第八章 分かれ道(後編)
王国へ入って数日。
荷馬車は街道の途中でゆっくりと止まった。
護衛たちは荷台の前へ集まり、一枚の紙を広げる。
それを見ると、奴隷たちは自然と口数が少なくなった。
また、誰かが買い手のもとへ向かう時間だった。
旅が始まってから、何度も繰り返されてきた光景。
番号を呼ばれた者は荷馬車を降り、迎えに来た馬車へ乗り込む。
見送ることには慣れていた。
――そう思っていた。
今日は、その出来事がフィオナのすぐ隣までやってきた。
護衛が紙へ目を落とす。
「一五九二。」
ララが小さく息をのんだ。
「……はい。」
護衛に促され、ララは立ち上がる。
そのときだけ、フィオナの方を向いた。
「フィオナ。」
小さな声だった。
「また会おうね。」
フィオナは何度も頷く。
「うん。」
二人はそっと小指を差し出した。
指先が触れ合う。
「約束。」
その一言だけ交わす。
「早くしろ。」
護衛の低い声が飛ぶ。
二人は慌てて小指を離した。
ララは荷馬車を降りる。
迎えの馬車へ向かう途中、一度だけ振り返る。
小さく笑って手を振った。
フィオナも胸の前で小さく手を振り返す。
ガタン。
馬車の扉が閉まる。
ゆっくりと馬車は街道の先へ進んでいく。
フィオナは見えなくなるまで、その馬車を見つめ続けた。
右手の小指を、そっと握る。
まだ少しだけ、ララの温もりが残っている気がした。
「二一八四。」
護衛の声が響く。
フィオナははっと顔を上げる。
「座れ。」
「……はい。」
荷馬車は再びゆっくりと動き始めた。
フィオナはララが消えた街道を、もう一度だけ見つめる。
(また会えるよね。)
その願いだけを胸に抱いて。




