さないから安心して」

「それは分かったけど、前にいるお兄さんの圧がしんどい…」

「…もう少しの辛抱だからね。それにしてもエドガー、よく私を見つけられたね。」

「最悪のパターンを考えて、裏路地中心に飛行魔法で空から探してたんだよ。路地が入り組んでで見つけるのに時間かかったけどな」

「それはお世話かけてすみません…。ん?そっか!迷子になってたけど、飛行魔法で市場までの道探せばよかったんだ。思いつかなかったわ」

「お前、それでよく1人で散策しようとしてたな」


アルナ達は警備隊の常駐する詰所に行き、男3人を引き渡した。

警備隊の男性は男3人を詰所の奥に運び、拘束具をつけた。


「君たちが無事で何よりだよ。こいつらはこっちで処理しとく。うわ...この甘い匂いは…。こいつらも『ケトイン』使ってたな」

「そんな『ケトイン』関連の事件多いんですか?」

「最近は特にね。売人の動きも活発化してるようで取り締まるのが大変なんだ。裏路地は特に怪しい奴も多くてね。もう近寄ったら駄目だよ。特にお嬢さんはね」

「はい…以後気をつけます…」


隣のいるエドガーからじとりとした視線を感じ、アルナは気まずそうに答えた。

警備隊の詰所を離れ、市場に戻ると、アルナは少年の手を離した。


「市場に着いたし、ここでお別れかな?もうスリなんてしたら駄目よ」

「もう絶対しない。約束するよ。けど残念だな…」

「何が?」

「お姉さんともう会えないでしょ?お姉さん、優しいし可愛いし、俺気に入っちゃった。また市場に来たりする?」

「また来るつもりよ。君がいい子にしてたら、また会えるかもね?」

「本当?じゃあいい子にしてるから、絶対来てよ。約束だよ!」


そう言うと、少年は手を振って走り去っていった。

アルナが手を振ると、ぶるりと寒気を感じ、恐る恐る隣にいるエドガーを見た。

不機嫌そうなエドガーの背後からは瘴気がでており、アルナは身震いした。


「へーどうやってまたここに来るつもりだ?まさか1人で来るつもりじゃないよな?」

「そんなわけないよ。誰かと一緒に来るつもりだったし…」

「お前、目泳いでんぞ。懲りてなさそうだし、俺の部屋で説教だ。ほら、帰るぞ。」


そう言うと、エドガーはアルナの腕を掴んだ。


「痛っ!ちょっとエドガー、腕離して」

「悪い…ってお前怪我してんのか?」

「さっき男に腕掴まれたからかな?うわ、アザできてる!全然気が付かなかった…。まあ、この程度の怪我なら後で治癒したらいいか」


腕をまくって青あざに驚くアルナを見たエドガーは眉をひそめた。


「目視だけじゃあ見落としてたか…。仕方ねぇな」


エドガーはアルナに近づくと両腕でアルナの背中と膝裏を持ち上げ支えた。

気がつくと、アルナはエドガーに横抱きされていた。

アルナは不安定さに怖さを感じ、思わずエドガーの首に手を回した。


「エドガー、何するの!私歩けるから下ろしてよ!」

「怪我人は黙ってろ。それとも肩に担がれたいわけ?」

「…担がれるよりはマシかな。いや、待って!これ色んな人に見られて恥ずかしい!」

「…ぎゃあぎゃあうるせえ。これならはぐれないし、このまま帰るぞ」

「ひぃ!顔怖い…」


エドガーの有無を言わせない圧を感じたアルナは、エドガーの腕の中で大人しく抱っこされるのだった。

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