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ご褒美と尋問

アルナは自分の寮の部屋に着くと、植木鉢を窓際に置き、はなちゃんを植木鉢の近くにおろした。


「はなちゃん、ここが私の部屋よ。私これから用事があるからここでお留守番できる?」


はなちゃんはきょろきょろ部屋を見渡した後、アルナを見ると笑って頷いた。


「いい子だね。じゃあ行ってくるね」


アルナは急いで転移ペーパーを取り出す。


(魔法通信機で約束の時間に遅れることは伝えたけど、怒ってるかな?エドガー様キレたら大変そうだし、覚悟していこう…。)


アルナは転移ペーパーを破り、エドガーの部屋に着いた。

エドガーを探すと、昨日と同様ソファーに寝転んでいた。

制服は脱いだようで、エドガーはシャツとトラウザースに着替えている。

恐る恐るエドガーの顔を覗き込むと、目を瞑っている。


(待ち疲れて寝ちゃったとか?起こしたら怒る?だからといってこのまま帰るわけにもいかないし…。そうだ!寝てるエドガー様を浄化して帰ればいいか!)


アルナはソファーの隣に座り込み、エドガーの額に触ろうとした時だった。

エドガーの手が動き、アルナの手首をつかんだ。


「ひぃ!お…起きてたんですか?」

「…瘴気で体が痛くて熟睡できねえんだよ。というか、来たなら声かけろよ」

「いや、起こしたら悪いかなーと思って。寝てるエドガー様を浄化して帰ろうかなと思ったんですけど…。」

「…他に言うことは?」


エドガーは不機嫌そうにアルナを見てくる。

エドガーの視線を感じ、いたたまれないアルナは俯いた。


「約束の時間に遅れてすみませんでした…」

「分かってんならいいけどさ。お前、メッセージ酷いぞ。送る前に見返したかよ?」


アルナは通信機を取り出し、送信メッセージを見た。

意味はなんとか伝わるものの誤字脱字が多々あり、自分がどれだけ慌てていたか、認識できた。


「すみません。相手にバレないようにメッセージを送るのに必死だったので」

「バレないようにってどんな状況だよ。拉致られてでもいたわけ?」

「拉致は誰かさんしかしませんよ」

「…お前本当に悪いと思ってる?」


エドガーの冷ややかな目線を感じたアルナは慌てて立ち上がった。


「お待たせして大変申し訳ないです。早速瘴気を浄化しますね」

「待て。浄化魔法使ったら、お前へばるだろ。その前にあの件済ますぞ」


エドガーは起き上がり、ソファーに座った。


「あの件?」

「忘れてないよな?ご褒美の件」

「…。」

「目を逸らすな。そんな身構えんなよ。簡単なことだ」

「なんですか?」

「これからは俺に対して敬語やめろ。あと名前は呼び捨てだ」


アルナは驚き、エドガーを見つめた。


「え?そんなことでいいんですか?」

「お前は何をお願いされると思ったんだよ」


呆れた顔でエドガーはアルナを見た、


「だってその内容なら人前で言えるじゃないですか」

「逆にこんな子供じみたお願い言えるかよ」

「なんか納得いかないな…。あ!もしかして、あれですか?ルイスには呼び捨てでタメ語で話してることが羨ましかったんですか?それがバレたらみんなに茶化されるのが嫌だったとか…」


「ち…ちげーわ!前からお前が俺に敬語使うの気持ち悪いと思ってたんだよ!前あんだけ言い合ったのに、今更敬語で名前も様づけされても違和感しか感じねえんだよ」

「そうなんですか?けど、エドガー様は私の患者さんだし、患者さんにタメ語って失礼じゃないですか?」

「普段から俺に遠慮なしの言動してる奴が何言ってんだ?なんなら、ご褒美の内容をお前の想像したものにしようか?」

「ご褒美は敬語なし、名前呼び捨てでいこう!」


「ったく、最初からそう言えよな。そういえば、噂の件で今日お前困ったことはなかったか?」

「視線が居心地悪かったぐらいかな」

「なんかあったら言えよ。俺にできることだったらするから」

「…。」

「何だよ。その目は?」

「いや、心配してくれてるとは思ってなくて…。意外だなーと」

「今回の件は俺も責任感じてんだよ。俺は目立つから行動に気をつけろってロナウドにも言われたよ」

「邪竜を退治した英雄様ですもんね。噂がおさまるまではルイスとは言い合いしない方がいいね」

「言われなくても分かってるっつーの」

「いっそルイスみたいに噂をポジティブに考えられたら楽なんだけどな」

「今日お前ルイスと話したわけ?」

「うん、放課後にね」


そう言った時だった。

アルナの背筋がぞわぞわした。


(何?いきなり寒気が!もしかして…)


