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はなちゃんとルイスとの内緒話

妖精は目が覚めたのか、目をぱちぱちしてアルナ達の方を見上げた。


「か…可愛い!ヴァン、妖精が起きたよ!」

「お嬢様、ここに妖精がいるんですか?」

「そこじゃないわ。ヴァン、本当に見えてないのね…。球根を植えた辺りに座ってこっちを見てるよ。」


【マリアじゃない にてるけどちがう あなただれ?】


「あなたしゃべれるのね。マリアは私のお母さんだよ。私はアルナ。あなたは?」


【わたし はなのようせい このはな まもってる マリア わたしのこと はなちゃんってよんでた】


「…『はなちゃん』?どこかで聞いた気が…そっか!『はなちゃん』って花の妖精のことを言ってたのね。はなちゃん、お願いがあるんだけど、どうしてもこの花の花びらが必要なの。もし良かったら、花を咲かせるお手伝いをしてくれないかな」


花の妖精は首を傾げ、じっとアルナ達を見つめた。


【わたし きにいったら はなさかせてあげる】


そういうと、花の妖精はアルナとヴァンを交互に見つめた。

すると羽を動かすと、アルナ達の周りをくるくる飛びまわり、アルナの肩の上に乗った。


【あなたならいい きれいなたましい マリアのにおいもする すき】


花の妖精はアルナの肩に座ってにっこり笑った。


「ヴァン!私、花の妖精に選ばれたみたい!今私の肩に乗ってくれてるわ」

「私にはお嬢様が独り言を言ってる痛い人にしか見えないのですが…本当に妖精がいるのですか?」

「…ねえ、はなちゃん。この人に姿見せられない?このままだと、私この人に変人扱いされちゃうわ」


【できるけど まりょくたりない アルナ ちょうだい】


花の妖精はアルナの手に指先にキスをした。


(妖精に私の魔力が吸われてる?なんだか指先があったかい…。)


花の妖精は魔力を吸い終わったのか、アルナの指から離れると何か唱えた。

すると、花の妖精の体が一瞬光り、ヴァンは目を見開いた。


「わ…私にも見えました。マリア奥様が『はなちゃん』と呼んでいたのはこの妖精ですかね?」

「花を守ってるって言ってたから、多分そうじゃないかな?これは憶測だけど、浄化スキルを持ってる人じゃないと妖精は見えないし、妖精に気に入られないと花を咲かすことはできないのかも」


「なるほど…。フェアリーフラワーが希少だという理由がよく分かりますね。妖精の住み処にしか咲かないと言われていますが、その場所は知られていないため、咲いている花の入手は困難。球根が手に入っても栽培が容易ではない。これが幻の薬といわれる要因ですね」


「私が妖精に気に入られて本当に良かったわ。駄目だったら、呪解薬作れずに詰んでたもの」

「『はなちゃん』の謎も解決しましたし、とりあえず、呪解薬作りのスタートラインには立てましたね。」


アルナの手に乗って遊びだした妖精を2人は見て、胸を撫で下ろした。


「えーと、次の満月の日は2週間後だっけ?それまでに蕾ができるまで成長してくれたらいいんだけど、間に合うかな…。はなちゃん、どれぐらいで蕾ができるか、分かる?」


【だいたい 7かい よるきたらできる あとはつきのひかり まつ】


「これは…声も聞こえるようになるんですね。7回夜が来たらということは1週間ですから…次の満月の日には間に合いそうですね」

「はなちゃん、教えてくれてありがとう!良かったー!エドガー様の治療期間が1ヶ月伸びたらどうしようかと思ったよ。早く私も寒気とおさらばしたいもの!」

「寒気?お嬢様…またエドガー様と変なことになってないでしょうね?」


ヴァンはアルナを疑わしそうに見た。


「な…ないって!ヴァンったら心配性なんだから」

「何かあったらちゃんと話してくださいよ。この植木鉢はお嬢様の寮の部屋に持ち帰ることでいいんですか?」

「うん。このまま、はなちゃんと一緒に植木鉢はもらって行くね。他の生徒にはなちゃんが見られちゃうと騒ぎになりそうだから…。はなちゃん、さっきみたいにみんなにはなちゃんを見えなくなるようにできる?」


【できる すこしまってて】


そういうと花の妖精は呪文を唱えた。


「ヴァン、はなちゃん見える?」

「いえ、見えなくなりました」

「これで大丈夫だね。じゃあはなちゃん、私の部屋に案内するから、念のため私の制服のポケットに隠れてくれる?」


花の妖精はうなづくとアルナのポケットに入り、頭だけ外に出した。

カバンに持ってきた本や聖水をいれ、植木鉢を抱えて保健室をでたアルナは自分の寮の部屋に向かって行く。


(意外にこの植木鉢重たいわね。植木鉢がガラスで出来てるからかな?気をつけて運ばないと。)


