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魔王が滅ぶその日まで  作者: 伏見稲荷


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第二章 同じ空の下

翌朝。


共同生活棟には、いつもより少しだけ慌ただしい空気が流れていた。


「今日は競売会場の設営を行う!」


管理人の大きな声が建物いっぱいに響く。


「年長組は舞台の組み立て。子どもたちは椅子運びと飾り付けを担当だ。怪我だけはするなよ。」


「はーい!」


真っ先に返事をしたのはフィオナだった。


「相変わらず元気だな。」


近くで荷物をまとめていた老人が笑う。


「朝からその声を聞くと、一日が始まる気がするよ。」


「えへへ。」


照れ笑いを浮かべると、建物のあちこちから笑い声が起こった。


母親も優しく微笑んでいる。


「行ってらっしゃい。」


「うん、行ってきます!」


⸻


街の中央広場では、すでに大人たちが忙しく動き回っていた。


大きな木材が運ばれ、舞台が組み上がっていく。


赤い布が広げられ、椅子が次々と並べられていく。


フィオナはきょろきょろと辺りを見回した。


「フィオナ。」


管理人が声を掛ける。


「今日は第三棟の子と一緒に作業してもらう。」


「分かりました!」


すると、一人の女の子がゆっくりと歩いてきた。


肩まで伸びた淡い茶色の髪。


白い肌。


整った顔立ち。


同じ子どもとは思えないほど綺麗な子だった。


その一方で、どこか人と目を合わせるのが苦手そうな雰囲気もあった。


「よろしくね。」


フィオナが笑いかける。


女の子は小さく頭を下げた。


「……よろしく。」


⸻


最初の仕事は椅子運びだった。


「せーの!」


二人で持ち上げる。


思った以上に重く、椅子がぐらりと傾いた。


「あっ!」


「ご、ごめんなさい!」


女の子が慌てて謝る。


フィオナは首を振った。


「違う違う! 私も力入れすぎちゃった!」


そう言って笑うと、女の子も少しだけ笑った。


その笑顔は、朝日よりも柔らかかった。


⸻


何往復かした頃。


フィオナは思い出したように口を開く。


「そういえば!」


「?」


「名前、聞いてなかった!」


女の子は少しだけ考えてから答えた。


「……ララ。」


「ララ!」


フィオナは嬉しそうに繰り返す。


「私はフィオナ!」


「知ってる。」


「え?」


「いつも笑ってるから。」


フィオナは照れくさそうに頭を掻いた。


「そんなに笑ってるかな?」


ララは小さく頷く。


「うん。」


「見てると安心する。」


フィオナは少しだけ顔を赤くした。


「それなら嬉しい!」


⸻


昼休み。


二人は建物の影に腰を下ろした。


配られた黒パンを手に取る。


フィオナは自分のパンを見て、それからララの方を見た。


「ねぇ。」


「?」


「一緒に食べよう!」


ララは少し驚く。


「……いいの?」


「もちろん!」


フィオナは笑ってパンを半分に割った。


「一人で食べるより、美味しいもん。」


ララは少しだけ迷ってから受け取る。


「ありがとう。」


しばらく二人は静かにパンを食べた。


風が心地よく吹き抜ける。


「ララって、あんまり話さないんだね。」


ララは苦笑した。


「人と話すの、少し苦手だから。」


「そうなんだ。」


「でも……。」


ララは少し照れながら続ける。


「フィオナとは話しやすい。」


フィオナは嬉しそうに笑った。


「じゃあ、今日からいっぱい話そう!」


ララも小さく笑う。


「……うん。」


その返事は、朝よりもずっと自然だった。


⸻


午後の仕事も二人は一緒だった。


赤い布を真っ直ぐ敷き。


花を飾り。


床を磨く。


途中で何度も笑い合った。


「フィオナは疲れないの?」


「疲れるよ!」


「え?」


「でも楽しいと、疲れたこと忘れちゃう!」


ララは少し考えてから言った。


「……なんだか、フィオナらしい。」


⸻


夕方。


設営を終えた会場は、朝とは見違えるほど立派になっていた。


舞台の上には赤い布。


整然と並ぶ椅子。


夕日に照らされ、会場全体が金色に輝いている。


「すごい……。」


ララが小さく呟く。


「うん!」


フィオナは満足そうに頷いた。


「みんなで作ったんだもん!」


その言葉にララも微笑む。


「また一緒にお仕事できるといいね。」


「うん!」


フィオナは小指を差し出した。


「約束!」


ララは少しだけ戸惑う。


「これ、なに?」


「約束するときにやるんだよ!」


ララは笑って小指を絡めた。


「約束。」


⸻


帰り道。


二人は並んで歩いていた。


ふと同じタイミングで空を見上げる。


茜色に染まった空は、どこまでも広がっていた。


「ねぇ、ララ。」


「なに?」


「空って、どこまで続いてるんだろう。」


ララも空を見上げる。


「海までかな。」


「海?」


「おばあちゃんが昔、話してくれたの。」


「空と海が繋がって見える場所があるんだって。」


フィオナの目が輝く。


「見てみたい!」


「私も。」


二人は顔を見合わせて笑った。


同じ景色を見て。


同じ夢を語って。


同じ空を見上げる。


この日。


二人は、同じ空の下で笑っていた。


その空が、明日も変わらず続くものだと信じながら。

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