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魔王が滅ぶその日まで  作者: 伏見稲荷


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第十章 新しい日常

 朝日が窓から差し込む。


 眩しさに、フィオナはゆっくりと目を開けた。


 見慣れない天井。


 昨日、この屋敷へ来たことを思い出す。


 体を起こすと、同じ部屋では数人の女性が既に支度を始めていた。


「起きた?」


 穏やかな声だった。


 振り向くと、一人の女性が立っている。


 長い白い髪。


 白い瞳。


 落ち着いた雰囲気をまとっていた。


「あなた、名前は?」


「……フィオナ。」


「フィオナね。」


 女性は小さく頷く。


「私はエル。この屋敷のメイド長よ。」


「今日から仕事を教えるわ。」


 フィオナも慌てて頭を下げた。


「よ、よろしくお願いします。」


「ええ、よろしく。」


 それだけ言うと、エルは部屋を出た。


「まずは朝食にしましょう。」


 フィオナはその後を追いかける。


◇


 食堂には、既に何人もの奴隷が集まっていた。


 誰もが静かに席へ着き、朝食を食べている。


 パンと温かいスープ。


 決して豪華ではない。


 けれど、十分な量だった。


「いただきます。」


 周囲に合わせ、フィオナも小さく口にした。


 食事が終わると、エルが声を掛ける。


「今日は屋敷を案内しながら、仕事を覚えてもらうわ。」


「難しいことはないから安心して。」


「……はい。」


◇


 広い廊下を歩く。


 窓から差し込む光が床を照らしていた。


「ここは毎日掃除をする場所よ。」


 エルは棚の上を軽く指でなぞる。


「埃は少しでも残さないようにね。」


「はい。」


 フィオナは頷く。


 今まで覚えてきた仕事と、大きくは変わらない。


 だから少しだけ安心した。


◇


 廊下を歩いていると、一人の女性が向こうから歩いてきた。


 長い耳。


 白い肌。


 柔らかな緑色の服をまとっている。


 エルは立ち止まった。


「おはようございます。」


 女性は小さく微笑む。


「おはよう。」


 それからフィオナを見る。


「あなたも、おはよう。」


 突然声を掛けられ、フィオナは少し慌てた。


「お、おはようございます。」


「ええ、おはよう。」


 女性は微笑んだまま歩いていく。


 その姿が見えなくなってから、エルは再び歩き始めた。


「行きましょう。」


「……はい。」


◇


 書庫の前を掃除していると、奥から足音が聞こえた。


 顔を上げる。


 少女だった。


 フィオナよりずっと年上に見える。


 普通の腕で数冊の本を抱え、背中から伸びた二本の腕でも本を支えていた。


(腕が……四本。)


 思わず見つめてしまう。


 少女もフィオナに気付いた。


「あ、新しい子?」


「……はい。」


「私はワノリ。」


 そう言って笑う。


「よろしくね。」


「……よろしく、お願いします。」


「うん。」


 ワノリは四本の腕で器用に本を抱え直すと、そのまま廊下の奥へ歩いていった。


 フィオナはしばらく、その後ろ姿を見送っていた。


「フィオナ。」


 エルに呼ばれ、慌てて我に返る。


「はい。」


「続きをしましょう。」


「はい。」


◇


 一日の仕事が終わる頃には、日が傾いていた。


 掃除道具を片付けようとした時だった。


 廊下の先の扉が開く。


 昨日会った男が姿を見せた。


 男はフィオナを見る。


「フィオナ……だったか。」


「……はい。」


「明日、時間ができたら研究室へ来なさい。」


「……はい。」


 男はそれだけ言うと、踵を返して部屋へ戻っていった。


 扉が静かに閉まる。


 フィオナはその扉を見つめた。


(研究室……。)


 何をする場所なのか。


 まだ、何も知らなかった。

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