2-1 戦闘空域
天空にたちこめる雲は、光に照らされて金色に輝いていた。
雲の内側を、鋭い一筋の音が切り裂いていく。
大きな雲の塊から、群青色の飛翔体が飛び出した。
ヤマト機関の戦術輸送機だった。
コックピットの強化ガラスの内側には、敵機の襲来を予期した緊張が走っている。
「直掩隊より連絡。
七時の方向の敵哨戒艇は速度を落とさず直進。
予定航路では追いつかれます」
「機長。
予定どおり右旋回すれば、確実に追いつかれますが……」
「駄目だ。
ここで右旋回に入らなければ、奴らに航路を悟られる」
「では、ここで迎撃を?」
「ああそうだ!
戦闘機動隊に迎撃に出てもらうぞ!」
機長は、機内と戦闘機動隊各員に繋がる無線を飛ばす。
「本機は攻撃隊を出撃させ次第、右旋回に入る。
直掩隊の二人は本機に戻り防衛。
戦闘機動隊の指揮は少佐に一任する」
──了解。
出撃する戦闘機動隊の長が応答した。
戦闘機動隊は空中戦闘機動において、
敵の輸送機や母艦を攻撃する攻撃隊、
飛行状態の敵兵の撃墜を主とする戦闘隊、
搭乗する輸送機や母艦を守る直掩隊に分かれる。
編成は二名で構成される分隊が最小単位で、
二個分隊で小隊編成となっていた。
進路を右へ切りそのまま直進する戦術輸送機に直掩隊が戻ってきた。
「直掩隊、戻りました!」
「もう帰ってきたのか!」
機長は、直掩隊の迅速な機動に思わず声を上げた。
戻ってきた二人の直掩隊員は、
戦術輸送機に随伴しながら、敵の襲来に備えている。
「さすがは頭号戦闘団……」
戦闘機動隊の展開の早さに、副長が思わず呟いた。
頭号戦闘団とは、精鋭第1空間戦闘団の別称である。
「敵哨戒艇は、本機に向けて二個編隊を出撃させています!
敵機は引き続き七時方向から直進。
本機は敵機の射線上に入ります!」
「構わない。このまま直進。
防壁を展開しろ。
巡洋艦の砲撃に比べれば、大したことはない」
「防壁、展開します」
輸送機の機体表面にエメラルドの光が走り、全体が瞬いた。
ヒイロガネで造られた機体であっても、
同じヒイロガネで造られた砲弾に耐え続けることはできない。
そのためククリの力を帯びる性質を利用し、防壁を形成する機能が備えられている。
「敵の射線上に入ります!」
哨戒艇は爆炎を上げながら砲門をピストンさせた。
撃ち出された弾丸は、飛行状態で飛ぶ鬼の攻撃隊を追い越し、輸送機へと迫る。
「本機へ砲弾来襲! 直撃します!」
砲弾が直撃しようとした瞬間、
直掩隊の一人が弾道へ飛び込み、防御空間を展開した。
防御空間が弾丸を弾き返す。
それは、機体防壁の消耗を防ぐために、超人が行う防御行動だった。
飛行状態で飛べる超人は単独で移動できるが、
戦術輸送機を守りながら前進するのが、ヤマト機関の戦術行動である。
さらにもう一人の直掩隊員が、次の直撃弾を防御空間で弾き返した。
「直撃弾排除!
哨戒艇、速度を維持したまま右旋回に入ります!」
哨戒艇は速度を消化しきれず、
搭載砲の旋回限界に達したところで進路を右へ切った。
このまま輸送機の前方を横切れば、自殺行為となる。
「我方の戦闘隊は、敵攻撃隊と交戦!
攻撃隊は敵哨戒艇へ近迫します!」
航路を修正し、再び艦載砲の射撃態勢に入ろうとする敵哨戒艇へ、
我方の攻撃隊が距離を詰めていく。
戦力差はあるが、敵味方とも本陣が攻撃隊に狙われる状況だった。
「さらに、もう一個の敵攻撃隊を五時方向に確認!」
「戦闘隊はもう一個の敵攻撃隊を交戦に巻き込めないのか?」
「戦闘隊との距離が離れています!」
重装備のもう一個の攻撃隊は、交戦を横目に輸送機へ迫ってくる。
だが機長は、この展開を指揮官が想定していないとは思っていなかった。
その登場を期待していたのだ。
「少佐! 捉えているのか!? 少佐!」
──捉えているぞ!!
雲の裂け目から鬼の攻撃隊に陽光が差し込んだ時、
稲妻が空を貫いた。
稲妻が通り過ぎた後、一鬼の鬼が落下していく。
「岩本少佐、敵攻撃隊と戦闘に突入!」
稲妻の正体は、岩本 和之少佐である。
岩本は急降下の後、瞬時に反転し急上昇した。
急降下と等しい速度の急上昇で、敵へと迫る。
「稲妻返しだ……」
副長は岩本の代名詞を口に出した。
鬼の攻撃隊は撃滅され、残る目標は哨戒艇のみとなる。
岩本は戦闘の決を与えるべく、攻撃隊へ無線を飛ばした。
「藤井、敵機を逃がすな」
──了解! 目標に近迫します!
攻撃隊の二名が、哨戒艇へ肉薄する。
「菊田!
防壁を破るぞ! 援護しろ!」
藤井の後方に回った菊田が、手持ち火器で支援射撃を行う。
哨戒艇の対空砲火を恐れることなく肉薄する藤井は、胸の前で手を構えた。
両掌の間に形成された攻撃空間は、エメラルド色に輝く。
哨戒艇を眼下に捉えた瞬間、それは光線となって放たれた。
光線は哨戒艇の防壁を突き破り、機体ごと貫通する。
「命中!」
哨戒艇は爆炎を上げながら高度を落とし、
雲に呑み込まれた後、爆発した。
──敵勢力の排除に成功。
各員の目視においても、敵影を確認できない。
「了解。
少佐、よくやってくれた。
帰投してくれ」
機長は戦闘機動隊に帰投を命じ、各員へ指示を出した。
「敵の目は潰した。
戦闘機動隊を収容次第、全速でこの空域を離脱する」
この空は、根の堅洲国の空だった。
百鬼連合国家の支配下にある空域を、
輸送機は危険を顧みず目的地に向かっていた。
また、この作戦に参加しているのは、彼らだけではない。
数機の戦術輸送機が、この危険な空を飛んでいた。
岩本たちを乗せた戦術輸送機は、再び大きな雲へと呑み込まれていく。
その後を追う者は、いなかった。




