令和の口裂け女
F男はマスクが嫌いだった。都市伝説、オカルト、陰謀論、ワクチンには全く興味はないが、マスクに抵抗があった。
コロナ禍時もマスクを拒否し、人々から迫害された。どうしてもしたく無い。元々メンタル疾患もあり、呼吸が精神にかなり重要だと知っているからだ。もう完治したが、パニック障害も患った事があり、息が塞がれる状況に恐怖のようなものも感じる。
マスク警察もウンザリだった。偽善でやっているとしか思えない。正義中毒だ。本当にコロナが怖いけどいのなら、わざわざ出歩いてマスク警察をするのは矛盾がある。世の中を良くしたいのではなく、単に自分が正義の立場にいたいだけだろう。
それでも月日は流れ、五類になった。マスクも自由化。ようやくマスクの呪いから逃れられるとF男はホッとしていたが、ある遅番の帰り道。
夜道、女に声をかけられた。
「お兄さん、マスクしてください!」
振り返ると、そこには一人の女。またマスク警察かとウンザリしながら女を見る。
女はマスクをしていたが、変なマスクだった。表面に人間の笑顔の口が印刷されていて、怖い。単にその写真をマスクに印刷しただけのものだろうが、暗闇で見るとホラーだ。口がマスクに張り付いているように見える。
F男は急いで逃げた。怖すぎる。
このマスクはコロナ禍中に開発されたものだ。マスクでも笑顔が見せられるようにと、口の写真が印刷されている。主に接客業の人間は利用していたというか……。
五類になった今は、マスクが手放せなくなった人間がよく購入しているのだそう。今も密かな人気があり、生産業者は潤っていた。中でも口角が上がり、笑顔の口元が印刷されたものが人気らしいが、「口裂け女みたい」と噂されていた。特に夜中に見ると怖いらしい。通称・口裂けマスクという。令和の口裂け女は、こんな風に進化しているんだそう。
ちなみに今はマスクを手放せなくなった人向けの笑顔レッスン講座、歯列矯正、唇の整形なども人気だった。それでも手放せないものは、あの口裂けマスクを購入するという。




