お忍び王都散策①
「アルナ、私あなたに言いたいことがあるの。この後2人で少し話せないかしら?」
次の日の放課後、シェリーはアルナにそう伝えてきた。
浄化方法について確認したいことがあり、今日も自分の部屋に早く戻ろうとしていたアルナはシェリーがいつもの様子と違うことに驚き、シェリーの部屋で早速2人で話しをすることになった。
「シェリー、一体どうしたの?」
「私ね、学園が始まったら、あなたと放課後とか休日一緒に遊べるの楽しみにしてたのよ」
「うん…」
「けど、アルナったら入学早々、放課後も休日も忙しいってどっか行っちゃうし!私寂しいの…」
「シェリー、ごめんね!けど、嘘じゃなくて本当にバタバタしてて…。私もシェリーと遊ぶの楽しみにしてるんだけど…」
「そうね。だってアルナ嘘つくのがとても下手だから、嘘はついていないのはよく分かるの。けどやっぱり楽しみにしてたから、すごく寂しいのよ。前の休日だって王都散策一緒に行けなかったし…」
悲しそうに俯くシェリーを見たアルナは申し訳なくなり、慌てた。
「シェリー、本当にごめん!じゃあ今週のお休みにお忍び王都散策行こう!ほら、前にお揃いで買った服を着ていくのはどうかな?」
「本当?嬉しい!お忍びなんて久しぶりだもの!」
こうしてアルナとシェリーの2人で今度の休日はお忍び王都散策に行くことになった。
アルナはシェリーと久しぶりに遊べるのを楽しみに、なかなか消えない噂で機嫌が悪いエドガーに振り回されながらも治療をこなした。
そして待ちに待った休日、アルナは待ち合わせの場所に向かったのだが…。
「おかしい…。なんでここにロナウド殿下とエドガーもいるの?」
町娘の服を着たアルナは、華美ではなくシンプルな服を着ているにも関わらず、目立つ2人の青年を見て、混乱していた。
「アルナ、ごめんね。お忍び王散散策のこと、昨日ロナウド様にバレちゃって…」
アルナとお揃いの町娘の服を着たシェリーはロナウドの背後から顔を出して、申し訳なさそうにアルナの顔を見つめていた。
「あのね、君たちお嬢様2人だけでおでかけって何かあったらどうするの?護衛なしで行くつもりだったんだって?絶対ダメでしょ?王都は今治安が良くないんだから」
「ロナウド殿下、私結構強いからシェリー1人ぐらい守れますよ!」
「アルナ嬢が護身術にたけてるのは知ってる。けど婚約者の僕としては不安なんだよ。というか、君達2人は町娘風にしても目立つから、危険だと思うよ」
「確かに婚約者のロナウド殿下の言い分は分かりますよ。けど…なんでエドガーがいるんですか?せっかく今日は誰かさんに振り回されずに寒気もなく過ごせると思ったのに!」
「振り回されずにはなんとなく想像つくんだけど、寒気はなんだろう?エドガーは分かる?」
「さあ?何のことだろうな?」
「エドガー、その顔は絶対意味分かってるでしょ!」
「アルナ、落ち着いて!ほら、頭なでなでしてあげるからこっちにおいで。」
「うう…せっかくのシェリーとのお忍び王都散策が…」
アルナはシェリーになでなでしてもらいつつ、しゅんと俯いた。
「エドガーは僕と君達の護衛ってことでついて来てもらったんだ。まあ、女性2人に男1人もどうかと思ったし、友人として来て欲しかったのもあるけどね」
「アルナ、気を落とさないで。お忍びって聞いて二人とも目立たない服で来てくれたのよ。しかも、ロナウド様が私達の行きたいところを案内してくださるそうよ。ほら、ロナウド様は私達より王都に詳しいから心強いわよ」
「それでも目立ってる気はするけど、案内してくださるのは心強いかも…。こうなったら意地でも楽しんでやる!」
「じゃあロナウド様とエドガー様、今日は1日よろしくお願いします。ほら、アルナも」
「よろしくお願いします」
「…お前こっちも見ろよ」
「だってロナウド様が案内してくれるんだし、エドガーには不要…ちょっと手をひっぱらないで!」
