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魔王が滅ぶその日まで  作者: 伏見稲荷


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第八章 分かれ道(中編)

 重い門をくぐると、景色はゆっくりと姿を変えていった。


 岩山は少しずつ遠ざかり、代わりに広い草原が目の前へ広がる。


 風が草を揺らし、青い波のように一面を駆け抜けていく。


「きれい……。」


 思わずフィオナの口から言葉が漏れた。


 遠くには小さな村が見える。


 白い煙が屋根の上へゆっくりと昇っていた。


 畑では何人もの人が畑を耕し、道端では子どもたちが楽しそうに走り回っている。


 その後ろを、小さな犬が懸命に追いかけていた。


 ララが小さく笑う。


「あの子、転びそう。」


 ちょうどその時だった。


 子どもが石につまずき、前へ転ぶ。


「あっ。」


 二人が同時に声を上げた。


 だが子どもはすぐに立ち上がり、土を払うと何事もなかったようにまた走り始めた。


 犬も嬉しそうに後を追いかける。


「よかった。」


 フィオナは胸を撫で下ろした。


「うん。」


 ララも安心したように笑う。


 荷馬車は村の横をゆっくりと通り過ぎていく。


 道端で遊んでいた子どもたちが、荷馬車へ気付いて手を振った。


 フィオナは驚きながらも、小さく手を振り返す。


 子どもたちは嬉しそうに笑った。


 その笑顔を見て、フィオナも自然と笑顔になる。


◇


 昼を過ぎる頃、一行は街道脇で休憩を取ることになった。


 護衛たちは馬に水を飲ませ、それぞれ腰を下ろして休み始める。


 奴隷たちも順番に水を受け取り、少しだけ体を休めていた。


 フィオナとララは並んで木陰へ座る。


 吹き抜ける風が心地よかった。


「王国って広いね。」


 ララが空を見上げながら言う。


「うん。」


 フィオナも同じ空を見上げる。


 青い空には白い雲がゆっくり流れていた。


 しばらく二人は黙ったまま空を眺める。


 静かな時間だった。


「ねぇ、フィオナ。」


「なに?」


「これから、どんな人のところへ行くんだろう。」


 その問いに、フィオナは少し考える。


「分からない。」


「……だよね。」


 ララは苦笑した。


「でも。」


 フィオナが続ける。


「優しい人だといいね。」


「うん。」


「ララも。」


「フィオナも。」


 二人は顔を見合わせる。


 そして、どちらからともなく笑った。


◇


 休憩を終えた荷馬車は再び街道を進み始めた。


 夕方になるにつれ、空は少しずつ赤く染まっていく。


 揺れる荷馬車の中で、ララがぽつりと呟いた。


「ずっと一緒だったね。」


 フィオナは頷く。


「うん。」


「最初は怖かった。」


「私も。」


「でも、フィオナがいたから頑張れた。」


 フィオナは少し照れくさそうに笑う。


「私も、ララがいたから。」


 二人はそれ以上何も言わなかった。


 言葉がなくても、不思議と気まずくはない。


 荷馬車は静かに揺れ続ける。


 その時間が、ずっと続けばいいと願うように。


 しかし、その願いとは裏腹に、馬車は少しずつ目的地へ近づいていた。


(第八章・後編へ続く)

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