2-17 明かされるもの
砕晶らの襲撃を受けている集結地は混乱していた。
前進してくる鬼たちに対して総員で応戦している。
集結地の建物はククリの力の防壁が施されていて隣接する建物を使って防御陣地を構成している。
だがここは砦ではなく防御には限界があった。
猪幡が率いる装甲肉弾兵はその装甲と防御空間で攻撃を弾きながらじわりじわりと前進してきている。
「こんなにも敵が!」
「学生隊! 自分の防御空間に集中しろ!」
武たちに気づいた戦闘機動隊の山崎は指示した。
「間違っても装甲肉弾兵と近接戦闘をしようと思うな!」
「自分たちにも応援させてください!」
山崎が武の言葉に口角を上げた。
「その心意気は嬉しいが、中にいてもらってもいいんだぞ!」
武と山崎の会話の後ろで集結地の建物の頭上に目にも留まらない速さで光が落ちた。
施された防壁もろとも建物の壁が吹き飛んでその爆散の轟音が響いた。
「うわ!!!」
爆発の衝撃によって武の頭の中では耳鳴りが響いていた。
爆発によって粉塵が舞い上がる中、武は立ち上がって爆散した建物を見た。
「三上ー!!!」
武は三上の名前を叫んで駆け出した。
━━集結地に砲弾が撃ち込まれたのか?!
━━砲弾の発射は確認できていない! 上空からの直線だったぞ!
━━飛行高度を維持していたが上空より攻撃を受けている!
羽張背にいくつもの無線が流れ続ける。
視界が開けていくと集結地は跡形も無かった。
「そ、そんな……」
武は言葉を失い立ち尽くした。
━━この感覚……!
粉塵の向こうにあったはずの人の気配が消えた。
──境界線空間か!
境界線空間に引き込まれた感覚だった。
「お探しのお友達はこいつか?」
武が振り返って目に飛び込んできたのは三上と猪幡の姿だった。
「三上!」
「た、武……」
猪幡は三上の右腕を背中に回し締め上げていた。
「い、痛い……」
「三上を放せ!」
「そうかい。
だったら力づくでやってみたらどうだ」
猪幡の大きな目が与える威圧感。
それに怯む本能を抑えながら武が地面を踏みしめる。
「待つんだ! 物部君!」
武が呼び止める声の方向を向くとその声の主は西澤だった。
「に、西澤大尉……?!
捜索に行っていたはずじゃ!」
「三上 友季は一般人ではない!」
「西澤さん……?
何を……?」
「彼の素性を調べたが彼の人物像は作られたものだ!
おのごろ島の出現後に君へ接触するために用意された工作員だぞ!」
予想だにしない西澤の出現とその口から出た言葉。
武は思わず声を出した。
「そんなことを何で言えるんですか……?!」
「おい!!!」
自分を無視することを許さない猪幡が怒号をあげながらさらに三上の腕を締め上げた。
「うわー!!!」
三上は腕に負荷がかかって悲鳴を上げる。
「こいつをぶち殺すぞ!!!」
武の身体に力が入ると武が動くのを悟ったように西澤が口を開く。
「私は能力で相手の行動を予測することができる!
三上 友季は私の攻撃を退けられるんだぞ!」
武は脚を止めた。
西澤の攻撃を超人ではない者が退けるわけがない。
「だから彼は……!」
西澤の言葉を遮るように攻撃空間の攻撃が飛び込んできた。
西澤がその攻撃を防御空間で防ぐと攻撃の主が現れた。
「それは面倒な能力だなぁ」
砕晶だった。
「子供の姿まで使うとは相変わらずの鬼の卑劣さだな!」
「いやぁ別に子供なのは間違いねぇぞ」
「三上、本当なのか?」
「……」
━━そんなことはないって言ってくれよ!
