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魔王が滅ぶその日まで  作者: 伏見稲荷


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第四章 競売前夜

「今日は仕事はお休みだ。」


朝食を終えた頃、管理人が共同生活棟に集まった皆へ告げた。


子どもたちの間から小さな歓声が上がる。


「本当ですか!」


フィオナが真っ先に声を上げる。


「本当だ。」


管理人は小さく笑った。


「今日は全員、身体を清めてもらう。髪も整える。新しい服も支給される。」


「やったー!」


フィオナは飛び跳ねるように喜んだ。


隣のララも驚いたように目を丸くしている。


「新しい服……?」


「楽しみだね!」


フィオナが笑うと、ララも小さく微笑んだ。


「うん。」


⸻


午前中は入浴だった。


大きな浴場には湯気が立ち込め、久しぶりに張られた湯へ子どもたちが次々と入っていく。


「気持ちいい!」


フィオナは肩まで浸かり、大きく息を吐いた。


「ララもおいで!」


「う、うん。」


最初は遠慮していたララも、そっと湯船へ入る。


「……あったかい。」


その一言に、フィオナは嬉しそうに笑った。


「ね!」


二人は顔を見合わせて笑い合う。


浴場のあちこちからも笑い声が聞こえていた。


今日だけは、皆どこか浮かれている。


⸻


風呂を上がると、今度は髪を整えてもらう番だった。


長く伸びた髪を丁寧に梳かし、絡まった毛先を少しだけ切り揃える。


フィオナは少しくすぐったそうに笑っていた。


「じっとしてなさい。」


「はーい。」


「終わったわよ。」


「ありがとう!」


鏡を覗き込む。


「わぁ!」


髪がさらさらになっている。


「なんだか大人っぽい!」


その言葉に周囲の大人たちが笑った。


⸻


「ララ、終わった?」


振り向いたフィオナは思わず言葉を失った。


「……きれい。」


淡い茶色の髪は艶やかに整えられ、白い肌はいっそう透き通って見える。


まるで物語の中のお姫様のようだった。


「そ、そんなことないよ。」


ララは恥ずかしそうに俯く。


「あるよ!」


フィオナは何度も頷いた。


「すっごくきれい!」


その真っ直ぐな言葉に、ララの頬が少しだけ赤く染まる。


「ありがとう。」


⸻


午後になると、一人ひとりへ新しい服が配られた。


質素ではあるが、今まで着ていた服よりずっと綺麗だった。


「似合う?」


フィオナがくるりと一回転する。


「うん。」


ララも笑う。


「フィオナらしい。」


「ララも!」


「ほんと?」


「うん!」


フィオナは満面の笑みで答えた。


「すっごく似合ってる!」


ララは照れながら、小さく裾を摘まんだ。


⸻


夕食は、いつもより少しだけ豪華だった。


温かなスープ。


焼きたてのパン。


少しだけ大きなお肉。


子どもたちは皆、嬉しそうに笑っている。


「今日はいい日だね。」


フィオナがそう言うと、向かいに座る老人は少しだけ目を細めた。


「そうだな。」


その笑顔は優しかった。


けれど、どこか寂しそうでもあった。


⸻


夜。


寝台へ入ったフィオナは隣を見る。


ララも静かに横になっていた。


「ララ。」


「なに?」


「明日はどんな一日になるかな。」


ララは少し考えてから答える。


「今日みたいに、いい日だといいね。」


「うん。」


フィオナは嬉しそうに微笑んだ。


「きっとそうなるよ。」


消灯の鐘が鳴る。


共同生活棟は静かな眠りに包まれた。


誰もが明日を迎える。


それぞれの運命を知らないまま。


明日、この街では三年に一度の競売が始まる。

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