植木鉢を持ち直し、慎重に廊下を歩いて行く。


「アルナ!こんなところにいた」

「ひゃあ!」


突然肩を叩かれ、驚いた拍子にアルナは植木鉢から手を離してしまい、落としそうになった。

すると、背後から腕が伸びてきて植木鉢がキャッチされた。

「間一髪だったね。これは植木鉢?」

「この声は…ルイス?驚かせるのやめて。これ大事な物なんだから」

「こんなに驚くとは思わなくて。ごめんね。まさか植木鉢を持ってるとは」


アルナが振り返るとそこには植木鉢を持ってにこにこ笑うルイスがいた。


「今日の放課後、アルナに会いにAクラスに行ったんだけど、Aクラスの子に聞いたらすぐ帰ったって聞いたんだ。だから、今日は会うの諦めてたんだけど、たまたまアルナの姿を見つけて嬉しくて」

「そうだったんだ。けど、今2人で会うの周りに見られるのは良くないかも。私達噂になってるみたいだし。」


きょろきょろ周りを見渡すアルナを見てルイスは苦笑いした。


「…そうみたいだね。そのこともあってさ、直接会って話したかったんだけど、今時間ある?」


アルナはちらりと時計をみた。


(エドガー様との約束の時間が迫ってるし、あんまり余裕ないな…。今日は断った方がいいかも。)


「ごめん、また明日でもいいかな?ちょっとこの後約束があるの」

「それってもしかしてエドガーと?」


肯定しそうになったアルナはふと思った。


(エドガー様に放課後に会って浄化してることは内緒だし、昨日2人が言い合ってた様子みると、今エドガーに会いに行くなんて言ったらまた喧嘩になりそう。やっぱり黙っとこう。)


「…違うよ。別の人だよ」

「それ本当?」


真っ直ぐに見つめてくるエドガーの視線にアルナは思わず目を逸らしてしまった。


「…アルナって嘘下手って言われない?冗談で言ったんだけど当たっちゃったか。それなら話は別かな」


そういうと片手に植木鉢を抱えて、ルイスはもう片方の手でアルナの手を掴み、引っ張っていく。


(手を引っ張る力が強い!なんかルイス怒ってる気が…。どこに向かってるんだろう?)


「ルイス、私あまり時間なくて…植木鉢返してくれない?」

「そんな時間取らせないから、おれに付き合ってよ。話が終わったら植木鉢は返すから」


(笑ってるなのに何か圧を感じる…。大事な花はルイスが持ったままだし、黙ってついていくしかないか。)


諦めたアルナは、バレないように魔法通信機を取り出し、エドガーに約束の時間に遅れる旨をメッセージで送った。

ルイスについていくと、ついた先は中庭だった。

中庭には、木々や季節の花々が植えられており、休めるようにベンチがいくつか置かれていた。

ルイスは木の茂みの奥のベンチまで来るとアルナの手を離し、植木鉢を近くの小さなテーブルに置いた。


「ここなら人目につかないし、大丈夫かな。ここに座って。少し話そう」


アルナがベンチに座ると隣にルイスが座った。


「話したかったのは、ご褒美と噂の件なんだ。まずはご褒美のこと話していい?」

「いいよ。おでかけのことだよね?」

「うん。王都散策って言ってたんだけど、アルナを連れて行きたいところがあるんだ。その場所に入れる日が限られてるから、おでかけの日は俺が指定してもいいかな?」

「いいけど、そんな特別な場所なの?どこ?」

「当日まで秘密にさせて。その方がアルナも楽しみが増えるでしょ?」


小さな子供みたいに嬉しそうに笑うルイスを見て、アルナはつられてにっこり笑った。


「分かった。楽しみにしとくね」


ルイスはアルナの笑顔を見ると、目を背けて顔を隠した。


「ルイス?どうしたの?」

「いや、昔以上に破壊力が…。少し待ってね」


顔を上げたルイスはアルナの方に向き合った。


「おでかけの詳細はまた後日連絡するね。やり取りしたいから、魔法通信機の連絡先教えてくれる?」

「いいよ。はい、ここに連絡して」

「ありがとう。あと、噂の件なんだけど謝りたくてさ」

「謝る?なんで?」


きょとんとアルナはルイスを見つめた。


「いや、俺もエドガーも立場的に目立つわけで、あんな派手な喧嘩したら噂になるのも簡単に予想つくだろ?なのに、感情が抑えられなくて、派手にエドガーとやり合ってアルナに迷惑かけてるからさ」

