2-14 作戦予行
武たちが数時間の休息をとっても、相変わらずこの世界では陽が昇ることがなかった。
岩本たちの部隊や西澤の部隊が集結地としている建物内では、各員が出発の準備に取り掛かっていた。
武たち三人は、岩本隊の作戦予行の前に副長を務める藤井から羽張背の無線設定の説明を受けていた。
「これがこの世界で通信ができる規約になる。
無線系統はうちの部隊に入ってもらうぞ」
三人は羽張背の無線設定を行うと、作戦行動前に実施されるブリーフィングである作戦予行の場へ連れて行かれた。
そこには岩本以下総勢八名の戦闘機動隊が集まっており、さらに西澤たち局長直轄特殊潜行班の七名も姿を見せていた。
常夜の国の街並みを立体的なジオラマとして再現した砂盤が広げられていた。
街の全景を確認すると、武たちが歩いた地域と同じく低い建物ばかりで、高い建物でも二階建て程度の高さしかなかった。
「平面で再現しているが、本来は球体の模型を使いたいが……。
この砂盤の縦横の限界線は接線だと思ってくれ」
岩本は作戦参加者の全員が集まったことを確認すると、指揮棒で砂盤を示しながら説明を始めた。
「我の戦闘団の目的は、この世界の制圧であったが、現在は葦原の国からの転移者の保護が任務付与されており、新たに転移者の捜索を主任務とした特殊潜行班の捜索支援が与えられている」
岩本は地図上に第1空間戦闘団が展開している五つの戦闘機動群を示す駒を置き終えると再び説明を進める。
「哨戒と索敵は主要地域で完了しているが、完全な安全化はできておらず、街の各所で遭遇戦が偶発している。
現状は目視による転移者の捜索と敵拠点の発見を並行して行う計画である」
砂盤上には、この集結地以外にも複数の集結地が構築されていることが確認できた。
「西澤大尉。転移者捜索計画の概略説明を頼む」
岩本に促された西澤は砂盤へ近づき、作戦計画の説明を始めた。
「我々特殊潜行班は、橋頭堡からこの地域までの広域において、人物探知機で反応のあった建物への入室捜索を実施済みです。
この位置の作戦開始線より先の捜索においては第1空間戦闘団には、建物入室時の周囲警戒と敵勢力の排除をお願いします。
橋頭堡との異世界間通信によって判明しているこの世界での時間進行は、葦原の国の一日を基準にすると三時間です。
異世界転移の可能性がある行方不明者の中で最長の者は十日間経過しておりますが、たとえ敵勢力に拘束されていたとしても、生存の可能性は限りなく高いと考えています」
「それって高天原もそうだったの?」
錠が武に顔を近づけ、小声で聞いてきた。
「いや、高天原は日が落ちるまで十日間ぐらいかかっていたけど、時間の経過は同じだったんだ。
ここはそうではなくて、一日が長いというか……」
「それじゃあここは浦島太郎になっちゃうってこと……?」
武と錠は顔を見合わせたが答えは出ず、問答をやめて再び砂盤へ視線を戻した。
西澤は砂盤へ手を伸ばし、五個ある特殊潜行班の駒を配置した。
「建物周辺で戦闘が生起した場合、建物が破壊されるほどの攻撃にさらされるのであれば、捜索を一時中断し後方へ退避します」
西澤は建物への突入要領の説明を終えた。
異世界転移者の捜索作戦は、異なる任務を持つ部隊同士が統合され、連動して実施される作戦だった。
この場における階級上の最上級者は岩本であったが、ヤマト機関局長直轄部隊である特殊潜行班を率いる西澤は、局長からの直命を帯びており、この作戦において実質的な指揮権を有していた。
「学生隊に関しては、空間戦闘団の指揮下でお願いします」
「了解。
上空に展開する戦闘機動隊と特殊潜行班との伝令役を学生隊に担当させる。
戦闘機動隊の各員は引き続き高度維持を徹底せよ。
特に飛行中は、地表の高低差による制限高度への対応に注意するように」
一同が了解と応え、作戦予行は終了した。
武たちは自分たちの役割を理解し、気を引き締めながら副長の藤井に連れられて建物の屋上へ向かう。
特殊潜行班も作戦開始線までは飛行状態で移動するため、同じく屋上へ向かっていた。
その列の中から西澤が離れ、武のもとへ歩み寄ってきた。
「場合によっては、我々の方へ来てもらう。
その時はよろしく」
「僕がですか?」
「私の能力なので詳細は言えんでね」
薄く笑みを浮かべ、西澤は再び列へ戻っていった。
「よおおし! 学生隊!
隊長からあったように高度に気をつけろよ!」
「了解です!」
藤井に続いて三人が飛び立った。
高度を上げ過ぎないよう注意しながら、周囲へ警戒の目を向ける。
武たちの上空には、夜空の中を流れる雲が浮かんでいた。




