多様性ディストピア
Oはフリーライターだった。文に纏わる仕事なら何でもやる。翻訳や都市伝説の取材もした事があった。
最近は海外の自称トランンスジェンダーを取材したものを書いていたが、「差別だ!」とか「放火する!」と脅迫めいた事もされていた。世間のムードに押されて性転換手術をしたものの、当人の思い込みだったと後悔している取材もしたのだが、これが差別だと自称人権派らしき人から脅迫めいた事をされていた。おそらく当事者ではないだろう。取材していて分かったが、当事者は案外控えめで、メディアの取材も受けて貰うのに苦労した。どこか心に影があるような印象だった。
本当に多様性が良いのなら、こんな事にはならないはずだが、今の世の中不寛容。なぜか多様性を推し進めているのに、一つの意見が絶対的な正義のよう。結局、声の大きなものが得しているようにしか見えないのだが。
そんな折、都市伝説の取材で知り合ったSから電話があった。彼もその道のプロらしく、オカルト的な話題はとても詳しい。
「いやあ、O。そんな脅迫受けているなんて大変だな」
「そうなんだよー。でも、そんな性別が変わるなんてあるか? オカルト的には何かあるのかね?」
「まあ、憑依だろうよ」
「憑依?」
自分から聞いたくせに、憑依とか言われると驚く。
「おそらく宿主の本来の性別とは逆の悪霊が憑依し、それが全面に出ている状況ではないか」
「そんな憑依なんてあるか?」
「でも日によって違うとか、完全に憑依だぜ。あと、途中で気が変わって手術受けて後悔している奴もいるだろ? それは何かのきっかけで憑依現象が終わったって事ではないか?」
よくわからないが、人の裏に霊的な存在が操っているという事か? 都市伝説の取材では少女が男性のように怪力を持つ現象を取材した事があった。前世の記憶や宇宙人の記憶を持つ子供にも会った事があるが、取材中は人が変わったよう。何かを受信しながら語っていた。全くあり得ない話でもないのか?
「子供や中学生ぐらいの子は不安定なんだよ。自分への性別の違和感なんて誰にもある。特に女なんて生理がきて胸も出てくるんだぜ? 突然の身体の成長に順応できるヤツばっかじゃないんだよ」
「その全部が生まれつきの障害ってわけでもないって事か?」
「その通り。もっとも生まれつきのような濃厚な憑依現象は我々人間だけの力ではどうしようもないが」
Sの言う事が本当だとすれば、メディアの人間の責任も重大だ。本当はそうでは無いのに、性転換手術させてしまったら、取り返しがつかない。
「しかしこの世はおかしいね。多様性ばっか言ってるのに、何でこんなに不寛容になっているのかね」
「ディストピアだな。もうそろそろ世界も終わるかもしれない」
Sの話はなかなか信じられないが、今の現実を見ると、その可能性もありえない話とも言い切れなかった。