「お前の耳は飾りか?護衛のことも聞いたよな?ロナウドはシェリー嬢、俺はお前担当だ」
「じゃあまずは展望台かな?今日は晴れてるから景色が良く見えると思うよ。シェリーは僕の手を離さないでね。エドガー達もついて来てね」
「ほら、行くぞ。さっさと歩け」
「エドガー、ちゃんと歩くから、もう手を離して。ねえ?無視しないでよ!」
騒ぎつつ歩くアルナ達は展望台に着き、王都を見渡した。
「シェリー見て!すごい高い!お兄ちゃんから聞いてたけど、絶景だね!」
「本当に綺麗な景色ね。私も初めて来たけどこれは来る価値あったわ」
初めは気落ちしていたアルナも散策が始まるとご機嫌になり、今では女子2人揃って嬉しそうに騒いでいた。
「2人とも王都散策は初めてだったんだね。けど、なんでお忍びにこだわったの?別に護衛をつけてもいいじゃない?言い出しっぺはどっち?」
アルナとシェリーが顔を見合わせると、おずおずとアルナが手をあげた。
「やっぱりお前かよ」
呆れた顔でエドガーはアルナを見た。
「やっぱりとは何よ。だって護衛なんてつけたら仰々しくて行けるところが限られるでしょ?そんなの面白くないもの。自由に町を散策して町の人と気兼ねなく交流するのが私は楽しいの。マナーなんて気にせず食べ歩きしたり、ふらっと入ったお店で珍しい魔導書とか薬草を発見したときの喜びも格別よ」
嬉しそうに笑って話すアルナを見て、シェリーも笑った。
「実は私、アルナの屋敷に遊びに行った時に、アルナと一緒にお忍び町散策に行ったことがあるの。とても新鮮で楽しかったわ。町の人もみんな優しくてね。だからアルナと一緒ならお忍び王都散策も楽しいだろうなと思ったのよ」
「まあ、シェリー達の気持ちは分かるよ。けどキドニアと比べると、王都は発展してる一方で物騒なんだ。特に今は犯罪増加が深刻でね」
「王都ってそんな犯罪多いんですか?」
「窃盗に暴行、ひどい時は殺人とかね。やっと最近、これらの犯罪がある薬物によるものだと分かって王都の警備隊が大騒ぎさ。アルナ嬢は知ってるんじゃないかな?」
「犯罪に関係する薬?なんだろう?そういえば、取締りが厳しくなった薬が…。あ!もしかして『ケトイン』?」
「お前、なんでその薬のこと知ってんの?」
「今うちの病院で『ケトイン』の薬物依存症の患者が増えてて治療が大変なの。『ケトイン』欲しさに暴力事件を起こしたり、窃盗とか犯罪が起こす人もでてきて、半年ぐらい前からオルリア王国の東部で取締りが厳しくなってるって聞いたんだけど…」
「さすがアルナ嬢だね。正解だよ。『ケトイン』は神経を興奮させ、幸福な気分にさせる。けど、乱用すれば幻覚や妄想が現れ、時には錯乱状態になって他人を暴行したり、殺害してしまう。1回でも使用すれば、やめられなくなる悪魔の薬さ。これが王都でも出回り始めてるんだよ」
「治療目的で医者に指定された量を飲む分にはいいんですけど、乱用すると脳がやられちゃいますからね。」
「お前、ちゃんと魔法医やってんだな」
「…エドガー、私をなんだと思ってたのよ」
「令嬢とは到底思えないガサツ女」
「あのねえ…そんなこと言うならもう治療しないよ!」
「アルナ嬢、落ち着いてね。まあ、難しい話になっちゃったけど、今王都は治安が良くないから、女の子達だけで出歩いちゃダメってことだよ。じゃあ次の目的地に行こうか!」
それからアルナ達は王立闘技場や市場など、いろんな場所を見て回った。
目的の場所をひと通り見終わると、王都で人気のケーキ屋さんに来ていた。
「このケーキ屋さん、前から来たかったの!やっと来れて嬉しい!いただきます!」
「アルナ、このケーキ屋は絶対行くって張り切ってたものね。あら、人気なだけあって美味しいわ!ロナウド様もこのケーキ食べます?」
「いいの?じゃあ、あーんしてくれるかな?」
「まあ、ロナウド様ったら…。してあげますけど、他の女性にそんなお願いしたら絶対駄目ですからね。」
「意外とシェリーって嫉妬深いんだね。覚えておくよ」
