第15話 静かなる日常
薄曇りの空から、ぼんやりとした朝日が差し込む。
カイルはいつものように、頭をガシガシと掻きながら目を覚ました。
「……はぁ、酒が残ってやがる」
二日酔いの重い頭を抱えながら、布団から這い出す。
ふと耳を澄ますと、キッチンの方からトントンと包丁の音が聞こえてきた。
カイルは顔をしかめる。
──誰だ? と思ったが、すぐに思い出す。
「あぁ、リィナか……」
でも、どこか妙な違和感が残る。
昨日、何か話したような気がするけど……思い出せない。
「ま、どうでもいいか」
そう呟いて、ノソノソとベッドから立ち上がった。
テーブルに着くと、リィナがにこやかに振り返る。
「おはようございます、カイルさん!」
その明るい声に、カイルは思わず眉をひそめた。
「……お前、朝から元気だな。俺の頭が割れそうなのに、空気読めよ」
リィナはクスッと笑って、温かいスープを目の前に置く。
「二日酔いには塩分と水分ですよ。ちゃんと飲んでくださいね」
カイルはスプーンを手に取り、不満げに呟く。
「俺はお前のペットかよ」
でも、口に運んだスープは、確かに美味しかった。
思わず表情が緩む。
「……うまいじゃねぇか」
リィナは得意げに微笑む。
「ふふ、カイルさんのために頑張って作りましたから!」
カイルはわざとらしく鼻で笑う。
「お前、案外優秀な商品になりそうだな。高く売れそうだ」
リィナは一瞬だけムッとした顔をした後、すぐに笑顔で返す。
「じゃあ、もっと美味しいもの作れるように頑張ります!」
カイルはその返しに少し驚き、思わず苦笑した。
食後、カイルは仕事場へ向かう。
そこには修理途中の魔法具が散乱していた。
カイルは椅子に腰掛け、工具を手に取る。
けれど、ふと手を止めた。
「……あれ? ここに置いてた部品、どこいった?」
机の上を見渡すが、どうしても何かが欠けている気がする。
でも、何が足りないのかが思い出せない。
──いや、昨日は確かにここに……?
カイルは眉をひそめ、頭を掻く。
「ま、どうでもいいか」
適当に誤魔化して、別の作業に取りかかった。
夕方、リィナがコートを持ってきた。
その手には、丁寧に畳まれた布がある。
「カイルさん、外は寒いですよ。これ、持っていってください」
カイルは少し驚きながらも、わざとぶっきらぼうに答える。
「おいおい、俺はお前の子供じゃねぇぞ」
リィナはくすっと笑いながら、コートを差し出す。
「子供みたいな顔してるからですよ」
カイルは思わず吹き出した。
「お前、生意気になったな」
でも、そのやり取りの中で、ふと小さな違和感が胸をかすめる。
──何か忘れてる気がする。
でも、すぐに打ち消す。
「ま、どうでもいいか」
カイルは酒場でグラスを傾けながら、ぼんやりと考える。
人々の喧騒の中、微かに虚無感が胸に残る。
「……なんか、忘れてる気がすんだよな」
誰かの顔。誰かとの会話。
でも、霧がかかったように思い出せない。
カイルはため息をつき、もう一杯酒を注文する。
「ま、どうでもいいか」
再び、飄々とした顔でグラスを空にした。
翌朝、カイルが目を覚ますと、リィナが明るく出迎える。
「おはようございます、カイルさん!」
その朗らかな声に、カイルは思わず顔をしかめた。
「……お前、朝から元気すぎだろ。俺の頭が痛えんだよ」
リィナはニコニコと笑いながら、温かいスープを差し出す。
「二日酔いにはこれですよ!」
カイルはスプーンを口に運び、ふと尋ねる。
「おい、お前、昨日何してた?」
リィナは少し考えてから、にこやかに答える。
「……カイルさんの帰りを待っていました」
その言葉に、カイルは一瞬だけ手を止めた。
でも、すぐに飄々とした笑顔を作る。
「お前、暇なんだな」
──それでも、心の奥に小さな違和感が残ったまま。
カイルはそれを気にせず、スープを啜り続けた。
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