武の期待する言葉は三上から出てこなかった。
「バカかよ!」
三上の腕を放した猪幡が吐き捨てるように言った。
「やっちまうぞ!!!」
猪幡の号令で境界線空間に突入してきた装甲肉弾兵たちが武に向かって飛び込んでくる。
「物部君!」
西澤がすかさず武を引き寄せると攻撃空間を展開した。
「数が多いが!」
西澤は攻撃空間で応戦しつつ近接してきた装甲肉弾兵に対して太刀を振るった。
装甲肉弾兵の打撃を躱しつつ、装甲の繋ぎ目の関節や首筋を狙って的確に斬り込んでいった。
武も自分に向かっている装甲肉弾兵の動きを自身の能力を使ってよく見ながら的確な反撃をした。
━━教えてもらった急所になら!
武が振りかざした刃は的確にその急所に斬り込む。
「ぐは!!!」
装甲肉弾兵が装甲の内側の身体を切られてたまらず倒れ込む。
━━やるな、物部学生。
その無線を聞いた武が見上げると飛び込んでくる影が見える。
「岩本少佐!」
岩本はすでに攻撃の態勢に入っていた。
稲妻のような光を帯びると瞬く間に急加速をして猪幡に迫った。
「うおっ!!!」
岩本が太刀で斬りつけたところを猪幡は前腕の装甲で防いだが、再び岩本の攻撃が襲う。
━━あんな地面スレスレを飛んで反復攻撃を……!
「く、くそが!」
防戦一方となった猪幡に対し砕晶は下唇を噛みながらも自分は動こうとしなかった。
──あのリーダーみたいなやつ、自分では戦わないのか?
さらにこの境界線空間への突入者が現れる。
武たちを襲う装甲肉弾兵が爆煙に包まれると誰が来たのか武は予想できた。
「武!」
「大丈夫か?!」
「ジョー! 赤松!」
突入してきた錠と赤松はすぐさま装甲肉弾兵に向かって攻撃を繰り出した。
さらに続々と特殊潜行班と戦闘機動隊も突入してきて形勢は傾き始めた。
──あの隙間なら……!
「え?! 武?!」
錠の目が装甲肉弾兵たちの間隙を走り抜ける武を捉えた。
武は一直線に三上の方へ向かった。
「三上! 大丈夫か!」
「武……」
「お前が工作員だろうがたとえ鬼だろうが、俺たちが一緒だった時間は本物だろ……!
今からでも俺と一緒に来て伊藤を助けよう!」
「……俺はお前を監視するために造られた人間だ」
「……え?」
「俺はイザナミノミコトに造られた人間だ。
五年前より前の人生はなく、お前を監視する人間としてイザナミノミコトに造られたそれだけの存在だ」
「そ、そんな! イザナミノミコトに?!」
武の脳裏にはイザナミに乗っ取られた一郎の姿が浮かんだ。
空気が変わる感覚がした。
──境界線空間が無くなったのか?!
「猪幡! 退くぞ!」
砕晶の言葉で上空から矢のような光が飛び込んでくる。
「伏せろ!!!」
誰かが大声で叫ぶとその場は再び衝撃波に襲われた。
そして今度は間髪を入れずに砕晶らの支援攻撃の雨が降り注いできた。
「隊長! 空挺部隊の強襲型飛行艇です!」
岩本は部下の指さす飛行艇のさらに先を見た。
「あの雲……!
攻撃はあそこからか!」
空から黄泉軍の飛行艇が降りてきてそのハッチが開いた。
「撤収だ!!!」
猪幡の号令が周囲に響く。
その場に伏せていた武が顔を上げると飛行艇に乗り込んでいく三上が見えた。
「三上!!!」
三上は振り返って武と目が合った。
二人は見合ったまま飛行艇のハッチが閉まっていく。
「三上ー!!!」
三上らを乗せた飛行艇は重力の乱れに抗いながら高度を上げていき、夜空の雲の中へ溶け込んでいった。
武は呆然とその雲を見つめていた。