エドガーを見ると眉間にしわを寄せていた。


(ルイスの話をした途端、瘴気が出始めた!苛立ってるってことよね?私のバカ!エドガーの前でなんでルイスの話をしちゃったのよ…。)


「なるほど…遅刻した理由はルイスと優雅におしゃべりか?」

「いや、フェアリーフラワーを植えたりしててバタバタしてたのもあって…」

「通信機でメッセージを送ったときに一緒にいたのもルイスだな?ルイスとはなんかあったわけ?」

「た、ただの雑談だよ。例の噂のこともあったから」

「へーお前ここ座れ」


エドガーはじぶんの隣に座るようにソファーを指差した。

有無を言わさない雰囲気にアルナは渋々座った。


「今から質問するから俺の目を見て答えろよ。ルイスと本当に何もなかったんだな?」

「な、ないよ。だから雑談しただけだって」

「お前…。普通に聞いたところで正直に言うわけないし…仕方ないか」

「え?仕方ないって?」


アルナは肩を軽く後ろに押され、気が付くとエドガーにソファーの上で押し倒されていた。


「何で押し倒すの!離れてよ!」

「お前、ルイスに何かされたな?バレバレなんだよ。ほら、ルイスに何されたか言え」

「エドガーに関係ないでしょ!」

「今俺かなり苛ついてるから、早く答えないと次何するか分かんねえぞ」


アルナはエドガーのギラギラとした目を見て、やばいと本能的に感じた。

エドガーの背後の瘴気も勢いよく漏れ出て、エドガーの体を覆い始めた。


(かなりイラついてる!寒気が止まらない!これ本気でやばいんじゃない?一度エドガーと距離を取らないと…。)


一度逃げようと転移魔法を発動しようとした時、両手をエドガーに押さえつけられた。


「魔法は使わせねえぞ。睡眠か転移魔法使おうとしたのか?逃す気ないから諦めろ」

「うう…。なんでルイス関連のことはそんな聞きたがるの!」

「分かんねえけど、イラつくんだよ。お前がルイスと勝手にいろいろしてんのが」

「分からないじゃなくて、そのイラつく理由をちゃんと明らかにするのが大事で、今私を押さえつけてる場合じゃないでしょ!」

「言いたいことはそれだけか?まだ降参しないなら、次いくけどいいのか?」


エドガーはアルナの目を真っ直ぐ見てくる。


(次って何?そういえばルイスがなんか言ってたな…。押し倒されたの後…キスだっけ…。キス!?エドガーと?無理!)


アルナは顔を赤くなっていくのを感じた。顔を隠したかったが、両手が押さえつけられてるため、できなかった。

その顔をまじまじと見てエドガーはニヤリと笑った。


「へーお前そんな顔するんだな。何想像したわけ?教えろよ。やってやるから」

「なっ、結構です!もういいでしょ?離してよ!」

「まだだ。もう観念しろよ」

「言ったらまたルイスと言い合いになって噂が酷くなるかもじゃない!」

「…ルイスに文句言いたくなるほどのことされたってことか?余計に聞き出したくなったわ。やっぱり次だな」


エドガーは顔をアルナに近づけてきた。

アルナは顔を真っ赤にして叫んだ。


「降参よ!降参!話すからストップ!」


エドガーは動きが止めて、アルナの顔を見つめると、

アルナの手を押さえてた手を離し、その手でアルナを抱きしめた。


「なっ!私抱き枕じゃない!話すからもう離れてよ!」

「これ以上は何もしないから、俺が満足するまで抱き枕されてろ。遅刻した罰だ。あーやっぱりお前に触れてると体の痛みマシだわ」


アルナはエドガーから逃げようとするも、エドガーが重く、また拘束されているため、とても無理だった。

もし、逃げられたところでエドガーをまた怒らせて酷い目に遭うのが目に見えているため、逃げるのを諦めてアルナはされるがままになった。


「あのさ、苛立ちを抑える練習本当にした方がいいと思う…。さっき瘴気の発生酷かったよ」

「苛立ちの原因のお前が何言ってんだよ。遅刻するわ、遅刻の原因がルイスだわ、俺の琴線に触れまくって…。それで?ルイスに何された?」

「抱きつかれたのよ。誰かさんがしたみたいにね」

「……」

「やめて!抱き締める力を強くしないで!」

「…お前無防備すぎる。もっと警戒心もてよ」

「もってるよ。一応護身術も身につけてるんだから」

「俺に好き放題されてる奴に言われても説得力ないけど?」

「エドガーは私の大事な患者且つクラスメイトだから手を出さないだけだから。そうじゃなかったら、容赦なく急所を踏みつけてるわ」

「じゃあ患者とかクラスメイトとか関係なく俺以外には容赦なく抵抗しろ。特にルイス。いいな?」

「何でエドガー以外なのよ。…ってだから抱く力強くしないで!もう分かったから!」

「本当に分かってんのかよ…」 


そう呟くとエドガーは静かになり、寝息が聞こえてきた。

そのまま少し時間が過ぎると、アルナは抱き枕状態に慣れてきた。


(なんか抱き枕でも平気になってきたな…。あったかくて私も眠くなってきて…って!私まで寝たら駄目!浄化しに来たんだから、エドガーを起こさないと!)

