↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
33/53

1-33 帰還 ― 第一章 完 ―


 世界中の誰もが見上げていた空の景色に浮かぶ世界の景色は雲が空に溶けていくように静かに消えていった。


 武と一郎(イザナミ)の戦いが終わったことが明らかとなった。


 空間母艦タケミカヅチの艦上作戦室では確認されていた膨大なククリの力が感知できなくなっていた。


 野澤がディスプレイに映し出される情報を確認した。


「もう一つの葦原の国が無くなった……」


「先生! では武は!?」


 錠が質問した。


「あの世界から還って来られるかどうかです」


 野澤は正確に錠に答えた。


 この場にいる者たちは知っている。

 この葦原の国━━世界の危機に立ち向かった勇者が誰であったのかを。

 そしてその勇者の帰還を待ち望んでいる。


 落ち着かない錠や赤松と対照的に瑛美と瑛理子は目を閉じてじっと手を合わせていた。


「南婆羅軍、黄泉路へ向けて後退します!」


 艦橋(ブリッジ)の観測員が報告する。


 艦上作戦室内には安堵の声が溢れた。


「物部 武の生体反応を確認せよ!」


 冨樫の指示が響いてからそれに続いて声を出す者はいなかった。


 「物部……無事なのか……?」


 熱くなりやすい松岡も静かにその姿が現れるのを待っていた。


 瑛理子が目を開いてはっきりと言った。


「還ってきたわ……!」


 続いて瑛美も目を開いて安心した表情が溢れた。


 二人は外へ出る出入り口に駆け出した。

 それに続いて錠と赤松、早奈美が走り出す。


 松岡がそれに反応すると冨樫と目が合って追うことをしなかった。


 

 瑛美と瑛理子が空に飛び上がると空の中に点が見えた。


 その点は次第に大きくなってくる。

 落下してくるものだった。


 徐々によく見えてくると黄褐色の外衣を身にまとっている人間だとわかった。


 「武君!」


 「武!!!」


 瑛美と瑛理子に続いて錠が叫んだ。

 二人に続いて錠たちも空へ飛び上がっていった。


「あ、あれ?

 武は意識がないのか!?」


「受け止めないと!」


 全身の力が抜けた武の体は頭から真っ逆さまに落ちていく。


 瑛美と瑛理子を追い抜いて錠と赤松が飛んで行って落下してくる武の体を受け止めた。


 武が意識を覚ますと錠たち五人に抱きかかえられていた。


「み、みんな……。

 それじゃあここはもう」


「そうよ!

 武君は帰って来たの!」


「おかえりなさい、武君!」


 瑛美と瑛理子の嬉し涙が瞳に溢れていた。


「武!やったね!

 世界を救ったんだ!」


「すごいよ! お前は!」


「武君が世界を救ったんだよ!」


 錠と赤松、早奈美は笑顔で武に言葉を送った。


 武は帰ってこられたことを確認できその表情にやっと(ゆる)みが生まれた。


「……ありがとう」


 空の中にいる少年少女たちには温かな陽の光が照らされていた。

 太陽さえも少年の帰還を祝福しているようだった。


 艦上作戦室から見ていた影康は号泣していた。

 松岡は生徒たちに遅れて飛んでいき、冨樫、野澤は子供たちの様子を見届けそれぞれの役目に戻っていった。



 その様子を高天原から康彦と白狼も祝福していた。


「やってくれたな、武坊は」


「武よ。よく我の意志を受け継いでくれた」


「良かった、良かった」


「神業による危機から救われた。

 これは紛れもなく芦原の国で起こった奇跡なのだ」


 康彦は武の勝利を喜びつつ険しさを含んだ目つきで西方の空を望んだ。



 空間母艦タケミカヅチの艦上作戦室が情報をリンクする先は、ヤマト機関の中央作戦室だけではなかった。



 葦原の国、アララト平野。


 以前におのごろ島で用いられていた技術によって外部から隠蔽された施設がこの地にも存在していた。


 ヤマト機関の中央作戦室から発せられた情報はここへもまた静かに集約されていた。


 宮殿のような造りをしたホールの内側には曲線を描く壁に沿うように八つの席が設えられている。


 その中央の席にひとりの男が席についていた。


 この場所でも葦原の国で起きた出来事のすべてが見届けられていた。


 別の席の方から女が男のもとへ歩み寄る。


「あの男の子はやり遂げたわね。ノア」


 男は拳で頬杖をついたまま視線を向けることなく応えた。


「やり切るとは思っていたよ。

 あの傲慢な男の子孫であり面構えもよく似ているからな」


「一郎が託した子だものね」


「一郎の選択は因果による結果に過ぎない」


 ノアと呼ばれている男は席を立ち外の景色が見える位置まで歩み出た。


 東の方角を見据えながら静かに言葉を続ける。


「あの少年が我々と相対するというのなら受けて立つまでだ。

 愛とまごころの姉妹神の転生を待ちわびる原始超人──者としてな」


 ノアはそう言って視線を外へ向けた。


 その先には葦原の国の地平線が静かに広がっている。


 原始超人と呼ばれる彼らが依拠する施設はアララト平野の奥深く天を衝くようにそびえ立つ高層施設だった。


 幾度となく言語の誕生を観測しその文明の興亡を見届け、人々が神を忘れようとも常にその世界を見下ろしてきた場所。


 その名は、バベルの塔と呼ばれていた。



 ヤマトコノカタ ― 第一章 完 ―


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。