再会とご褒美勝負②
キャンベル先生は実習場の地面に大きな円を描いた。
「3組に分かれて飛んでもらうわよ。制限時間は10分でいきましょう。蝶は結構素早いから、甘い気持ちで取り組むのはおすすめしないわ。なお、蝶を捕まえるのに魔法は使ってもいいけど、周りに迷惑をかけるようなことはしないこと。他人を妨害するのも禁止。分かったかしら?
じゃあ、1の番号を引いた1組目の人はこの円の中に入って飛ぶ準備をしてちょうだい」
シェリーとジュラルドは1組目、アルナとリナとリオは2組目、エドガーとルイスとロナウドは3組目に振り分けられた。
「リナとリオと一緒なのね。私、ご褒美阻止するために本気でやるからよろしく!」
「あれ?アルナ嬢ってプレゼント狙ってたんじゃね?目的変わってね?」
「リオ、アルナにも事情があるのよ。私達も本気でやりましょ!私達が1番になっても、アルナは嬉しいでしょ?」
「それはそれで助かるわ!」
アルナ達が話している間に1組の準備が整い、キャンベル先生は笛を手に持った。
「では、第1組スタート!」
キャンベル先生の笛の合図とともにシェリーとジュラルドは地面を蹴って空へ向かっていく。
すぐ帰ってくるだろうと思っていたが、なかなか生徒は降りてこない。
4分経って、やっとジュラルドが一番最初に地上に戻ってきた。
「ブライスが1番ね。タイムは4分36秒!」
ジュラルドはふーと息を吐くと気怠そうにロナウドのところに戻ってきた。
「ジュラルド、意外と遅かったね。」
「いや、なめてたわ。蝶がちょこまか逃げるし、手こずったんだよ」
「ジュラルドがそういうなら、このゲーム意外と難しいのかもね」
ルイスの予想通り、その後は数人戻ってきたもの、大半の生徒は地上に戻ってこなかった。
10分経って時間切れになり、シェリーも地上に戻ってきた。
「あの蝶なんなの?早すぎだわ。先生鬼畜すぎよ…」
シェリーは飛び疲れたのか、座り込んだ。
シェリーの様子をみたアルナとリナは唖然とした。
「これは心してかかったほうがいいわね」
リナの言葉にアルナは頷いた。
「では、2の番号を引いた第2組は集合!よーいスタート!」
呼ばれたアルナ達は円の中に入った。
キャンベル先生の声が響くと同時にアルナは飛行魔法を発動した。
(私は赤色の蝶を捕まえないと…あ!ちょうど私の真上を飛んでる!)
アルナは赤色の蝶を見つけると、スピードを上げた。
蝶は意外にも逃げ足が早く、網を振るも捕えられない。
周りを見渡すとみんな目標の蝶は見つけているものの、捕まえるのに苦戦していた。リナやリオも蝶を追いかけ回している。
(1組の子達が戻ってこれなったのがよく分かるわ。蝶が早すぎるのよ!まず蝶の動きを止めないと!)
アルナは考えを巡らせていると、ふと先ほどルイスがジュラルドに使った水の球体を思い出した。
(周囲に迷惑かけずに動きをとめる魔法…。私が得意な魔法で…。球体…。そうだ!)
アルナは蝶を追いかけるのを止めると蝶の動きを目で追った。
(球の形をイメージして…座標はあそこ!魔法を発動させるなら、今!)
