昨今の生贄ブーム
昔、昔の話だ。とある小さな村の姫が生贄として捧げられる事になった。村は飢饉や疫病で壊滅的な状態で、姫の使用人も亡くなっていた。姫の着物や装飾品も徐々に色褪せていた日の頃だった。
それでも姫は絶望感はない。むしろ生贄になる事を望んでいた。村の長老が描いた絵巻では、生贄になった娘が龍神にみそめられ、愛される物語が描かれていた。そんな絵巻を見ていると、生贄儀式で殺されそうになっても溺愛が始まるんじゃないかしら。そんな甘い希望に胸躍る。
姫は蝶よ、花よと育てられた。大事な大事な箱入り娘だった。それ故に猜疑心は壊れていた。生まれつき無いものだったのかもしれない。生贄として捧げられても、あの絵巻のようになるだろう。そう信じていた新月の夜。
神社で儀式が行われた。姫を縄で縛り、火を放つ。
「いやああああ」
姫の叫び声が響きが、村人は誰も助けにこない。姫は火に包まれ、次第に悲鳴も聞こえなくなった。
そこにお望み通り龍神が姿を現す。
『俺が望む事をよくやってくれた。俺は人間が不幸になるのが大好物だ。そこの長老も絵巻を描き、娘を騙してくれた事を感謝しょう。村の飢饉や疫病は等価交換として止めてやる。あははは!』
龍神の笑い声が、ずっと響いていた。
「……っていう新作のプロットを書いたんですが、これも生贄モノになりますか?」
少女小説家・日下部初穂は、電話越しに送ったプロットの返事を聞く。担当編集者と電話中だった。
「いや、こんな生贄モノなんてだめですよ」
「そうですか?」
「生贄にされたヒロインが、なぜかわからないけれど龍神に愛される話にしてください。今はこういう生贄シンデレラストーリーがブームです。まさか陰謀論サイトでも見たんですか?」
「その通りです。カルト信者が幼児誘拐し、生贄儀式して殺してるんですって。カトリック教会の幼児虐待も生贄儀式みたいだって。アイドル事務所社長の性犯罪も生贄儀式だったんじゃないかしら? こんな生贄=良いモノと洗脳するのは、例えエンタメでも魂に悪い影響があるのでは!? 現代の生贄儀式と言われる戦争が現実で起きるのでは!? たぶん再来年ぐらいに戦争始まるっていういう予言を見ましたよ! ちなみに龍神は聖書でいう悪魔です! 生贄の子羊はイエスだけじゃダメなんですか!? 少女が生贄になるのはマリア崇拝の原流の女神崇拝のオマージュですか!?」
初穂は鼻息荒く陰謀論を力説するが、結局編集者が望むようなプロットに変更になった。とほほ。




