第五章 競売
三年に一度。
その日がやってきた。
まだ朝日が昇りきらない頃、奴隷管理都市アダー・ブロは普段とは違う賑わいを見せていた。
街の外には何十台もの馬車が並び、見慣れない人々が正門をくぐっていく。
共同生活棟でも、静かな朝を迎えていた。
昨日支給された服へ着替えたフィオナは、何度も襟元を整えている。
「落ち着かない?」
ララが小さく笑った。
「少しだけ。」
フィオナも照れ笑いを返す。
「ララも?」
「うん。」
二人は顔を見合わせ、自然と笑みがこぼれた。
⸻
「整列。」
管理人の声で、共同生活棟の全員が外へ並ぶ。
子どもも、大人も。
今日、競売の対象となる者たちが一列になって歩き始めた。
昨日まで自分たちで飾り付けをしていた建物が、今日の会場だった。
入口の前まで来ると、係員が一人ずつ中へ案内していく。
フィオナたちは会場の裏手にある控室へ通された。
そこには他の共同生活棟から来た奴隷たちも集まっていた。
年齢も性別もさまざまだ。
部屋に窓はなく、外の様子は見えない。
聞こえてくるのは、人々の話し声と、遠くから響く司会者の声だけだった。
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「競売番号一。」
部屋の空気が少しだけ張り詰める。
番号を呼ばれた男性が立ち上がる。
「行ってきます。」
「いってらっしゃい。」
自然なやり取りだった。
まるで仕事へ向かうような雰囲気に、フィオナは少し驚く。
「みんな、落ち着いてるね。」
小さく呟くと、近くに座っていた女性が微笑んだ。
「最初は誰でも緊張するものよ。」
「でも、そのうち慣れるわ。」
その言葉に、フィオナは少しだけ不思議そうな顔をした。
⸻
番号は順番に呼ばれていく。
部屋を出て行く人。
戻ってくる人。
その繰り返しだった。
戻ってきた人たちは特に何も語らない。
静かに席へ戻り、水を飲み、次の番号が呼ばれるのを待っている。
その落ち着いた空気が、かえってフィオナの緊張を和らげていた。
⸻
「競売番号三十二。」
フィオナは勢いよく立ち上がる。
「行ってきます!」
ララが優しく微笑む。
「いってらっしゃい。」
係員に案内され、会場へ入る。
広い。
それが最初の印象だった。
高い天井。
整然と並ぶ椅子。
その先には、多くの人影が見える。
壇上へ案内されると、司会者が査定書を開いた。
「競売番号三十二。」
「フィオナ。」
「八歳。」
「人間。」
「査定結果は、お手元の資料をご確認ください。」
その一言で競りが始まる。
フィオナには何が起きているのか分からない。
時折、札が上がる。
静かな時間が流れたあと、司会者が木槌を鳴らした。
「落札。」
それだけだった。
係員に案内され、控室へ戻る。
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「おかえり。」
ララが安心したように笑う。
「ただいま。」
「どうだった?」
「思ってたより、すぐ終わったよ。」
フィオナは肩の力を抜いた。
「なんだか、あっという間だった。」
ララも少し安心したように頷く。
その時だった。
「競売番号三十三。」
ララの番号が呼ばれる。
「行ってくるね。」
「うん!」
フィオナは笑顔で手を振った。
⸻
夕方。
最後の番号が呼ばれ、競売は終了した。
管理人が控室へ姿を現す。
「本日の競売は終了。」
「全員、共同生活棟へ戻る。」
「出発者と行き先は、明朝伝える。」
それだけ告げると、管理人は部屋を出ていった。
共同生活棟への帰り道。
夕日に照らされながら、フィオナとララは並んで歩く。
「終わったね。」
「うん。」
「明日には、新しい生活が始まるんだね。」
ララがぽつりと呟く。
フィオナは空を見上げて笑った。
「きっと、大丈夫。」
その言葉に、ララも小さく笑う。
二人の影は、まだ隣同士だった。




