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呪いの検証

机の上に数冊本を積み上げ、アルナは熱心に本を読み込んでいた。


「うーん…魔法を過剰に使ってたわけじゃないし、瘴気の発生原因はこれかな?問題はエドガー様が正直に話してくれるかよね?」


魔法実技を終えて放課後になり、アルナは調べ物があるからと教室を早々に後にして、自分の部屋に引き篭もっていた。

瘴気の発生を何度も目撃したアルナは、エドガーの呪いの瘴気の発生条件を明らかにしたかったのだ。


(毎日あんな頻繁に瘴気発生させてたら、エドガー様の体がもたなくなるかも…。今日の魔法実技のゲームの時も瘴気の影響で辛そうだったしな。)


魔法実技のゲームでゴールする直前に飛行速度が下がったのは瘴気の影響だろうとアルナは目星をつけていた。


(あの性格だし、自分の事を正直に話さないだろうけど、今後のために意地でも聞き出さないと。私もあの寒気とおさらばしたいしね。)


アルナは本を閉じて背筋をのばすと、チラリと時計を見た。


「やばっ!約束の時間まであんまり時間ない!そろそろ準備しないと」


アルナはバタバタと出かける準備をした。

エドガーの呪いの瘴気の浄化をこれからしに行くのだ。


準備を終えたアルナは紙の束を取り出した。

その紙には魔本陣が描かれており、魔力が込められていた。

この紙は転移ペーパーと呼ばれており、決められた移動距離内であれは、紙に転移したい場所の座標を書き、移動場所をイメージして、紙を破るだけで行きたいところに移動できる。

魔力を消費せず移動ができるので、便利な魔道具なのだか、高額なのがネックである。


エドガーの呪いの治療場所は外部に情報を漏らさないため、エドガーの寮の部屋となり、人目を避けるために転移ペーパーを使って往診して欲しいと、ペンドルトン公爵家から希望されたのだ。


(こんな高い魔道具を支給できちゃうなんて、さすが公爵家!まあ、こんな紙を使わなくても、私が転移魔法で移動してもいいんだけど、浄化のための魔力を温存させないといけないし、ありがたく使わせてもらおう。)


アルナは紙を1枚取ると座標を書き込んでいく。


「えーと、エドガー様の部屋をイメージしつつ座標を書いて…よし!あとは破るだけ」


アルナが紙を破ると転移魔法が発動し、エドガーの部屋にアルナは移動していた。

そこには気怠そうにソファーで寝転び、本を読むエドガーがいた。


「…ちゃんと来たんだな。来ないかと思ってた」

「そりゃあ来ますよ。魔法医としてちゃんと依頼は果たさないと!」


エドガーは体を起こすとソファーに座り本を閉じると、アルナを不機嫌そうに見た。


「お前、さっき転移魔法使ってまで逃げたのはなんだったんだよ?」

「エドガー様からでる瘴気から逃げたんですよ。私瘴気にあてられやすいみたいで寒気が止まらなくなるみたいなんです。こうゾワゾワするというか…」

「ゾワゾワ?俺が嫌だからじゃなくて?」

「違いますよ。呪いの瘴気が苦手なんですよ。エドガー様も瘴気が見えたら、逃げたくなる気持ちが分かりますよ」

「へーそうかよ…」


そう言ったエドガーを見ると少し機嫌が良くなったように見えた。


(今なら正直に話してくれそう?早速聞き出してみよう。)


「エドガー様、呪いとうまく付き合っていくためにも、今から私がする質問に正直に答えてください。私が今日リオ様やルイスと話をしている時、エドガー様が現れましたよね。その時どんな気持ちでした?」


『ルイス』という言葉を聞いたエドガーはピクッと反応した。


「それ呪いと関係あるわけ?というか、お前ルイスになんであんなに気に入られてるんだよ。秘密の内容も教えてもらってないし」


アルナはエドガーを凝視した。

またエドガーの背後から瘴気が出始めたのだ。

アルナは背筋がゾワゾワするのを感じた。

エドガーはそんなアルナの変化に気がつき、ギョッとした。


「今度はなんだよ?」

「しょ…瘴気がまた出始めた!エドガー様、今感じてる気持ちは?正直に言ってください!」


食い気味に聞いてくるアルナにエドガーはたじろいた。


「はあ?それ重要か?」

「呪いをコントロールするのに大事なことです。じゃないと、今日の魔法実技のゲームのゴール前のときみたいに、大事な局面の時に瘴気の影響で魔法が上手く使えなくなりますよ」