 

アルナはエドガーの肩を持って軽く揺らした。


「ちょっと寝てないで起きて!本格的に浄化するから、そろそろ私解放してくれない?」

「あー眠ぃ…。えーと、昨日みたいに服脱いでベットにうつ伏せになればいいのか?」

「うん。エドガーだって早く体の痛み早く取ってほしいでしょ?」

「また服脱がないといけないの面倒だな。別にこの体勢でいても浄化されてるし、このまま抱き枕されとけば?」

「え?このまま?」

「これは俺の体感だか、昨日みたいに火傷に手をあてて浄化されるよりも、こうやってお前を抱きしめてる方が体の痛みがマシなんだよ」


それを聞いたアルナは驚き、エドガーを凝視した。


「…エドガー、それ本当?嘘じゃない?」

「あ…ああ。いきなり真面目な顔してなんだよ?」

「背中に手をあてるのと抱き締める…何が違う?そういえば、お母さんが昔言ってたな。確か接触面積が…。そうか!私、何で忘れてたんだろう。エドガー、検証したいから、今日はこのまま浄化魔法かけるね」

「検証?お前何する気だ…?」


(今エドガーの体を覆う瘴気の程度は昨日の同じぐらい。なら、昨日と比較できるしちょうどいいわ。)


アルナはエドガーに抱きしめられた状態から、自分の腕をエドガーの背中に手をまわした。

アルナとエドガーの距離が縮まり、密着する。


「な…お前それすると胸があたって…」


エドガーの顔が赤くなりアルナから離れようとした。


「エドガー!検証中だからじっとして!」

「いや、これ駄目だろ!いろいろと…」

「効率の良い浄化方法を見つけるためなの。我慢して」

「はああ?我慢って意味分かってんのか?何だよ、この状況は!」


顔を赤くして焦るエドガーを尻目に、アルナは壁にかかった時計を見ると、背中に回した両手がエドガーの背中の火傷部分にくるように手を置いて浄化魔法をかけ始めた。


(すごい!目に見えて瘴気が消えていく速度が違う!この調子なら…。)


「5分ぐらいで瘴気浄化できた!背中に手をあてたときは15分はかかってたから、10分は時間短縮できてる。魔力消費も昨日に比べたら小さいわ。やっぱり浄化効率を上げるには、接触面積を増やすことが大事なのね。エドガー、大発見よ!…ってあれ?顔赤いけど大丈夫?」

「どけろ…」

「え?」

「浄化終わったなら早く腕どけろ…。それで俺がいいって言うまで動くな」

「何で動いちゃ駄目なの?」

「こいつ…我慢の意味絶対分かってない…。もう黙って俺が落ち着くまで動くな。いいな」


ギロリと見てくるエドガーの圧を感じたアルナはおとなしくエドガーの言うことに従った。

しばらくするとエドガーは身体を起こしてアルナから離れ、ソファーにぐったりと寄りかかった。

アルナも体を起こしてソファーに座り直した。


「エドガー、大丈夫?瘴気は消えたし体の痛みはなくなったでしょ?」

「痛みはなくなったが、別の問題があっただろ…。お前さっきみたいな治療、他の奴にすんなよ。俺だったから耐えられたが…」

「さっきの体勢で呪いの浄化をしたのは初めてだったんだけど、そんな負担かかるんだ。覚えとこう。」

「負担ってお前…多分意味分かってないんだろ?いや、説明したくねえし、もうそれでいいか…。」

「けど、今日の浄化方法だと浄化が早く済むし、私も魔力消費減らせるから楽なのよね。慣れてしまえば…」

「あんなの慣れるわけねーだろ!次やられたら慣れるどころか、我慢できずに…」


きょとんとした顔で見てくるアルナを見たエドガーは顔を赤くした。


「…とりあえず今日の浄化方法は今後なしだ」

「患者さんがそう言うなら…。別の方法を考えよう」

「今日は薬なしでも大丈夫そうだな。ほら、早く帰れよ」

「うん。じゃあまた明日来るね」


アルナは転移ペーパーを破り、帰って行った。

残されたエドガーは顔を赤くして俯いて呟いた。


「あいつ…本当にたち悪い」

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