アルナは結界魔法を発動した。
すると球形の結界の中に蝶が閉じ込められた。
「よし!成功!」
アルナは結界の側まで行くと魔法を解除して、網を振って赤い蝶を捕らえてそのまま地上に急降下した。
「ハーストンは4分01秒!やるわねえ。今のところ1番よ」
「やったー!私が一番!」
アルナが喜んでいると、リオ、その後にリナが空から降りて来た。
「嘘だろ?アルナ嬢に俺負けたのかよ!」
「アルナにもリオにも負けた!くやしー!」
リオとリナは悔しがり、アルナを見た。
「ダグラス兄弟は…リオが4分20秒でリナが5分36秒。今回は蝶の速度設定を厳しくしすぎたようね。ごめんなさいね。戻ってこられただけでもすごいことよ。」
キャンベル先生はにこにこ笑ってアルナ達を見た。
「アルナ、よくあの短時間で蝶を捕まえられたわね。すごいわ」
シェリーは感心してアルナの頭をなでなでした。
「得意な結界魔法を使ったの。案外簡単に捕まえられたよ!」
「今回のゲームのネックなところは魔法は使ってもいいけど、周りに迷惑をかけては駄目ってところだよね。私も魔法使って捕まえたかったけど、蝶が早すぎてピンポイントに狙って魔法が発動できないし、だからといって広範囲に影響する魔法を使えば、周りに影響がでちゃうでしょ?」
「俺もそう!結局、魔法使わずに速度勝負で追いかけ回してなんとか捕まえたよ」
「なるほど。蝶の動きを止める魔法が有効ってことか。有益な情報だね」
ロナウドは笑って帰って来たみんなを眺めていた。
ルイスは考え込み、エドガーは見た。
「エドガーはなんか作戦でもあるの?」
「お前に教えると思うか?」
「まあ、そうだよね。俺も教えたくないもの」
「というか、作戦もないだろ」
「小細工なしか。まあ、それが1番早いかもね」
「僕はのんびりいこうかな。2人の勝負を邪魔したくないしね」
エドガーとルイスが睨み合うのをロナウドは面白そうに見ていた。
制限時間になり、2組の生徒達が全員空から帰ってくると、3組目の生徒も円の中に入っていく。
「次が最後の組ね。では、3組目スタート!」
笛の音とともに生徒達は空に飛んでいく。
3人の人影が抜きんでて空に登っていった。
「あの3人ってエドガー達じゃね?」
「うわーさすが早いね」
「ロナウド様、あれがのんびりっていう速さなのかしら…」
「え?ロナウド様もだけど、エドガー様もルイスも早くない?いや、蝶を捕まえるのに時間がかかるはずよ。きっと大丈夫…」
「アルナ、顔が真っ青だけど大丈夫?」
5人が戦局を眺めていると、2人の人影が空から猛スピードで降りて来た。
「お!2人戻って来た!先頭は…誰だ?」
アルナは人影に目を凝らした。
先頭で戻って来た人影の背後には黒いモヤモヤしたもの見える。
(あれ瘴気だよね?ってことは先頭はエドガー様か!)
「たぶんエドガー様だわ。タイムは今…1分46秒?え?あの蝶をそんな早く捕まえられたの?」
「アルナ嬢、目がいいんだね。先頭はエドガーとして、もう1人は誰だ?」
2人の人影は地上にどんどん近づき、姿がはっきり見えてきた。
先頭はエドガー、その後を僅差でルイスが追いかけていた。
地上で待つ生徒達は歓声をあげた。
(このままだとエドガー様が勝ちそう!けど瘴気の動きがおかしい気が…。)
エドガーの背後に漂っていた瘴気はエドガーの全身を覆うように移動し始めた。
するとエドガーの表情が一瞬曇り、速度が落ちた。
そのままエドガーとルイスが横に並び、同時に地上に降り立った。
「…これは予想外ね。ペンドルトンとシェラードともに2分46秒。同率一位よ。まさか1位が2人とはね。プレゼントどうしようかしら?」
困っている先生を尻目に生徒達は盛り上がっていた。
しばらくするとロナウドも空から降りて来た。
「ハーウッドは3分53秒!ハーストンを抜かして3位かしら。3組目は早かったわね」
先にゴールしたエドガーとルイスは大きな円の中で何やら揉めているようだったが、遅れて戻って来たロナウドが取りなしたようで、ロナウド達はアルナ達のところに戻ってきた。
