1-7 宿命
鬼塚一郎は武の父の友人の子だった。
その縁で二人は幼い頃からよく遊ぶ仲だった。
武が十歳の頃に一郎は「海外へ引っ越す」と聞かされてそれ以降の連絡は途絶えていた。
「父からは……一郎は海外に行ったと聞いていました」
武は胸に残っていた違和感を吐き出した。
「その一郎が……原始超人だったということですか?」
「武よ」
康彦は静かに言った。
「一郎が行ったのは根の堅洲国だ」
武は息をのむ。
「真実を知らされなかった理由はすでに話したな。
……親を恨むなよ」
康彦は続けた。
「一郎は根の堅洲国に渡った後、イザナミノミコトを擁する悪神の配下に囚われた」
康彦の声は淡々としていた。
「囚われる直前に一郎は原始超人として目覚めて同じ原始超人の元に思考の交信が届いた。
それによってヤマト機関は一郎の正体を知った」
康彦は言葉を区切る。
「そして一郎が囚われた時と同時に葦原の国で起きた出来事がある」
康彦は武を見据えた。
「五年前の地殻変動だ」
武の中で時間が止まったようだった。
「悪神たちはお前の命を人質にした。
一郎は悪神たちに囚われることを選んだ」
言葉の意味がすぐには理解できなかった。
「……選んだ、って」
「お前が生きることをだ」
あの事故。
武以外のクラスメイトたちが命を落としたあの日。
「偶然ではない。
あの地殻変動は悪神の配下によって引き起こされたものだ」
「そんな……」
「ヤマト機関もそして私も……。
あの時にお前を守ることはできなかった。
白狼を葦原の国に送ることもできなかった」
「……でも今回は助けてくれたんですか」
「そうだ」
「だがな」
康彦は、少しだけ視線を逸らした。
「厳密には私はヤマト機関とは協力関係にはない」
「え?」
「康彦さんよ」
そこで、白狼が口を挟んだ。
「そろそろ自分の立場を話してやれ。
このままじゃ死んだ幽霊扱いだぞ」
「……説明することが多すぎるのだ」
康彦はひとつ息を吐いた。
「私はかつて葦原の国に生まれた人間だ。
超人として目覚めたが原始超人と対立した」
「……対立ですか?」
「文明を滅ぼそうとする原始超人とな」
康彦は武を真っ直ぐに見た。
「奴らとの戦いの中で私はククリの力を取り込みすぎた。
その結果、神となった」
「神に……」
「そうだ」
白狼が話に入ってくる。
「俺と影康ってやつはお前のご先祖さんと一緒の時代にいたんだが死んで神使としてこうして仕えてしまったというわけだ」
武はただ黙って聞いていた。
「武よ」
康彦は話を戻した。
「お前が戻れば再び狙われるだろう」
「……戦うしかないんですか」
「ただ戦うのではない」
康彦ははっきりと言った。
「お前にはこの高天原でタケミカヅチノカミの力を宿してもらう。
来るべき時に備えるのだ」
武は目を見開いた。
タケミカヅチは武も知る戦いの神だった。
「葦原の国に住まう人間がこの高天原の夜を迎えることはできない。
残された時間は葦原の国の時間として十日だ」
「十日……」
「選択肢は二つ」
康彦の声は容赦がなかった。
「夜を迎えここで命を失うか。
あるいは超人としての宿命を引き受けるか」
武は拳を握りしめた。
幼馴染の顔が脳裏に浮かぶ。
「……帰ります」
武は顔を上げた。
「葦原の国へ。
そして一郎を……助けに行きます」
康彦はわずかに目を細めた。
「それでいい」
白狼がにやりと笑う。
「覚悟できたな」
武は超人としての宿命を受け取った。
高天原に白い陽の光が差し込んできた。
武が高天原に来た時にみたオレンジ色に染まっていたあの空は朝日であった。