「私は大丈夫よ。根も歯もない噂に振り回されてたら時間の無駄だもの」

「根も葉もないか。そうはっきり言われるのもつらいね」

「え、私おかしなこと言った?」

「いや、なんでもないから、気にしないで。」

「そう?気のせいかもしれないけど、ルイスも噂の件について、平気そうだね」

「…まあね。こんなこと言うとアルナは怒るかなと思うんだけど、俺は逆に噂がたって良かったなって思ってるんだ」

「なんで?」

「だって俺に言い寄ってくる女の子が減ったんだ。興味のない子の相手をするのは面倒だし、俺はありがたくって」 

「…ルイスって優しそうに見えて意外に冷たいんだね」

「俺優しそうに見える?」

「うん。男子寮で会った時そう感じたよ。少し安心したもの」

「アルナにそう感じてもらえたなら、この見た目に感謝しないとね。ただそうは見えても、みんなに優しいわけじゃないよ。それと、この噂のありがたいところは、牽制になってライバルが減るところかな?」

「ライバル…?なんの?」


不思議そうな顔でアルナがルイスを見ると、ルイスはじっとアルナをみて、自分の顎に手を当てた。


「…なるほど。予想はしてたけど、アルナは想像以上だな。これは長期戦覚悟しとかないと」


ぼそっと呟いたルイスは笑った。


「分からないならいいんだ。あと聞きたいんだけど、魔法実技の時にアルナがエドガーには前科があるって言ってたけど何されたの?」

「…え?もしかしてずっとそれ気になってたの?」

「うん。そんな口にだすのも憚られるようなことされたの?」


(前科ってエドガー様が抱きついてきたことだよね?エドガーに様には誰にも言うなって言われたし、ルイスに言ったら、ややこしいことになりそう。最悪また喧嘩になって噂が酷くなるかも…。それは避けたいし、適当なことを言っとこう。)


「たいしたことじゃないよ。ただいきなり手を掴まれただけだよ。」

「それぐらいのことでエドガーが口塞いでまで黙らせると思えないんだけど…。なんで俺に言えないの?」


(ルイスがなかなか引き下がらない!どう答えたらいいのよ…。)


アルナは途方に暮れた。


「…アルナを困らせたいわけでもないんだけど、やっぱり気になるんだよね。なんだろう?抱きしめられた?押し倒された?キスされた?それ以上?」

「えっとその…」

「ちょっと待って。その反応はさっきあげた行為当たってたってこと?俺エドガーにやっぱり抗議して…」

「ルイス落ち着いて!あーもう!抱きつかれただけよ!」

「…抱きつかれただけ?」

「そう!それだけ。ルイスが想像豊か過ぎて私びっくりよ!なんだが私が恥ずかしくなってきた…。そんなに私無防備じゃないんだから。」


アルナは顔を赤くして、ルイスに叫んだ。

ルイスはアルナの顔を見ると黙って俯き、しばらくそのままだった。

アルナはルイスの反応の無さが心配になり、ルイスの顔を覗き込もうとした時だった。


「…ごめん。アルナ、先に謝っとく」

「え?何が?」


ルイスが顔をあげたと思った瞬間、アルナは腕を掴まれ引っ張られ、気がつくとルイスに抱きしめられていた。


「アルナのその表情は反則。俺我慢できない…」

「なっ!嘘でしょ?エドガー様に続きルイスまで!離して!」

「これ以上はしないから。もう少しだけこのままいさせて。俺の気持ちが落ち着くまで」

「…え?落ち着くまで?いや、早々に離して!お願いだから!」

「アルナがあんな反応するから悪い」


アルナが暴れるもルイスの抱きしめる力が強く、抵抗は無意味と分かり、アルナは諦めた。

しばらくしてルイスはアルナを離した。


「やっと落ち着いた。アルナ、ごめんね。」

「謝るならもっと早く離して欲しかった…」


アルナはベンチの背もたれにぐったりとよりかかり、答えた。


「本当にごめん!お詫びに植木鉢運ぶから。どこまで運べばいいかな?」

「2人でいるの見られるとまた噂されるかもだし、今日は遠慮しとくよ。もう用はないかな?」

「今日は要件伝えられたし、アルナの連絡先も教えてもらえたから、十分かな」

「それならよかった。私そろそろ行くね」


アルナは立ち上がり、植木鉢を両手で持った。

ルイスもベンチから立ち上がると、じっとアルナを見つめた。


「ねえ、アルナ。寿命を延ばす魔法は見つかった?」


アルナは目を見開いてルイスを見た。


「なんでそれを知ってるの?」

「…内緒。アルナが思い出せば答えはでるよ」


ルイスはそう言うと笑って去っていった。

ポケットに隠れていた花の妖精は顔をだした。


【アルナ げんきない だいじょうぶ?】


「はなちゃん、大丈夫よ。少し昔のこと思い出しただけだから。なんか疲れたな…。これからエドガー様の治療もあるのに私もつかしら…」


ため息をつきつつ、自室に急いでアルナは戻るのだった。


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