エドガーは驚いた表情を見せると、ため息をついた。


「…気がつかれてたわけか。今の気持ちだったか?なんかイラつく」

「やっぱり。エドガー様、呪いと心って互いに影響し合うの知ってます?」

「なんだそれ?」


「『呪いを受けたものは呪いの影響で心が不安定になる。逆も然りである。』これは呪いについて書かれた本の一節です。分かりやすくいえば、呪いが進行すれば心が不安定になるし、逆に心が荒れれば呪いも進行するんです。」


「つまり俺がイラつけば、呪いは進行して瘴気が発生するってことか?」

「そういうことです。呪いの進行は魔法を過度に使った場合も起こるんですけど、エドガー様は魔法を使ってないのに瘴気が出始めてましたから、心が荒れてたのが原因だったと思うんです」


「お前は呪いを進行させないためにイラつくな、と言いたいわけ?」

「エドガー様の性格上、難しいのは分かりますが、呪いをコントロールするためには必要です。私も魔法医として協力しますから、今感じてるような苛立ちはなるべく抑えるようにしてください」


エドガーは舌打ちをして、ため息をついた。


「くそ…ほんと厄介な呪いだな。分かったよ。感情をうまくコントロールすればいいんだろ」


そういうとエドガーは顎に手を当てて何かを考え始めた。

しばらくすると、エドガーはアルナに近づいてきた。

アルナは思わず後ずさりするが、手を引っ張られ、ソファーに座らされた。

その隣にエドガーも座り、アルナの頬に手を添えるとアルナの顔をじっと見つめた。


「あの、そんな見つめられると困るんですが…」

「ちょっと確認してるからじっとしてろ」


無言の圧力を感じ、アルナはじっとエドガーの視線に耐えていた。


「やっぱり似てんだよ…。このせいなのか?」


エドガーはボソッと呟き、アルナの頬から手を放し、耳だけ赤くして目を伏せた。


「あの、どうしました?」

「なんでもねえ。それより折角お前から協力すると言ってくれたから、早速お願いがあるんだが?」

「な、なんでしょうか?」

「ルイスとの秘密を吐け。あと、なんでルイスに気に入られてるのか、理由も話せ」

「なんでエドガー様に話さないといけないんですか?」


「俺がなんかイラつくから。苛立ちを抑える協力をしてくれるんだろ?」

「…やっぱりさっきの発言を撤回したいと言ったらどうします?」

「そうくるか…。じゃあこうする」


アルナはエドガーに腕を掴まれて引っ張られ、気が付くとエドガーに抱きしめられていた。

アルナは腕を伸ばして距離を取ろうとするも、力では敵わず、せめてもの抵抗でエドガーを睨んだ。


「またですか!逃げないならしないと言ったくせに!」

「協力するって言ったのに、速攻なかったことにしようとする奴に言われたくないね。お前に触れてるだけでも多少は瘴気浄化されるんだろ?協力できないなら、俺は患者なんだから、浄化してもらう権利はあるよな?」