「エドガーもルイスもすごかったよ。狙いの蝶を見つけた途端、魔法も使わず難なく蝶に追いついて捕まえたかと思うと、急降下で降りていくんだもん。僕はマイペースで捕まえたけどね」
「ロナウド様も十分早いよ。俺達負けたもんな。」
「賭けも負けちゃったなー。ロナウド殿下の予想通り、同率一位とはね」
「エドガーとルイスが同タイム弾き出すとはなー。途中までエドガー優勢だったのに惜しかったな」
「あら、同率一位だって!これだと2人両方にご褒美あげないといけないのかしら?ねえ、アルナ?聞いてる?おーい!」
「うう…2人とも1番って…。私頑張ったのに…。ルイスはまだいいとして、エドガー様から何要求されるの?私…」
「駄目だわ。話聞ける感じじゃないわ」
シェリーとリナはアルナに哀れみの目をむけた。
アルナが頭を抱えているところにルイスが駆け寄ってきた。
「アルナ!エドガーと一緒だけど1位とれたよ!約束通りご褒美くれる?」
そういうとルイスはアルナの両手を掴んだ。
「…そんなにご褒美ほしいの?」
「うん。欲しいな。駄目?」
目を逸らさずに真っ直ぐ見つめてくるルイスにアルナは観念した。
「…分かった。おでかけね」
「やった!楽しみだな」
ルイスは嬉しそうに笑った。
ルイスの後ろからはエドガーがやって来た。
不機嫌そうな顔でエドガーはルイスをチラリと見て、アルナに向き合った。
「お前こいつと本当にデートするわけ?」
「ただのおでかけです!約束ですからね。ほら!エドガー様は何が欲しいんですか?エドガー様もおでかけがいいんですか?」
やけになったアルナは諦めて、エドガーの言葉を待った。
エドガーはじっとアルナを見つめる。
何か言おうとしたが、顔を赤くして周りを見渡し口をつぐんだ。
「…あとで2人になったときに言う。ここじゃ言えねえ」
「え?あの、ご褒美は公の場でも言えるレベルにしてくださいね?内容によっては私も拒否しますから…」
それを聞いたエドガーは顔を赤くした。
「あのなあ…お前どんな想像してんだよ!」
「だってエドガー様は前科あるじゃないですか?抱きつい…むぐ。むー!」
「ちょっとお前黙ってろ。」
「ねえ、エドガー?アルナに何したのさ?前科って何?」
「ルイスには関係ない」
「関係ある。というか、ずっと俺とアルナが話すの邪魔してくるのやめてくれない?」
口を手で塞がれたアルナを挟んでルイスとエドガーは睨みあった。
アルナは口を塞ぐエドガーの手を外そうとするも力が強く、外せない。
文句を言ってやろうとエドガーを見た時、アルナは固まった。
(瘴気がまた出始めてるー!さっきよりも濃くなってるよ!)
瘴気の毒々しさにアルナは震えた。
瘴気はエドガーの背中からアルナの口を塞ぐ手に向かって漂って来た。
(瘴気がこっちに来た!浄化魔法使って祓っちゃう?いや、こんな公の場では使えない!こっちに来ないでー!)
瘴気はアルナの目の前に到達した。
アルナは涙目になり、思わず転移魔法でシェリーの隣に移動した。
「あら!アルナ、転移魔法使ってまで逃げてくるなんて大丈夫?」
アルナはシェリーの姿を確認すると、シェリーにぎゅっと抱きついた。
「シェリー、ふ、震えが止まんないのー!」
「よしよし。アルナ、大丈夫よ。頭撫でであげるから落ち着きなさい」
エドガーとルイスはアルナが突然移動したため、驚いた表情でアルナ達を見ていた。
ロナウドも驚き、エドガー達に声をかけた。
「2人ともー。アルナ嬢がなんだか限界みたいだからそこまでにしといたら?」
「…アルナが逃げたのエドガーのせいじゃない?」
「お前が迫りすぎだからじゃねえの?」
「ねえ、2人ともいい加減にして?取り成すの面倒なんだから」
アルナの頭を撫ででつつ、ロナウドがエドガー達を宥めるのをシェリーは眺めていた。
「入学式早々、殿方2人に目をつけられてアルナも大変ね…。2人のやり取りが怖かったのね?」
「そうじゃないの。黒いモヤモヤがね…。私どうも苦手でみたい…」
「え?違うの?モヤモヤ?何のこと?」
首を傾げるシェリーに慰められるアルナは瘴気の発生条件を絶対明らかにしようと心に決めるのだった。




