2-2 輝かない勾玉
一郎による滅亡の危機から救われた葦原の国は、徐々に落ち着きを取り戻しつつあった。
東京の空に展開していた艦隊は、のごろ島に着陸し停泊するほか根の堅洲国へと帰投していった。
様々な憶測を生んでいたククリの力や超人の存在はもう一つの葦原の国の現出と空での戦いを目の当たりにしたことで葦原の国━━世界中の人々は否応なく現実として受け入れられていた。
依然として報道やワイドショーでは超人とククリの力、鬼、そしてヤマト機関が公表した世界の構造の話題で溢れている。
米国大統領は星条旗を靡かせる超人はいないのかと呼びかけたが、応じる者は現れなかった。
世間からの俗称だった新夢の島はヤマト機関に合わせておのごろ島へと改められだんだんに世間とヤマト機関の常識が重なり合って行った。
武たち学生隊はヤマト機関の掃討作戦における後方支援の任を解かれ元の学校生活へと戻っており、授業も再開されている。
今日。武は午後の授業を欠席していた。
武はヤマト機関の研究施設でタケミカヅチノカミの力の残留があるかどうかの検査を受けていた。
身体の確認のほか康彦から授かった勾玉と剣も調べられた。
検査を終え待機室で一人座っていると扉が静かに開いた。
入ってきたのは冨樫だった。
「冨樫局長……!」
武は反射的に立ち上がる。
「座ったままでいい」
冨樫は穏やかに言った。
「君の体を精査したがタケミカヅチノカミの力が残っている形跡は確認できなかった」
「……そうですか」
武には自覚があった。
一郎と対峙したあの時、体を迸った電気も満ちていたククリの力も戦いの終結と共に静かに消えていた。
高天原で授かった勾玉も今はただ翡翠の色の艶があるだけだった。
「先般の危機において君には過大な負担を背負わせた。
申し訳なく思っている」
冨樫はわずかに頭を下げた。
「そして未曾有の危機から葦原の国を救ってくれたことに、心から感謝したい」
その礼はヤマト機関の長としてだけではない。
一人の人間の礼でもあった。
武はその言葉を静かに受け止めた。
「これからどうしていきたいと思っているかな」
冨樫の声は押しつけがましさを含んでいなかった。
「君は鬼塚一郎君を救うためにヤマト機関へ来たのだね?」
「……はい」
武はうなずく。
「引き続き君を狙う存在はいるだろう」
冨樫は一拍置いて続けた。
「君の安全を考えればヤマト機関に所属し続けることが最善だと私は判断している。
そしてあの力を行使したのは君自身の意志だ。
その覚悟を持つ君にはぜひこの組織に力を貸してほしい」
武は一郎の言葉を思い出した。
── 俺はお前の選択を支持する。
その言葉は今も胸の奥で消えずに残っている。
「……一郎は言ってくれたんです。
僕がご先祖様の意志を継ぐことを支持すると。
それに僕にとってクラスメイトのみんなも大切です」
武には錠や赤松、瑛美や瑛理子、早奈美たちクラスメイトのことが思い浮かんだ。
特に瑛美と瑛理子の表情が鮮明に脳に映った。
「たとえ戦うことになっても頑張りたいんです」
冨樫はわずかに目を細めた。
「原始超人については聞いているね」
武の胸が一瞬だけ硬くなる。
「……はい。
一郎のことを教えてもらった時に」
「原始超人と名乗る人物に遭遇した場合は無闇な接触は避けてほしい。
その時は必ず私に連絡を」
武はその言葉を命令のように聞こえなかった。
──この人は俺の事を案じているのか?
「ありがとうございます」
武は素直に応じた。
冨樫は武の羽張背に直通コードを設定させ導通を確認すると静かに席を立った。
「引き続きよろしく頼む」
それだけを言い残し冨樫は部屋を後にした。
武は勾玉と剣を受け取ってから男子寮に戻ると自室には錠と赤松が待っていた。
「お、帰ってきたな」
「おかえり。
明日、街に行かない?」
「街って……おのごろ島の?」
「そう! まだちゃんと案内してなかったでしょ?」
「武が来てからずっと騒がしかったからな」
──そういえば休みに出かけるなんてここに来てから考えてなかったな。
「ありがとう案内してよ!」
「決まりだな」
三人は食堂と浴場に行く支度をし部屋を出る。
明日の予定を話しながら男子寮の廊下を歩いていった。
おのごろ島に戻った武にとって明日また何者かに狙われる可能性は消えていない。
高天原から授かった勾玉も今は静かに光を失っている。
それでも錠や赤松たちと過ごす時はその事実を忘れさせてくれた。