「患者の立場をフル活用しないでください!ちゃんと浄化するので、離してください!」

「じゃあ早く話せ。そしたら解放してやるから」

「あーもう!分かりましたよ!話しますから離してください!」

「やっとかよ。ほら、離したぞ」


そう言うと、エドガーはアルナを開放した。

アルナは秘密の内容として、ルイスに男子寮にいるところを目撃されたことや、寮から脱出するのを手伝ってもらったことを話した。


「なるほどな。だから俺が発端だって言ったんだな」

「エドガー様が私を拉致ったせいでややこしいことになったんですよ」

「…じゃあルイスがお前を気に入ってる理由は?」

「ちょっと!謝罪はないんですか!理由は…私も聞きたいぐらいですよ。昔会ってるみたいなんですけど記憶にないし…」


「女に興味をもたないルイスがあれだけ気に入ってるんだぞ?それだけ衝撃的な出会いだったんじゃねーの?」

「そういわれても…。ただ諸事情で、私ある時期は他人に興味が持てなかった時があったんです。もしかしたら、その時に出会ったのかもしれないです」

「何だよそれ」

「まあ、これは私の問題です。エドガー様はこれ以上口出ししないでください。患者さんでも踏み込みすぎは許しません」


アルナはソファから立ち上がると、エドガーに向き合った。


「秘密は話しましたし、もういいですよね?私から呪いの注意事項は伝えましたので、そろそろ本格的に浄化はじめましょうか」

「またビンタでもすんのか?」

「そういう暴力的な浄化をご希望なら仕方なくそうしますが…。もしかしてマゾ気質なんですか?そういう患者さんはたまにいますけど…」

「希望するか!むしろ逆…って何言わせるんだよ!お前遠慮無さすぎだろ。令嬢とは思えねえよ」

「令嬢らしくないとはよく言われますね。シェリーとロナウド殿下はそこが私の良さだって言ってくれてますよ」


ふふんと笑うアルナを黙ってエドガーは見つめた。


「ほんとお前は…。で、浄化するんだろ?俺はどうすればいい?」

「今日は前回といっしょで背中の火傷部分に直接私が手を当てて浄化魔法をかけます。ベットに上半身裸になってうつ伏せになってもらえますか?」

「前から思ってたんだけど、お前男の裸見るの平気なわけ?」

「え?見慣れてるから平気ですよ」


エドガーはそれを聞くと眉間に皺をよせ、立ち上がった。


「は?お前まさかそんな見た目の割に…」

「だってうちの病院の診療中だと日常茶飯事ですよ。怪我の患部をしっかり見ないといけませんし。あれ?顔赤いですけど、大丈夫ですか?」


エドガーはソファーに座り込んだかと思うと顔を隠すように下を向いた。


「いや、勘違いというか…なんでもねえ。じゃあ服脱ぐからお前はあっち向いてろ。準備できたら声かけるから」


アルナはベットに向かったエドガーを見ないように体の向きを変えた。ゴソゴソと音がしでベットが軋む音がしたかと思うと、静かになった。


「もういいぞ」


アルナが振り返ると、上半身裸でベットにうつ伏せになった状態のエドガーがいた。

アルナは椅子を持ってベットに近づくと、うつ伏せのエドガーの近くに椅子を置いて腰掛けた。


「では始めますね」


アルナは浄化魔法をかけ始めた。

あらかた瘴気を取り除いたアルナは汗をぬぐってエドガーを見るとエドガーは身体の痛みがなくなり眠気がきたのか、眠りについていた。


(熟睡出来ないほど、身体の痛みが辛いはずなのに、誰にも文句も言わずよく我慢できてるよね。今日はこのまま寝かせておこうかな?)


起こさないよう物音をたてずに去ろうとしたアルナはそっと手を火傷部分から離した時だった。

エドガーの手がアルナの手を掴み、眠たそうな目でアルナを見た。


「…また逃げんのか」

「寝ぼけてますね。浄化は終わりましたよ。しばらくはこの調子で毎日浄化を続けましょう。瘴気の発生が落ち着いてきたら、浄化の間隔をあけてもいいですし。」

「俺、寝てたのか…」


エドガーはアルナの手を離し、体を起こすと手から火魔法をだした。体の調子が戻ったことが嬉しいのか、少し口角が上がった。


「お前ほんとすごいな。これなら魔法も問題なく使える」

「調子が戻ったからって。魔法を使い過ぎると瘴気が発生しますから、ほどほどにしてください。」

「分かったよって…お前顔色悪いぞ」

「気のせいですよ。じゃあ今日は帰りますね」


アルナは笑って答えると帰る準備をし始めた。


「もう帰るのか?」

「はい。自分の部屋でもっと効率が良い浄化方法も調べたいですし。もし訓練とか授業で魔法を使って身体がしんどくなったら魔法通信機で連絡ください。急ぎで対応しますから。」


アルナが帰り支度を済ませて、転移ペーパーを使って帰ろうとしたところ、いつの間にか服を着て近づいてきたエドガーに腕を掴まれた。


「ちょっと待て。これやるから後で飲んどけ」


エドガーが差し出したのは液体の入った小瓶だった。


「これ何ですか?」

「魔力回復薬」


アルナは渋い顔をした。


「大丈夫です。患者さんから貰うわけにはいかないし、一晩寝たら魔力は回復しますから」

「受け取らないと腕離さねえぞ」


アルナは黙ってエドガーの腕を振り払おうとするが、騎士として鍛えてるだけあって簡単に振りほどけそうにない。

エドガーの目をじっと見つめると譲る気はないのがよく伝わってきた。

なんだかだんだんエドガーの顔が赤くなってきた気もする。


「…そんな見つめんな。いいから早く受け取れ」

「じゃあ有難くいただきます。また明日も同じ時間に来ても大丈夫ですか?」

「ああ。あと、ご褒美の件もあるしな」

「…その件なかったことにできません?」

「約束しれっと破ろうとすんな。今日はお前しんどそうだから帰って早く休め」


アルナは薬を受け取りエドガーが腕を離してくれたのを確認すると、転移ペーパーで自分の部屋に戻った。

貰った薬をみると上級魔力回復薬でお高めのものだ。


(こんないい薬を持ってるなんて、さすがお坊ちゃまだな。あの人、口は悪いけど、根は優しいのかな。)


棚の上に置いた薬を眺めつつ、アルナはため息をついた。


(患者に気を遣わせて薬までもらうなんて、魔法医としてあるまじきことよね。お父さんに見習い魔法使いと言われるわけだわ。)


自分の未熟さを悔しく思うアルナは貰った薬を引き出しにしまい込むのだった。

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