1-3 神話のはじまり
はるか遠い昔のことです。
世界はまだ存在しておらず、神様も生まれていませんでした。
あるとき、金色よりも綺麗なエメラルド色に輝く、気の流れの和魂と、不気味に深い紫色に輝く、気の流れの荒魂、二色のエネルギーのような存在が現れました。
和魂と荒魂は混じり合い、やがて固まりとなって、ゆっくりと空間のようなものを創っていきました。
しかし、その固まりは一つになることができず、やがてお互いが反発しはじめます。
だんだんと大きくふくらみ、ついには上下へ二つに分かれてしまいました。
和魂はどんどんと昇っていき、天となりました。
荒魂は沈んでいき、地となりました。
天と地が生まれたとき、天の方には神々の住む世界、高天原が生まれました。
そしてそこに、アメノミナカヌシという神様が現れました。
その後、さらに四柱の神様が生まれ、この五柱は特別な神々とされました。
やがて、その中から、イザナギと、その妻であるイザナミという、二柱の夫婦神が生まれました。
高天原の神々は、この二柱に天を降りて、不完全な下の世界を整えるよう命じました。
イザナギとイザナミは、高天原から下界の芦原の国へと降り立ちました。
二柱は、世界の形を創るための国生みと、自然や現象、物質を司る神々を生み出す神生みを始めました。
こうして二柱は島々を生み、海の神、山の神をはじめとする自然の神々、そしてさまざまな現象や物質を司る神々を、次々と生んでいきました。
やがて、人間も生まれました。
しかし、あるとき悲劇が起こります。
イザナミが火の神を生んだときのことです。
イザナミはその際、体に深い火傷を負ってしまいました。
夫であるイザナギが必死に看病しましたが、その甲斐もなく、火傷が原因でイザナミは命を落としてしまったのです。
イザナギは深く嘆き悲しみました。
その悲しみを抑えることができず、ついには亡き妻を追って、死後の世界である黄泉の国へと赴きました。
黄泉の国には、イザナミが住む御殿がありました。
イザナギは御殿の門の前に立ち、声をかけます。
「美しい我が妻よ。
私とあなたが作る国は、まだ出来上がっていない。
一緒に帰ろう!」
すると、その呼びかけに応えるように、イザナミの声が返ってきました。
しかし、イザナミは門の外へ姿を現すことはなく、イザナギにこう告げました。
「私はもう、この世界から戻ることはできません。
ですが、あなたはこの世界へ、はるばる来てくださいました。
あなたの気持ちに応えて、芦原の国へ帰りたいと思います。
黄泉の神々と相談してまいりますので、
その間、決して御殿の中を覗かないと約束してください」
そう言い残し、イザナミは御殿の門を閉めました。
イザナギは言われたとおり、門の前で待ち続けました。
しかし、いくら待っても妻は戻ってきません。
ついに待ちきれなくなったイザナギは、禁を破り、御殿の中へ入ってしまいました。
御殿の中は真っ暗でした。
イザナギは一本の火を灯します。
その光の中で目にしたのは、姿が変わり、黄泉の国の神となったイザナミでした。
イザナミは、黄泉の国の女王となっていたのです。
驚いたイザナギは、思わず声を上げて逃げ出しました。
その姿を見られたイザナミは、怒りに満ちた声で叫びます。
「よくも、私に恥をかかせたな!」
イザナミは多くの魔物たち、黄泉軍を引き連れ、イザナギを追いかけました。
必死に逃げたイザナギは、黄泉の国と芦原の国の境にあたる黄泉比良坂へと辿り着きました。
そこでイザナギは、巨大な石を使って黄泉比良坂を塞ぎました。
こうして、イザナギとイザナミは、巨石を挟んで向かい合います。
イザナミは、石の向こうから叫びました。
「愛しい夫よ。
あなたがこのような仕打ちをするのであれば、
私はあなたの国の人々を、一日に千人殺してみせましょう。
人間たちは、永遠に生きることのできない宿命を持つのです!」
それに対し、イザナギは答えました。
「愛しき妻よ。
それならば私は、一日に千五百の産屋を建ててみせる!」
このとき、夫婦神は永久の決別をしました。
そして世界は、一日に必ず千人が死に、千五百人が生まれるものとなりました。
こうして人間は、寿命という死の宿命を持つようになったのです。
そしてイザナミは、人間を殺すために━━鬼を造りました。




