1-31 激突
武を閉じ込めていた空間が、光に満ち、大きな音を立てて破れた。
爆裂音に、一郎は振り返る。
「お前……!!!
その空間を破ったのか?!」
武が閉じ込められていた空間から出てきた。
それは、一郎と戦う決意を固めたことを意味していた。
武の首にかかる勾玉が、ククリの力と同じエメラルド色に輝いている。
「これは一郎の意志でもある。
俺は、あなたを倒す!」
武は収納空間から、康彦から授かった剣を取り出した。
翡翠色の剣は、勾玉と呼応するようにエメラルドの輝きを放ち、
稲光を迸らせながら、その姿を神々しい剣へと変えていく。
康彦から授かった高天原の力は、ここに揃った。
「あのオトコの作った分際がぁぁぁ!!!」
一郎は激昂した。
その身体から、泥よりも濁り、漆黒よりも輝く光が迸る。
「仮にお前が、この鬼塚一郎と諸共、わたしを打ち滅ぼしたとしても、
この愚かな人間どもは、お前を崇めもしなければ、
お前のように使命を帯びて生きようともしない!
この鬼塚一郎よりも、葦原の国の愚か者どもを取るのか!!!」
「俺はそれでもみんなを助けたいんだ!!!
そして、かつてご先祖様は、
世界のみんなを滅ぼそうとした原始超人に、こう言ったんです!」
━━ならば、全ての人間を超人に導いてみせる、と!」
それは、武が高天原で康彦から聞かされた言葉だった。
かつて荒魂の優勢が世界を覆わんとした時代。
黙示録を行おうとする原始超人に対し、
康彦が人間側に立って言い放った決別の言葉。
その決意が、康彦をククリの力の極限へと押し上げた。
そして彼は、超人の肉体を失い、神となった。
それを武は聞かされていた。
「俺はその意志を継ぎます!!!」
それが、武の答えだった。
武は自分に科せられた宿命を受け入れ、
一郎の意志を汲み、
康彦の意志を継いだ。
全てを受け入れた武の身体から、エメラルドの光が迸る。
その姿は、黄泉の女王を前にしても引けを取らなかった。
「この世界の束ねるのはこのわたしだ!!!」
今、高天原と黄泉の意志と力が拮抗する。
二色の光が激突し、誰もいない世界の隅々にまで輝きを広げていった。
翡翠色と漆黒がぶつかり合う天空を、
葦原の国の人々はただ見上げていた。
人々は意味はわからずとも、本能で理解していた。
それが、二つの巨大な意志の衝突であることを。
空間母艦タケミカヅチの艦上作戦室でも、
一同は固唾を飲んで見守っていた。
「た、武殿はどうかにゃ……?」
影康は瑛美と瑛理子に確かめる。
「武君は、一郎さんの意思に応える、と。
そして、ご先祖様の意志を継ぐと言っています」
冨樫と野澤はぐっと瑛美の方を見た。
それに瑛理子が加える。
「ご先祖様は、かつて世界を滅ぼそうとした人たちに、
全ての人間を超人に導いてみせると言った。
武君は、その意志を受け継ぐ、と」
その言葉に全員が釘付けになる。
伝説の超人であり神となった物部 康彦。
その名は知られていても、その言葉を知る者はいなかった。
錠は衝撃を受けながらも、どこか腑に落ちた表情を浮かべていた。
赤松と早奈美は、武の決意を聞いてもなお、安心はできない。
頭上の空で黄泉の女王と対峙する武の身を案じていた。
「大丈夫。武は、必ず勝つよ」
錠が、二人を落ち着かせるように言う。
「そうだな……。武を信じよう」
空の輝きが一段と増した時、艦上作戦室内に感知音が鳴り響く。
「上空に見える空間から大規模なククリの力の反応があります!」
「世界を跨いで届いてきたのか……?
計測は?!」
野澤が計測員に確かめる。
「値を測定できず、中央作戦室でも測定を行っていますが……。
異常値です! 測定をできておりません!!」
「こ、これが神の御力なのか……」
野澤は映し出される情報に愕然した。
「武殿……。ご立派なのにゃ……!!
まさに康彦さまの意志を継ぐものなのにゃ!!!」
影康は、堪えきれず涙を流した。
瑛美と瑛理子もまた、瞳に涙を浮かべて、
力を込めて手を合わせた。
「ああ、神様……。
武君をお守りください……」
「武君……」
自身に課せられた宿命。
幼馴染の非情な決意の意志。
それらを越えようとする武を、
ただ祈ることしかできなかった。
両陣営の神の力を託された者同士による、
代理対決が、ついに始まった。




