第八章 分かれ道(前編)
朝日が山の向こうから顔を出し始める頃、一行は野営地を出発した。
昨夜の焚き火の跡からは、まだ白い煙が細く立ち上っている。
荷馬車がゆっくりと動き始めると、車輪が土を踏みしめる音が静かな街道に響いた。
フィオナは小さな窓から外を眺める。
昨日と同じように見える景色も、少しずつ姿を変えていた。
木々は少なくなり、背の高い岩山が増えていく。
道幅も広くなった。
しばらく進むと、馬車の速度がゆっくり落ちる。
前のほうから護衛たちの声が聞こえた。
「止まれ。」
荷馬車が止まる。
フィオナは窓から外を覗き込み、思わず目を丸くした。
「大きい……。」
目の前には、高い石壁に囲まれた門がそびえ立っていた。
見上げても、すぐには門の上まで見えない。
風に揺れる旗。
そこには、固く握られた拳が描かれていた。
「すごい門だね。」
隣でララが小さく呟く。
「うん。」
フィオナは頷くことしかできなかった。
護衛たちは馬を降り、門の前へ歩いていく。
鎧を着た兵士たちが一人ずつ荷馬車を確認していた。
しばらく待つと、護衛の一人が戻ってくる。
「出発。」
その声とともに、重たい門がゆっくりと開いた。
ギギギ……。
低い音を響かせながら開く門をくぐり、荷馬車は再び動き出す。
◇
門を越えたあとも、街道は真っすぐ続いていた。
遠くから、金属を打つ音が聞こえてくる。
カン。
カン。
カン。
一定の音が、風に乗って響いていた。
街へ近づくにつれ、その音は少しずつ大きくなる。
街道沿いでは、大きな建物の前に赤く燃える炉が見えた。
火花が空へ舞う。
「わぁ……。」
ララが思わず声を漏らす。
職人たちは大きな槌を振り下ろし、真っ赤な鉄を何度も叩いていた。
街を歩く人たちも、腰に剣を下げている人が多い。
それでも誰かが争っている様子はない。
荷馬車はそのまま街の中を通り過ぎていく。
「いろんなところがあるね。」
ララがぽつりと言う。
フィオナは静かに頷いた。
「うん。」
それ以上の言葉は出なかった。
初めて見る景色ばかりで、何を話せばいいのか分からなかった。
ただ、二人は夢中になって窓の外を見続けた。
◇
数日後。
再び馬車が止まった。
フィオナは窓から外を覗く。
今度見えた門は、前よりも少し明るく見えた。
門の上では、一振りの剣が描かれた旗が風にはためいている。
護衛たちは門番と言葉を交わし、荷馬車の確認が始まった。
フィオナはその様子をぼんやり眺める。
「また門だね。」
ララが笑う。
「うん。」
フィオナも少しだけ笑った。
二人はまだ知らない。
この門を越えた先で、別々の道を歩むことになることを。
(第八章・中編へ続く)