シェリーとロナウドの甘いやり取りにエドガーは居心地が悪いのか、目線を逸らしアルナの方を見た。
アルナはシェリー達のやり取りを全く気に留めず、目の前のケーキを味わっていた。
「この栗のクリーム美味しい!うちの領土でもこのケーキ売ってくれないかな?ん?エドガー、こっち見てどうしたの?」
「…お前、この空気の中よく普通でいられるな」
「あの二人のやり取りには慣れちゃってるからね。婚約者同士になるとあんな感じになるのかなって参考にさせてもらってる」
「参考って…。ん?…ロナウド、ちょっと連絡来たから少し席はずすぞ。」
そういうと、エドガーは魔法通信機を持ってお店の外にでた。
去っていくエドガーをアルナは目で追った後、シェリー達を見てある事に気がつき、ロナウドの方を見た。
「ロナウド殿下、知ってたら教えて欲しいんですけど、エドガーにも婚約者とかいるんですか?」
「いないと思うよ。もしかしてアルナ嬢はエドガーが気になるの?」
「あら!アルナ恋してるの?」
「いや、全然そういうのじゃないの」
(効率的に瘴気を浄化する方法として、前みたいに抱き合うとか接触面積を増やすことを考えていたけど、エドガーに婚約者とか恋人がいたら、相手の女性がそんな行為を不愉快に感じて面倒ごとになるかもしれないじゃない!そういうのは避けたいもの!
シェリーの嫉妬深さを目撃して気がついたけど、浄化方法の検討の前に、ちゃんと確認しとかないといけなかったわ…。)
「そうなんだ。ちょっと残念だね。エドガーは女の子に興味がないから、恋人も今いないと思うよ?あ…けど昔女の子を探してたことがあったな…」
「エドガー様が?意外ですわ。その話聞きたいわ!」
「私も気になります!あのエドガーの恋バナなんてからかい甲斐があって面白そう!」
「2人ともすごく興味あるんだね。確か数年前だったかな?エドガーが社交会で顔の広い僕に珍しい容姿の女の子を知らないか、聞いてきたんだよ。確か容姿は目の色が…」
ロナウドが話し始めたときだった。
アルナの背筋がゾワっとすると、アルナ達が座っていた机の真ん中に突然小さな火の玉が現れた。
シェリーとアルナは悲鳴をあげて固まった。
ロナウドはにっこり笑って火の玉を見つめていた。
「エドガー、びっくりしたよ。この話は駄目かな?」
「…ロナウド、その話はなしだ。面白がる奴がいるみたいだしな」
エドガーはじろりとアルナを睨み、椅子にどかっと座った。
隣の席に座る不機嫌なエドガーの視線を感じながら、アルナは気まずそうにケーキを食べることに集中した。
アルナ達はケーキを食べ終わり、会計を済まして店を出ようとした時だった。
「あれ…ない?おかしいな?もしかしてさっきの市場で忘れてきたかも?」
アルナはカバンをひっくり返して、慌てていた。
「アルナ、どうしたの?何を忘れたの?」
「えっと、さっき市場で私はちみつ買ってたでしょ?けど、カバンに入ってないの。もしかしたら、お店に置きっぱなしにしてきたかも…」
「そういえば会計待ちの行列が長くて、アルナ気遣って慌ててお金払ってたものね。」
「あの子に喜んでもらいたくて買ったのに…。仕方ない!私、市場に取りに戻るね!ロナウド殿下達は散策続けてください。はちみつを回収したら私も合流するので!」
そう言うとアルナは市場に向かって走っていく。
「お前、待て!1人で市場に行くのは危ないだろ!ってあいつ聞いてねえ!」
エドガーは慌ててアルナを追いかけていく。
残されたロナウド達は呆気に取られた。
「まあ、エドガーがいるからアルナ嬢は大丈夫かな?」
「そうですわね。エドガー様ったら、乱暴ですけどアルナのこと気にかけてますもの」
「シェリーもそう感じる?あの2人見てて面白いんだよね。そうだ。ねえ、シェリー?こういうのはどうかな?」
ロナウドはある事をシェリーに提案した。
「それは面白いわ!やってみましょう!」
ロナウド達は楽しそうに笑った。




