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魔王が滅ぶその日まで  作者: 伏見稲荷


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第十五章 眠れる資質

 翌朝。


 窓から差し込む朝日が部屋を優しく照らしていた。


 フィオナは静かに人差し指を立てる。


「――理よ。

 我が道を照らせ。

 集光せよ。」


 ぽっ。


 指先に、小さな光が灯る。


 昨日とは違う。


 迷いなく生まれたその光は、穏やかに揺れながら部屋を照らしていた。


「うん。」


 アレフは満足そうに頷く。


「もう十分に安定している。」


 その言葉に、フィオナは嬉しそうに笑った。


「今日は昨日の続きをしよう。」


 机の上へ数冊の本が並べられる。


「一般魔法は生活の中で使われる魔法だ。派手さはないが、使えれば必ず役に立つ。」


「はい!」


 元気よく返事をすると、フィオナは今日も魔法の練習を始めた。


 《点火》でろうそくへ火を灯し、《浄水》で桶の水を澄ませる。


 《清掃》では力加減を誤り、机の埃を勢いよく舞い上げてしまった。


「けほっ、けほっ……!」


 思わず咳き込むフィオナを見て、アレフは小さく笑う。


「焦らなくていい。魔法は力よりも丁寧さだ。」


「もう一回、やってみます!」


 二度目は風が穏やかに流れ、埃だけが静かに集まり、窓の外へと流れていった。


「できました!」


「うん、今度は上出来だ。」


 その後も、《乾燥》で濡れた布を乾かし、《回収》では机の端に置かれた本をゆっくりと手元へ引き寄せる。


 本は少しだけ揺れながらも、フィオナの両手へ収まった。


 思わず抱きしめるように本を持つ。


 昨日まで出来なかったことが、今日は出来る。


 それだけで胸が弾んだ。


 気が付けば、窓の外では太陽が高く昇っていた。


 アレフは本を閉じる。


「一般魔法は、このくらいで十分だろう。」


 フィオナは少し名残惜しそうに顔を上げる。


「もう終わりですか?」


「生活する上では困らないくらいには覚えられた。」


 アレフは穏やかに笑った。


「ここから先は、属性魔法になる。」


「属性魔法……?」


「その前に、君自身の適性を調べてみよう。」


 そう言うと、棚から小さな木箱を取り出した。


 蓋を開けると、中には掌ほどの透明な水晶が収められている。


「魔法には七つの属性がある。


 火、水、風、地、木、光、闇。


 人はそれぞれ、得意とする属性を持って生まれる。」


 フィオナは興味深そうに水晶を見つめた。


「この水晶が、その適性を映してくれる。」


 アレフは机の中央へ水晶を置く。


「手を乗せてごらん。」


 フィオナは小さく息を吸い、水晶へそっと手を添えた。


「力は入れなくていい。」


 言われた通り、肩の力を抜く。


 すると――


 水晶が柔らかな白い光を放ち始めた。


「……光属性か。」


 アレフは静かに頷く。


 だが。


 白い光は消えない。


 ゆっくりと。


 本当にゆっくりと。


 白い輝きの中へ、墨を一滴落としたように黒い光が混ざり始めた。


「……あれ?」


 フィオナは首をかしげる。


 白と黒。


 二つの光は互いを消すことなく、水晶の中で静かに揺れている。


 部屋には沈黙だけが流れた。


 アレフは水晶を見つめたまま、小さく息を吐く。


「……何かあるとは思っていた。」


 静かな声だった。


「だが、この結果は予想していなかった。」


 フィオナは水晶と自分の手を交互に見つめる。


「そんなに珍しいんですか?」


 アレフは答えなかった。


 しばらく水晶を見つめたあと、静かに布へ包み直す。


「……その話は明日にしよう。」


 いつもの落ち着いた声だった。


 けれど、どこか迷いが混じっているようにも聞こえた。


 フィオナは何が起きたのか分からないまま、小さく頷く。


「はい。」


 その返事を聞き、アレフはもう一度だけ布に包まれた水晶へ視線を落とした。


 その表情には、驚きと、ほんの少しの戸惑いが浮かんでいた。

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