2-12 集結地での再会
見知らぬ街を彷徨う武と赤松の耳には、遠くから爆発音が届いていた。
「あの音、もしかしてジョーの?」
「かもしれん。
だが、この人気のない街に他の誰かもいると思っていいな」
再会してからあまり会話を交わしていなかった二人は、音のする方向へ早足で進み出した。
「謝るなよ」
「え?」
赤松は武の顔を見ずに言った。
「こうして来たのは、俺とジョーの意志なんだからな。
勝手に自分のせいだとか思わないでな」
「……ありがとう」
「お礼もいらないって」
赤松は武の方に顔を向けて言った。
急ぎながらも飛行状態になることなく進む二人は、曲がり角に差し掛かればお互いの視界の限界をカバーする位置どりをしながら進んで行った。
進んでいくと、遠くから聞き覚えのある飛行音が響いてきた。
「この音は……」
二人が足を止めた瞬間、その音は一気に接近した。
路地の塀をかすめるような低空飛行で、飛行状態の者たちが頭上を横切っていく。
「空間戦闘団か?!」
赤松が、その外衣の色を視認して声を上げた。
「ここに部隊が展開している……?」
通り過ぎた飛行音が再び近づいてくる。
今度は二人の頭上で減速すると、三人の隊員が二人の前へ降下した。
降り立った隊員の一人は、羽張背のバイザー越しでも誰かわかった。
岩本 和之少佐だった。
「い、岩本少佐」
「君は……」
岩本にも武の顔には見覚えがあった。
都内での鬼の掃討作戦で救援した学生。
そして、鬼塚一郎が創り出した世界を破壊した学生でもある。
「どうして学生隊の学生がこんなところに?」
共に降下した藤井が問いかけた。
「自分たちは、行方不明になっていた人物から送られてきた異世界に転移できる動画を教官に報告しようとした際に、誤って動画のサイトを開いてしまい、気づいたらここにいました」
武より先に赤松が答えた。
「他にその動画を見た者は?」
「もう一名います。
同じ学生隊で同室の者です」
「報告した相手は?」
「金鵄夢の島学院の松岡教官です」
赤松の報告を聞きながら、藤井は岩本と目を合わせた。
「我々と共に飛行状態で移動するぞ。
現在この空間では、建物の高さから十メートル以内の高度制限下で飛行を行っている。
決して我々より上昇するな」
「ここはやはり敵勢力下なのでしょうか?」
武が質問した。
「まだ断定はできない。
我々も完全には掌握できていない空間だ。
わかっていると思うが、境界線空間でもない。
そして一定高度以上へ上昇すると、理由は不明だが重力が乱れたような飛行困難状態になる」
武と赤松は緊張を覚えた。
飛行状態の経験はあるが、高度制限の飛行の訓練の経験はほとんどない。
「敵と会敵しない限り、そこまで速度は出さない。
もし会敵した場合は、私と菊田が応戦する。
君たちは副長の藤井に続行するように」
岩本は二人にそう指示すると飛行空間を展開して上昇した。
それに続くように菊田も上昇する。
「よし、先に上がれ」
藤井が二人を促した。
「了解です」
二人は急上昇を避けながら、塀の高さを越えるように上昇した。
藤井もそれに続き、五人は隊列を組む。
岩本を先頭に、そのまま移動を開始した。
武は慎重に飛行しながらも、先ほどの坂よりもさらに高い位置から街を俯瞰することができた。
━━静かで綺麗な街並みだ……。
武はその夜景を見て、そう思った。
五人は敵と会敵することなく、目的地へ到達した。
藤井が周囲を警戒しながら、二人へ降下を合図する。
地面へ降り立つと、改めて周囲を警戒してから建物の扉が開かれた。
建物内部は、この世界に展開するヤマト機関の一つの集結地となっていた。
見覚えのある物品や機材が並び、外衣を着た者たちが行き交っている。
「こっちへ」
さらに奥へ通されると、岩本を出迎える者が現れた。
「少佐。もう一人の学生はこちらです」
武と赤松は顔を見合わせた。
部屋の扉を開けると、そこには錠がいた。
「ジョー!」
「武! 赤松!」
ベッドに座っていた錠のもとへ、二人が駆け寄る。
「大丈夫だった?」
「なんとかね……ははは」
「怪我をしたのか」
「骨まではやられなかったし、外傷は回復してもらったよ」
三人の様子を見ながら、岩本へ部下が説明した。
「この学生は、行方不明となっていた人物から送られてきた異世界に転移できる動画を教官へ報告する際、誤って動画のサイトを開き、この空間へ転移したとのことです」
「この学生を保護したのは誰だ?」
「今、お呼びします」
錠は岩本に気づくと、小声で二人へ話しかけた。
「岩本少佐に連れてきてもらったの……?」
「そうだ。
しかも飛行状態で飛んでいた」
「じゃあ、ここはもうヤマト機関が展開してるの?」
「ヤマト機関だけではない」
三人の会話へ割って入るように、西澤が現れた。
「局長直轄潜行班か……」
岩本が西澤の格好を見て言った。
「局長直轄特殊潜行班の西澤大尉です」
「岩本少佐だ。
どうやらこの三人は同時にここへ来たようだな」
「そのようですね。
こちらの学生は、この橋頭堡を出て偵察中に保護しました。
その二人にも詳しく状況を聞きたいのですが……」
「そうだな。私も聞きたい」
岩本は武たちへ向き直った。
「さっきは移動を優先したため説明を省いたが、ここは葦原の国でも根の堅洲国でもない。
おそらく、新たに創り出された世界だと考えられている。
君たちがどうやってここへ来たのか、改めて聞かせてほしい」
武は、自分たちが異世界へ来たことを確信した。
だがその一方で、三上と伊藤が無事なのかという不安が頭をよぎっていた。




