2-18 期待と推測
金鵄おのごろ島学院の男子寮から武たちが消失した翌る日。
全校生徒に異世界転移動画へのアクセスの防止が徹底されていた。
1年4組の教室には座る者が居ない三つの席があった。
瑛美はその内の一つの席を見つめている。
武の席だった。
その席の前に座る瑛理子は授業の内容が頭に入らず、ため息を吐きながら窓の外を見ていた。
──瑛理子、感じる?
──……まだ。
瑛美と瑛理子が自分らの能力を使って心の中で交信をしている。
──やっぱり根の堅洲国ではないのかな……。
──じゃあ私たちの能力って認識できた世界じゃないと交信できないのかしら?
──たしかにこの前のもう一つの葦原の国は空に見えていたし……。
瑛理子が頭を抱える。
──あの動画を見たいんだけど。
「ええ!?」
瑛美が思わず声に出してしまった。
教師を除いて誰も発言していない中で瑛美の声に生徒たちが振り返った。
察しのついた早奈美は口を開かないで苦笑いをしていた。
「あ……、すみません……」
──それはまずいでしょ……。
──じゃあ瑛美がこっちに残ってくれたら私たちで交信できるじゃない。
それにその世界に行けば武君たちを見つけられるわ。
──だけど……。
瑛理子は本気だと瑛美はわかっていた。
武、赤松、そして弟の錠を案じるのは当然だと思った。
授業が終わるとすぐに瑛美が瑛理子の席へやってくる。
「本当に行くの……?」
「松岡教官に意見具申しましょうよ」
「けど……」
「橘! 来栖!」
噂にしていた当の本人の声がした。
教室の出入り口から松岡教官が二人を呼んだ。
二人は教室を出て松岡のもとにきた。
「君たちに協力してもらいたいことが」
「武君たちのことですか?!」
瑛理子が食い気味に聞いた。
「落ち着いてくれ。
君たちに特別招集をかけたい」
「では私たちはどちらに……?」
「新たに確認できた世界だ」
「やっぱり……!」
「武君たちがいるのはそこなんですか?」
「その通り。
それにその様子だと物部たちを感じ取れていないか?」
「そうです……」
「現在、参謀本部が立案している作戦において君たちの能力を使わせてほしい。
六時間後に異世界転移を行うので、武器装具物品を用意して五時間後に学生隊本部に来るように」
「了解しました」
松岡は振り向いて廊下を去って行く。
「やっぱり根の堅洲国ではなかったんだわ」
「そんな新しい世界があったなんて……」
「もしかして、イザナミノミコトに体を乗っ取られた鬼塚一郎君が作ったんじゃ……」
「有り得なくはないですよ」
背後から二人の会話に入る者がいた。
「野澤先生……!」
振り返ってそこに居たのは野澤教諭だった。
「私も一緒に異世界転移をします」
「先生も行かれるんですか?!」
「まあ空間研究の専門家の一人なので」
「先生、その世界ってこの前に現れた世界と同じような物なんですか?」
「厳密に言うとあの騒動で現れたのはまだ不完全な世界でした。
ですがどうやら今回の世界はすでに出来上がっているそうです」
「もう完成しているんですか……?」
「はい。そして規模も小さいようですね。
そして常に夜だとも聞いています」
「そんな世界ってあり得るんですか?」
「不思議に思いますよね。
ただ、おおよその見当はついています」
「太陽がないということですか?」
野澤はその問いに即答せず顎に指を当てながら目線を逸らした。
「そういうわけではないのですが、前回のあの未完成だったもう一つの葦原の国がヒントになっています」
「それは……?」
「まだ推測の段階です。
それに答えはもうすぐわかりますよ。
さあ、二人も支度をしてください」
「はい……!」
「行きましょ、瑛美」
野澤に促されて瑛美と瑛理子は寮へ向かった。
二人は教室から寮へ続く廊下を長かった髪を短く束ねながら急いで駆けていく。
期待と不安が入り混じるが、自分たちの能力が必要とされ武たちを救えるという嬉しさがあった。




